20『【コラボ枠】推しの間に挟まるな宵【宵あかり/柚月ゆいな/暁仄】part1』

『──今回は結構急な話になっちゃってごめん』


 口調こそ違うが、画面の向こうで聞いていたあの声が耳元へ語り掛けてくる。


『あっ、い、いえ…』

『最近こういうことばかりみたいだから。疲れてたらちゃんと言ってね』

『はい、ありがとうございます…』

『あかり、緊張してない?』

『緊張は…正直してますけど』

『………』

『あかりなら大丈夫。私とのコラボも上手く行ったし、あかりは出来る子だよ』

『…………なんで』

『それじゃあ、コラボの内容確認…と言っても概要読んできてるとは思うけど──』

『なんで獣王ししおうさんがいるの!!!!』


 「ふゃっ」と変な声が出てしまうくらいの大きな声が響く。一瞬放心しそうになったが、内容が内容だったので、なんとかフォローのために声を出した。


『ご、ごめんなさい…えと、獣王さんはわ、わたしが…』

『あかりに呼ばれた』

『ディスコで言ってたでしょ。コラボ自体には参加しないけどーって』


 さすがに諸々都合もあるので初めみたく毎度歌枠ではないが、それでもなんやかんやで獣王さんとはここ最近毎週コラボさせられている。…どうも獣王さんはこれを継続的にやっていくつもりのようで、加えてマネージャーさんも大賛成と来たものだからいつもの如く逃げ場もなかった。

 とはいえ獣王さんとのコラボはかなり楽なんだけどね。オレが会話デッキを考えなくても獣王さんが話題を振ってくれるし、会話のペースもオレに合わせてくれているのか話していても負担にならないし。それにいろんな事を教えてくれるしな、獣王さん。ちなみにコメントとかTwitterでは『宵と学ぶシリーズ』とか言われている。あのさぁ…。


 まぁ、そんなこんなで獣王さんはオレが母親以外で(比較的)まともに話せる希少な人なのである。


 本当なら防波堤として今回のコラボにもいてほしかったくらいだ。でも獣王さんには獣王さんの配信がある。…というわけで、せめて事前の通話に参加してくれないかと頼んだら即「いいよ」と言ってくれたのだった。

 なんでもかんでも褒めてくるのはアレだけど、甘えても怒らないし、コミュ障なオレにも大変優しい。ありがとう獣王さん…いや、百々ちゃ…。


『あ、あかりに呼ばれたって…どんだけ頼りにされて………ふー……そうだった。ごめんねーあかりちゃん、大声出しちゃって』

『まぁ、私らほとんど初対面みたいなもんだしね』


 話せる人が一人でもいると安心できるってのは分かるよ、とゆいなちゃんが空かさずフォローしてくれたが…二人には悪いことをしてしまったかもしれない。けどオレもオレで死活問題なので許してほしいし獣王さんがいいと言えばたぶん次回以降もやると思います。


『で、さっきの続き。もう知ってるだろうけど、今回は夏ってこともあってホラゲーやるってことになったから。…ちなみにホラーとか平気?』


 この質問はまず間違いなくオレへの質問だろう。

 タイトルを見てみると、某有名なバイオがハザードするゲームだった。

 まぁ、ビックリしてしまう、というのは体の反応だから仕方ないとして、この手のホラーゲーム自体は別に怖くもないし苦手ということもない。TSしてこうなってからはないが、古いシリーズは前にやったことがあるし、動画も見たことがある。よかったー! 下手に雑談が続くよりは安心できそうなコラボで!


 大丈夫です、と心なしかいつもよりしっかりとした声でゆいなちゃんに返す。ゲームしてればいいんだろ? 最悪話しかけられても集中してたって言えば逃げ道にもなるしな! あとは推しカプのてぇてぇを間近で見守っていればいいのだ。はい、よゆーよゆー!


 ……しかしさっきからなんか妙に寒気がするな…。クーラーの温度が低すぎたかな?



#アカリウム #オンライブ

【コラボ枠】推しの間に挟まるな宵【宵あかり/柚月ゆいな/暁仄】

 11,331 人が視聴中・0分前にライブ配信開始

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 宵 あかり 

 チャンネル登録者数 74,890人



『こんゆいゆいー!!!』

『ふふ、こんほのかー』


【ぎゃあああああかわいいいいいいい!!!!】

【これマジ?仄ちゃんかわいすぎるだろ…】

【こんほのか狂おしいほど好き】

【こんほのかで救われる命がある】

【あれ宵は???】

【宵】


『ほらほらっ! コメントでも言われてるよ! あかりちゃんも!』

『うう…こ、こんよいよい……』

『聞こえない! もう一回!』

『こっ、こんよいよい!!』


【うるせえ!!】

【あざといぞ宵】

【恥ずかしがるTSっ娘からしか接種できない栄養素を感じる】

【正直可愛いので定期的にやれ】

【こんよいよいは絶対流行らせろ】

【宵きちんと挨拶できてえらいねぇ】


 …まさか配信前に話していた挨拶を合わせよう、というのがオレに対してもだったとは思わなかった。ほのかちゃんとゆいなちゃんが二人で盛り上がっていたから、てっきり二人でやるものだとばかり。だってゆいなちゃんが挨拶合わせようと言い出した時、仄ちゃん凄い勢いでやろうって賛成してたし。やっぱり仲良しなんだなぁ、と思っていたらこれだ。開幕早々、随分と精神力を使った気がする。それはそれとしてこんほのかすこすこのすこ。


『というわけで、今回はこの三人でやっていくよー!! わーぱちぱち!!』

『ゆいなとは何度かコラボしましたが、あかりちゃんとは三期生みんなでやった時以来ですね。よろしくお願いしますね、あかりちゃん』

『あっ、は、はい…』

『さっきの挨拶、すっっごく可愛かったです。さっき流れていたコメントではないですが、定期的に聞きたいくらい』

『あ、えと、ありがとうございます…』

『やっぱりあかりちゃんの声、とっても良いですよね。この前の歌も…』

『はいはい、そこ二人っきりでイチャつかない!  私もいるんだからね! でも確かにあかりちゃんの歌は私も良かったと思うなー!』


【ほのよいゼミが羽化しそう】

【毎秒ほのよいしろ】

【ほのよいてぇてぇ…】

【そうなんだよなあかりは歌も上手いんだよ】

【後方彼氏で草】

【宵じゃなくてあかりって呼ぶと途端にガチ感ある】


 獣王さんもそうだけど、この人達すぐ褒め散らかしてくるな…。嬉しくはあるのだが、なんというか妙に落ち着かない。コメントに助けを求めようかと目を向けるが、こちらもこちらで【ほのよいてぇてぇ】だの訳の分からないことを言っていた。てぇてぇのは「ほのゆい」なんだよなぁ…。オレは百合の間に挟まる気は毛頭ない。


と、なれば。


『あっ、あの! そ、それで今日は…何するんですか?』


 と、なんとかこちらから声を出して流れを変えることにする。よし流れ変わったな。かつてなら間違いなくできなかったムーブだ。我ながら圧倒的な成長を感じる。


『あっ、そうだったそうだった! 今日はね、夏だし恐怖体験で涼しくなろう、ってことで、三人でホラーゲームをやっていくよ!』


 と、ゆいなちゃんが言うや否や、チャット欄が騒がしくなった。


【ホラゲーとか大丈夫か宵】

【ガチ泣きしそう】

【ホラー耐性皆無そうなのがいるんですが】

【絶対ヤバい(確信)】

【絶対宵うるさいじゃん…】


 お前らさぁ…。


『ホラー耐性くらい人並みにあるわ! お前らこそガチ泣きしても知らないからな!』


 絶対前振りだろ、だの宵がホラー強いのは解釈違いだのいつものごとく好き勝手である。

 てかなんだよガチ泣きって。怖いの見て本気泣くのは小さい子くらいなもんだろ。


『あはは、相変わらずコメントと仲良いね! じゃ、早速始めちゃうけど…誰から操作する?』

『私はあまりゲーム自体やらないので…初めの方が簡単そうなら私からやりたいです』

『確かに序盤は敵少なめだしいいかもね。あかりちゃんもそれでいい?』

『は、はい、大丈夫です』


 そんなやりとりがあって仄ちゃんから始めることになった。独特なイントネーションのタイトルコールが挟まり、ゲームが始まる。いとも簡単に堕ちるヘリに、大きな洋館。ムービーは綺麗だが、後の方で恐怖を煽るためなのか敵の姿はまだはっきりとは描写されていないようだ。…なんだか少しドキドキしてきた。結構臨場感あるな。さすがに有名タイトルなだけはある。


「It looks like we willこの建物に入る have toしかなさそうだ enter this building」

「I don't like the嫌な雰囲気だぜ… vibe here...」


『いかにもな感じですね』

『ね、雰囲気ある!』

『そっ……そうですね…』


【安定のヘリくんすき】

【イッヌ怖すぎる】

【宵声震えてんぞ】


『ふ、震えてないが!? …ひっ……!?』


 ゴン、ゴゴンッ!!!


 仄ちゃんが操作するキャラクターが洋館へ入ると同時に、どこかの扉から轟音が響く。……ちなみに今の声はうわビックリしたー! 的な声であってね?? リアクションだよリアクション! …声は極力抑えたから聞こえてない……はずだ。


『おーなんかすごい音したね。』

『今の音がした部屋に向かえばいいですか?』

『いいんじゃない? 音したからには何かいるんだろうし。ね、あかりちゃん!』

『ひゃっ……! ん、んん…!! は、はい』


【エッッッ】

【ひ ゃ】

【宵と対照的にクソ冷静な二人で草】


『だ、大丈夫、あかりちゃん?』

『は? 声可愛すぎか…?? 音がしたところを調べに行くのはもう少し後にしましょうか! このホールにも何かあるかもしれませんし』

『だ、大丈夫なので! お、音のした方から先に……!』

『そ、そうですか? ではそちらへ行きますね』


 落ち着くために深く深呼吸をする。やたら心臓の音がうるさいし、寒気も消えない。ピッピッと再びクーラーの温度を上げる。しかし寒気は収まらない。…それどころか謎の冷や汗まで出てくる始末だ。なんだろうこれ、風邪か? 風邪でも引いたのか??


【まだ何も出てきてないのにビビりすぎじゃないですかね…】

【深呼吸助かる】

【荒い呼吸助かる】


『確か音がしたの右手側の扉だね』

『では開けますね』


 ギィィィ……


「It smells terrible酷い匂いだ…ん?...hmm? Is that a human誰かいるのか? being? Hey!おい! It's a外は big mess大変なこと out there!になってる! Sorry to barge勝手に入っち in hereまってすまないが… without permission, but... help me手を…ッ!?...!!?」


 重なっていた人影をよく見ると、片方はまるで食いちぎられたような傷がそこらかしこに。もう一人は……


「ヴゥァァァ」


 もう一人は、ぐちゃぐちゃで……人を、食っていた。


『ぴぃ!?』


【初遭遇ゾンビ】

【宵とゾンビが共鳴してて草】

【期待通りのリアクション】


『あかりちゃん、私がすぐ倒しますから!』

『おっ、仄やる気まんまんだね! 頭狙うといいよ、頭!』

『うううう……怖くない、怖くない……』


ダン、ダダン


『ひゃっ!!?』


【仄ちゃんが撃った銃声にすらビビるのか…】

【お前それプレイヤー側の銃声やぞ】

【仄ちゃん迷いないダブルタップ】

【音のなる玩具かな??】

【ゾンビも困惑してそう】


『あ、あれ? まだ生きてますね』

『まぁゾンビだから元から生きてはないけど……当たり所がイマイチだったかな? おっ噛まれる』


 プレイヤーの操作するキャラクターをゾンビが掴むとゾンビの顔がアップになる。グロテスクな顔が画面いっぱいに広がって……


『────きゅう…』

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