39『大事な話ほど裏で勝手に進んでるやつ』

 …まさかこんなことになっているとは。


 ひかるのお母様であるひなたさんとの初会合を終え、帰宅した私を待っていたのは、大量のLINEの通知(主にあかつきさん)と、ひかるがよいあかり名義のアカウントで呟いていたらしいツイートが呼んだリスナー達の反応の数々だった。

 呟いた後から一切ツイートやリプライへの反応がないことを考えると、今は再び眠っているのだろう。実のところ、この事を私自身から言うつもりはあまりなかったのだけれど…こうなってしまっては仕方がない。


 この時間に配信をするのは久しぶりだなと思いながら、帰宅早々準備に取り掛かった。



【雑談】ご報告【オンライブ/獣王百々】

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獣王 百々 

チャンネル登録者数 ~万人

14,319 人が視聴中・0分前にライブ配信開始

#百々ch #オンライブ



『ん、みんなこんばんは。オンライブ三期生、獣王ししおう百々もも。がおー』


【がおーありがたい…】

【こが狂】

【こんばんは百々ちゃ!!】

【おつももちゃ!】

【この時間に百々ちゃが配信してるの久しぶり感ある】


『確かにこの時間に配信するのはかなり久しぶり。コメントでも流れてるから知ってる人もいるみたいだけど、今日はちょっとしたご報告配信』


【ご報告!?!】

【やっと宵と結ばれたのかな?】

【ママと娘が結ばれるわけないだろ!】

【宵がツイートしてたやつか】


『まず、あかりのツイートだけど、あれは夢じゃなくて事実。ちょっといろいろあって、あかりのお母様と話してきた』


 コメントが一気に加速する。さっきまでも十分速かったけれど、今はもはや目で追えないくらいだった。改めて、彼女…あかりの話題性の高さを実感する。とはいえ、内容はなんとなく推測がつくので気にせず話を続けようとして…少しコメントの毛色が変わったことに気づいた。


【ん?】

【仄ちゃん!!】

【今仄ちゃんおったな】

【そら来る】

【リプライですごいことになってたからね…】


『暁さんが?』


 どうやら暁さんがコメントにいたらしい。一瞬で流れたらしく気が付かなかった。一応LINEは返していたはずだけれど、この分だといっそ通話してみるべきかもしれない。私の配信を見ているのならおそらく通話できる状況だろう。それに配信の場でなら少しは冷静に話してくれる…はずだ。


『ちょっと暁さんに通話してみるね』


【ヤバそう】

【大丈夫かな仄ちゃん】

【一周回って冷静になってる可能性もある】

【ももほの深夜コラボ】


 通話をかけると、暁さんは案の定すぐに出た。


『ど、どういうことですか!? あかりちゃんのお母様とお食事だなんて!!』

『どうどう』


【どうどうで笑う】

【猛獣かな?】

【大声でも声は清楚なのすき】

【宵を与えないでください!】


 耳元で響いた大音量に耳が痛くなりながらも、なんとか暁さんを落ち着けようと試みる。…が、あまり効果はなさそうだ。早く話してください、いいから! と息荒く詰め寄ってくる。あかりがいたら狼狽えながらもちょっと喜んでいたかもしれないな、などと考えながら、早々に落ち着かせるのは諦めて話を進めることにした。


『ん、確かに食事をした…というか、お母様の手作り料理を出して頂いたけれど、それほど大した話はしてない。ちょっと…』

『ちょっと、なんですか??』

『あかりのことをこれからもよろしくお願いしますとお母様から任されただけ』

『』


【やっぱり親公認じゃないか!】

【ももよいは親公認!?!?!】

【つまり…公式カプってコト!?】

【仄ちゃん絶句しちゃった…】

【ほの、よい…】


『よく聞いて、暁さん。暁さんには暁さんにしかできない、あかりへの寄り添い方があるはず』

『つ、つまり、私は…』


 暁さんも分かっていたらしい。意外にも早く再起動を果たした暁さんがそうか、と言わんばかりに声を出した。そう、私が保護者だとすれば暁さんはあかりと対等の立場の友人で…。


『ぱ、パパ、ということですか…!?』


 友人で…えっ。


『えっ』

『いえ、そうですね、分かりました。今は仕方ありません…それにこれもあかりちゃんのためです。私は…私が、あかりちゃんのパパになります!』

『ええ…』


【ええ…?】

【私 が パ パ に な り ま す】

【コメントと百々ちゃの心が一つになってる】

【仄ちゃん…】

【まあ仄ちゃんもオンライブやし…】

【※宵絡みの時だけです】


『まさか獣王さんのことをママと呼ぶことになるなんて…いえ、あなた、とかの方が良いのでしょうか…?』

『あ、あの暁さん…』

『暁さんはやめましょう、ほのかと呼んでください。そうだ、そうですよ! 私も百々と呼ぶので、呼び方はそうしましょう!』

『呼び方はいいけど、そうじゃなくて…』

『今のところは、これで納得しておきます。私達二人であかりちゃんを見守っていきましょうね、百々!』


 そう言って、暁さん…仄は通話を切ってしまったようだった。


『うんまぁ…今、仄と話した通り。だからと言って何が変わるわけではないけど、ご報告。…ちょっと、いやかなり仄に持ってかれた感じあるけど』


【ぶっちゃけ仄ちゃんが全部持ってったね…】

【百々ちゃすごい声疲れてるな】

【仄ちゃん強くない??】

【恋する乙女は強い】

【仄呼びてぇてぇ…はずなのに】

【ママとパパと姉と娘と弟子が同期にいる系TSVtuber宵あかり!??!】

【過積載じゃなくてもう事故なんだよなぁ】


 あかりのためにもなんとか仄の今日の誤解だけは解かねばと考えながら、より一層速くなってしまったコメントを見送る。

 …でも結局あかりのことだから大変なことになってしまうんだろうなぁと、半ば現実逃避気味に思うのだった。

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