14 『大丈夫?って聞かれる時はだいたい大丈夫じゃない』
「──気をつけー礼」
「「ありがとうございましたー」」
日直の号令に合わせて、その日最後の授業の挨拶が教室に響いた。
「部活ダルすぎ」
「な。でも今日確か顧問いなかった気するわ」
「マジで? じゃあもうテキトーに流すか」
「ね、このあとカラオケ行こ。あ、今日当番だったっけ?」
「そうそう。だからさー、悪いけど終わるまで待ってて?」
「しょうがないかー。いいよ」
それが終わってしまえばお待ちかねの放課後だ。
部活動に委員会…あるいは友達と教室で駄弁ったり、そのまま遊びに行ったり。
いずれにしても大抵の生徒が多少の文句を混ぜながらも、わいわいと楽し気にしているものである。
そんな中、一人せっせと無表情で帰り支度をしているのがオレだった。
普段なら心の中では「楽しそうにしやがって! こちとら放課後だろうがなんだろうが話す相手のいないぼっちじゃい! てか教室の出入り口で話し込むな! 帰れないだろうが!!」と悪態を吐くところだが今日のオレは一味違う。
なぜなら今日は。
(久しぶりのお休みじゃーーい!!!)
そう、今日はお休み、お休みである!
学校来てるのに何言ってんだこいつ、と思われるかもしれないがお休みというのは
…というか今思うと学校行って、帰って数時間後には配信ってすごいハードスケジュールなのでは?? オレってもしかしなくてもめちゃめちゃ頑張ってるな…。
(まぁ、何にせよだ!)
少なくとも今日のところは「ああ、あと数時間で配信か…」と憂鬱になることもなければ、覚悟を決めるための精神集中タイムを設ける必要もない。
(とりあえず帰りの電車で今日ある配信スケジュールのチェックを…いや、誰かしらゲリラやってるかな? それでそれ見ながらまとめサイト周回してごろごろ!)
こうしてオレは意気揚々と教室を後にした。
…それはそれとして入口を塞ぐのはマジのマジでやめてもらいたい。
◇
家に帰って時間を見てみれば、もう午後五時近くを回ろうとしていた。
最速で帰宅できていれば四時ちょいには着いていただろうに…教室の出入口で
ほんとあいつらよくあんな軽いノリで遊びに誘えるもんだな、と感心してしまう。そのうえ断ってもまっっったく興味のない雑談──ちなみにオレはほぼ「あー…」だの「そうですね…」だの言っていただけだが──が続くのこれもう拷問か何かだろ。
最終的に他の女子グループが割り込んできてくれたからよかったものの、そうでなかったらこの雑談よりかマシ、とついて行ってしまっていたかもしれない。
「せっかくのお休みだってのにさー…」
Twitterを見ていたところ、今日はこの後五時から
パパっと自室で楽な恰好になるとリビングへ行き、戸棚と冷蔵庫を漁って宴の用意をする。
それが終わってソファーに飛び込んだ頃には獣王さんの配信が始まっていた。
『ん、みんな来てくれてありがとう。オンライブ三期生、獣王
【ももちゃ!】
【今日もよろしく(本日三回目)】
【このゆらゆら尻尾が俺を狂わせる…】
【こ尻狂】
【この眠たげなおめめが俺を…】
【こいつらいつも狂わされてるな】
【狂わされてるリスナー多すぎない?】
【ゲリラありがたい…】
『今回は雑談枠。ちょうど話したいこともあるから』
【話したいこと??】
【この間のコラボの話かな?】
【雑談は電車でも聞きやすいからもっとやって♡】
テキトーにチョイスしてきたお菓子をつまみながら配信を見る。コメントを見るにどうやら今日既に三回目の配信らしい。後でそっちもアーカイブから見るとしよう。
…実のところ他のライバーの人達の配信を含めて追い切れていないものがかなり溜まっていたりするのだが。これもアクティブな推しを持つリスナーの贅沢な悩みというやつである。
そんなことを考えながら雑談を聴くことしばらく、ふとソファに投げていた社用のスマホが震えた気がした──が、見なかったことにした。
だって今のオレはお休み中だし。大方マネージャーさんからのお小言だろうから、今見ようが明日見ようがそう変わらない。嫌な気持ちになるのは明日の自分に任せて、今は配信を楽しむのが優先だ。
再び獣王さんの配信に意識を戻すが…
『…ん。ところであかりちゃんとあかりくん、みんなはどっち派? 私はあかり派。私は同期。下の名前で呼び捨てでも問題なし』
【唐突で草】
【と こ ろ で】
【同期の特権を活かしていけ】
【この間あかりちゃんの配信見に行ったらほぼ宵って呼び捨てられてて笑った】
【今日配信ないはずだしあかりくんならこの配信見てそう】
【↑確かに】
……。なんだか、雲行きが怪しいような…?
『あかり、見てる?』
いきなり名前を呼ばれてビクっとする。しかし、さすがにこれは出て行かなくても大丈夫…のはずだ。
そりゃあオレが休みなのは獣王さんだって元より知っているだろうが、配信を見てるとまではバレてないだろうし。
『出てこなくてもいいから、もし見てたらスマホを見てくれたら嬉しい』
スマホ…? スマホって社用の方のだよな? さっきなんか鳴ってたけど…うっ、なんだか急に
嫌なことは明日の自分に、とさっき考えたばかりだが、わざわざこの場で言うのは…何か急用かも…?
(ちょ、ちょっとだけ見てみよう)
もう見ようが見まいがどっちにしても、結局気になって配信に集中できそうにないし!
ついさっきまで軽やかだった気分が嘘のようだ。鉛のように重くなった手を伸ばしてスマホを取り、画面を覗き込むと──
宵あかり✓ 【nんですかこれ!!1!】
【あかりちゃんおるやんけ!】
【あかりくんだぁぁ!!】
【マジで見てたのか草】
【誤字ってるぞ宵】
【すげえ焦ってるのが伝わってくる】
【あかりちゃんどうしたの??】
『よかった。見てくれたんだ』
宵あかり✓ 【みましたけど!!!!11!】
宵あかり✓ 【これこ】
宵あかり✓ 【なんで???????】
【なんて??】
【落ち着いて…】
『ん、この前のコラボの時も言ったけれど、私とあかりは同期。もっと砕けた感じで大丈夫。具体的には敬語はいらない』
宵あかり✓ 【え】
宵あかり✓ 【いや】
宵あかり✓ 【それはちょっと】
『………ん、そっか』
【配信始まって以来の悲しい表情】
【宵、お前…】
【この力無い尻尾が俺を狂わせる】
【百々ちゃ…】
【許さんぞ宵あかり!!】
宵あかり✓ 【いやあの違くてですね!?】
『ふふ。ん、分かってる。今はそれでいいよ。少しずつ仲良くなれたら嬉しい。そのためにも──』
『約束通りコラボ、しよ?』
◇
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宵あかり 20xx/06/26
はい、すいませんでした…
─────20xx年6月26日─────
マネージャー 20xx/06/27
お疲れ様です。お休み中のところ申し訳ございません。
マネージャー 20xx/06/27
急になってしまい大変恐縮ですが、獣王百々さんとのコラボの件でご連絡させていただきました。
マネージャー 20xx/06/27
こちらの件なのですが、獣王さんの方が強く希望されていまして。
マネージャー 20xx/06/27
是非前向きにご調整いただければ幸いです。以下、現状決まっております内容をご共有いたします。
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│マネージャーへメッセージを送信
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