12 『【オンライブ】三期生全員集合!デビューから今日までの振り返り配信!!【初コラボ】part2』

『――それでは自己紹介も済んだところで…さっそく本題に入っていこうかの?』

『おー!』

『ん』

『そ、そうだな!』

『ええ』


 というわけでようやく長かった自己紹介も終わり、本格的にコラボがスタートしたわけである。

 正直言ってオレはすでにお腹いっぱいな感じなのだが…。

 場は運営から直々に司会を任された、魔王だが常識人な世統よすべまおさんが回してくれていた。


【「おー!」すこすこ】

【返事は大事】

【宵】

【草】


 相も変わらずチャット欄は言いたい放題だ。たまに優しいコメントが混じっているのがむしろ新鮮な感じすらある。


『ではさっそく一人目、三期生初コラボの記念すべきトップバッターは紅葉もみじじゃ。頼んだぞ?』

『なっ!? わ、私からか!? ええと、そ、そうだな…』

『こうよーはなんて言うか、しっかりやろうとして毎回失敗してる気がする』

獣王ししおう!? いきなりなんてことを言うんだお前っ!? あと私の名前は「」ではなく「」だ!』

『ていうか一回カンペ? メモ? みたいなの配信画面に映っちゃってなかったっけ?』

『あ、あれは違うんだ…!』

『分単位でこうしたい、ああしたいみたいなのが書いてあったやつじゃな』


【こうよー】

【さっそく草】

【カンペバレは様式美みたいなもんやし…】

【分単位で!?】


 ああ、リアルタイムでは見れなかったけどその回はオレも見た。というか、オレが彼女に親近感を抱くきっかけになった回である。

 それと同時に、ああ、やらかしてるのはオレだけではないんだなぁ…とちょっぴり安心したりもした。


 …それにしたってオレ以外の三期生メンバーはどこか和気藹々としていて物凄く馴染んでいるように見える。よくよく考えれば必要最低限、回ってきた内容を返せば発言なしという事態は避けられそうだし、このまま壁に徹してコラボを眺めているのが正解ではなかろうか??


 …などと思っていたら


『まぁ、その手の話じゃとここにさらに高火力なのがいるわけじゃが。のう、あかり?』

『え゛っ!?』


 えっ、ちょっと待ってそこからオレに飛んでくるの!?!??


【三期生の火力枠】

【つよそう】

【もっと汚い声出していけ】

【もっとかわいい声出せ】


『寝落ちの配信はすごかったねー!』

『一期生、二期生の先輩達も見に来てた』

『大丈夫です、あかりちゃん。確かに配信を切り忘れたのはよくなかったですけど、とっても可愛らしい寝息でしたから!』

『ひ、ひええ…』


 先輩方がアレ見てたとか思いっきり初耳なんですが!?

 ちなみに誰が来てたんだろう。怖いもの見たさではないがちょっぴり興味がある。

 …あとであの日のオレのTwitterのリプ欄に貼られた切り抜き達から探してみるか。あそこは大体のもんが揃ってるからな、忌まわしいことに。


『ではお次は誰にしようかの?』

『はい! はーい!! 私! 私が喋りたい!』

『わかったわかった。では次はゆいな、頼む』


 せがまれる形でトーク権がゆいなちゃんに渡る。

 先程は思わぬところで被弾してしまったが、今回こそ大丈夫だろう。

 …本当に大丈夫か? なんかマシンガントークからいきなりこっちに飛んできそうな予感がしないでもない。一応身構えるだけ身構えておこう。それで何が変わるわけでも正直ないけど。

 そんなことを思いながら再び物言わぬ壁になろうと耳をすます。


『おっけー、任された! 私はゲーム配信をメインでやってるけど、今後はそれ以外の内容も増やしていけたらなーって思ってるよ!』

『ふふ、ゆいなは絵を描くのも得意ですから、そういった配信も楽しそうですね』

『ゲームが上手いだけではなく、イラストも得意なのか。すごいんだな…』

『えへへ、絵の方はゲームほど自信ないけど、ほのかが言うならやってみよっかなー』


 えっ、この二人呼び捨てで呼び合ってるの?? というかゆいなちゃんが絵が得意なのを知ってたり、もしかしてVになる前からの知り合いだったりするのか?

 清楚な仄ちゃんと活発ギャルなゆいなちゃん、見た目も映えるし絡まないかな…とは思ってたけど…マジで? なにそれ超てぇてぇじゃん…。


『あまりゲームはやらぬからよく分からんのじゃが、スパスパと敵を倒していくのは見ていて壮観じゃよな』

『まおーちゃんゲームあんまりやらないんだ?』

『まぁ、まったくやらんというわけではないんじゃが…というかなんじゃ「まおーちゃん」とは。我は世を統べる偉大なる魔王様であるぞ!』

『そういえば、まおー様の国とか、そういう周りの設定よく分からない』

『設定というでない、設定と! よいか、我は元々この世界とは異なる世界で魔族の国を治め、魔王をしていたのじゃ。しかしある日我が城を訪れた勇者によって臣下もろとも倒され、力を封印されてしまったのじゃ』

『あーそれでそんなにちっちゃくなっちゃったんだー』

『なるほど、そうだったのか』

『納得』

『やかましいっ! 我の身体が小さいのは元からじゃ! …で、あれじゃ。力を封印された我はなんとか最後の力を振り絞ってこちらの世界へやって来た。今はこうして力を取り戻すまでの余興と、新たな魔王軍を作るための臣下作りにVtuberをやっている、というわけじゃ』


【草】

【ちっちゃくないよ!】

【勇者しばくべし!】

【はえー】


 一応知ってはいた設定だが、改めて聞いてもなかなかに濃ゆいキャラ設定だな、まおー様。

 まおー様のリスナーたち、魔王軍臣下の人たちはかなり熱意のある人たち…というか、変わった人たちが多いらしく、デビューして一月経っていないくらいなのに度々話題になっている。

 オレがネットで見た話だとまおー様の踏み台になるべく毎日壮絶な筋トレをし、それを動画にしている狂信的な臣下の話やら、まおー様のために本物の魔王城を作ろうとしているこれまたヤバい臣下の話などなど。こっちでもそのうち本当に魔王軍が出来上がってしまうかもしれない。


『次じゃが、流れが流れじゃしこのまま我が喋るとするかの』

『どんどんぱふぱふー』

『いけー! まおーちゃん!』

『だからまおーちゃんではないと…。まったく…まぁ、よい。で、我の配信に関してじゃが…うーむ、正直言って可もなく不可もなく、と言った具合なんじゃよな』

『雑談もいつも面白いですし、とても良いかと思いますが』

『そう言ってもらえると嬉しいが、何というかもう少しインパクトが欲しいとも思っておる』

『あー、あかりちゃんみたいな?』


 油断してたらなんかまたオレに話題が飛んできそうになってるんだが!?


『ま、まおー様はえっと、今のままで良いと思い、ます…!』

『ん、そうかの? というか、その呼び方的にあかりも我のリスナーなんじゃな?』

『は、はい…あんまり生では見れてないけどアーカイブでは全部追ってます……!』


 被弾回避のための発言だったが案外普通に会話できてるぞ…!

 本当に軽い、ちょっとした会話ではあるが自然な返しができた達成感に心がふわふわする。やっぱりオレはやればできる子なんだよなぁ!


『なんじゃ、話してみると案外まとも…』

『そのロリプニっとした身体を全面に出した衣装とか、頑張って威厳を出そうとしてるけど結局やっぱり可愛いお声とか! あ、あと、たまに「我」じゃなくて「うち」って言っちゃうところとか本当に大好きです!』

『は、はぁ!? うちとか言ってないし!』

『あっ、スイマセン、スイマセン…!』

『あーわかる! まおーちゃん素が出ると「うち」って言うよね!』

『ふふ、イントネーションも可愛らしくて良いですよね』

『だから言ってないし! …じゃなくて言っとらん! もうよい、次じゃ次!』


 これは…セーフ、か?

 ちょっと調子に乗りすぎて内なるオタクが顔を出してしまったが、ゆいかちゃん仄ちゃんのおかげで矛先が逸れたようだ。ありがとう、二人とも…! あと息ピッタリでやっぱりてぇてぇな。正直毎秒絡んでほしい。


『それでは私が。そうですね…私はここまで雑談をメインでやってきましたが、もう少し新しい方向の事もやっていきたいですね』

『ん、例えば?』

『私の配信のコメントでも最近よく上がっている、ASMRなどができたら、と…』


 えっ、エーエスエムアールッ!?!?


ガタッ!!


『うおっ、なんじゃ今の音』

『えっ、誰? ていうか大丈夫?』

『結構な音がしたが…』

『あ、お、オレです…大丈夫です…』


 ヤバいヤバい…大興奮のあまり思いっきり立ち上がってしまった。

 だってASMRだぞ、ASMR ! それも仄ちゃんの!


『そ、それで…仄ちゃ…あ、あかつきさんがASMRを…?』

『はい、挑戦してみようかと。ふふ、そういえばあかりちゃんも私にASMRをやって欲しいって言ってくれていましたね?』

『あっ、それはその…えっと、はい…正直めちゃめちゃやって欲しいです…!』

『分かりました。あかりちゃんの為にも頑張ってみますね! 披露するときは真っ先にあかりちゃんにも聴いてもらいますから!』

『は、はい…!』


 これマジ? 推しのサービス精神が旺盛すぎるだろ…。


『ふふ約束ですよ? ………よし!


 さすがに一番に、というのは社交辞令だろうが、嬉しいものは嬉しい。配信で振舞われる機会が来たら是非とも生で見たい…いや、聴きたいところだ。

 ついでにチャット欄も大喜びのようだ。何やら上から目線でオレを褒めるコメントもちらほら見られる。まったくもって現金なやつらである。


『仄終わり? なら、次は私』

『はい。お願いします、獣王ししおうさん』


 と言ったところでターンが獣王百々さんに回る。


『と、言っても獣王はのぅ…』

『昨日の配信ではギターの演奏をしてましたし、多芸ですよね』

『かっこよかったねー!』

『案外、優等生というか、ツッコミどころがないというか…』


 そうなんだよね。獣王さんはダウナーな雰囲気と眠たげな瞳こそしているが寝落ちも居眠りもしていないし、なんなら毎日のようにゲリラ配信もやりまくっている超活動的な人だ。


『ん、こうよーと違って本物の優等生。どや』

『だから私の名前はこうようではなくもみじだと言っているだろう! それに私だって私なりに頑張ってだな…!』


【どや(表情変わらず)】

【優等生(見た目だけ)やぞ】

【ドヤ顔ダブルピースキメていけ】

【さては仲良しだな??】

【尻尾ぶんぶん】

【オスのライオンは怠け者なんじゃ】


『ん、縄張りはオスのプライドそのもの。縄張りを守れなければ野垂れ死ぬか放浪の旅に出ることになる。怠けてる暇はないし、普通にハードモード』

『その合間にあんなに配信やってるのってすっごい忙しそう』

『ん、まぁまぁ』

『まぁまぁなのか…』

『それで一応聞いておくが、獣王は個人的に反省点ややってみたいことはあるかの?』

『反省点と言えば、実は私も運営の人から怒られた』

『えっ!? なんで??』

『配信のやりすぎ、らしい』


【あー】

【確かに】

【わりといつ見ても配信してるまである】

【嬉しいけどちゃんと寝て…】


『言われておるぞ?』

『身体を壊してしまったら元も子もありませんからね』

『そうだよ! 身体は資本!』

『優等生だというならば身体にもしっかり気を遣え』

『…ん。気を付ける』


 と、壁になって推し達の配信を楽しむことしばらく、チャット欄がにわかに騒がしくなった。

 …今日何度目かの嫌な予感というやつがする。

 意を決して目を向けてみると…


【いけ宵】

【宵出番だぞ】

【宵の間合い】

【草草の草】

【同期としての利点を生かしていけ】

【(頼んだぞ宵…)】


 おっ……!!


『おばか!!』


 ようやく壁らしくなってきてたってのに今度はお前らか!!!


『あはは! あかりちゃんってリスナーさん達と仲いいよね!』

『これは仲が良いっていうのか…?』

『出番と言われておるが何のことじゃろうな』

『あー…それはその…』


 すっとぼけたい…すっとぼけたいが…。

 ちらりと再びチャット欄を見る。勢いは変わらず、いや、それ以上の速さだ。

 人が本気で助けてほしいときはロクでもないことしか言わないくせに、こういう悪ノリのときばかり一致団結しやがって…! そもそもわざわざオレが言わなくてもお前らが自分で言えばいいだろうに!


『あかりは何か、私にやってほしいことがあるの?』


 こんなのばっかりだ。けど、そう、一言、一言喋ればいいだけ…さっきまおー様のときにはできたんだし、大丈夫なはず…!


『――歌、とか』

『え?』

『そ、その、歌配信とか…どう、ですか?』

『あかりは私の歌配信、聴きたい?』

『めちゃめちゃ聴きたいです』


 めちゃめちゃ聞きたいです!!


『そっか。ん、わかった』


 やったぜ、これで推しの歌配信を聴ける――


『じゃあ、一緒に歌配信、やろう?』

『はい! …はい??』

………はい!??


 はい!??!??!?


『いいねー! 歌配信! 二人とも声すっごく良いし!』

…………………………………………………い、いや、でも考えようによってはあかりちゃんの歌を聴けるし…それにコラボの約束は私だって…そ、そうですね』

『あっ、あのあのあの』

『ん。コラボについては、あとで二人で。次はあかりの番』

『それがよさそうじゃな。残念ながらちと時間も押しておるしの』


 拒否する間もなく話題が流れていったが、これマジでコラボするの?? だってコラボってそんな簡単に「よしやろう!」で決まることじゃなくない? もっとこう…仲良くなった先にあるもんなんじゃないの…?

 やっぱコミュ強連中はそもそも住む世界、いや次元が違うようだと再認識する。この先オレが彼女達の生態を理解できる日は来るのだろうか…。


『あかりは今日までの配信を振り返ってみてどうじゃ?』


 と、現実逃避している場合じゃなかった。なんと言ってもまだ配信は終わっていないのだ。遠くのコラボよりも今は目先のコラボである。

 で…確か反省点? だったか。反省点、反省点ね…。


『は、反省点しかなくない…?』


【草】

【さすがに草】

【そうだよ】

【さすが初手TS暴露は格が違った】

【反省するしないのレベルではない】


『草じゃないんだが??』


 まぁ、事実以外の何物でもないけど! それでもこう、自分で言うのと他人に言われるのとじゃ全然違うじゃん? しかも言ってきてるのは人を散々切り取って消えないネット魚拓にしてきた連中なわけで!


『あかりちゃんどーどー。あはは、でもあかりちゃんは配信を楽しんでるって感じがして私は良いと思うけどな!』

『そうですよ。あかりちゃんは今のあかりちゃんのままで大丈夫です!』

『だが自分の配信中に先輩方や私たちの配信を堂々と見始めるのはどうなんだ…?』

『ひえ、ごめんなさい、ごめんなさい…』

『ん、楽しそうだからおーけー』

『ええ…』


【ええ…】

【まおー様と視聴者の心が一つになりましたね…】

【今の一瞬まおー様完全に素で草】

【まおー様をドン引きさせられる稀有な存在】


『まぁ、その辺はすでに注意を受けておるじゃろうし…受けておるんじゃよな? よいとして…同期の我らと話すのにも緊張してしまうのだけは直さんとな?』

『ん、同意。あかり、敬語じゃなくていい。呼び方も、百々ももって呼び捨てで呼んで?』

『あっ、ズルい! あかりちゃん、私も全然ゆいなって呼んでくれていいよ! あ、それともゆいゆいの方がいいかな??』

『うう…クール美女とオタクに優しいギャル…』

『いきなり言われてもあかりちゃんも困ってしまうでしょうし、二人ともそのくらいで。…あかりちゃん、私のこともいつも言ってるときみたく、仄ちゃん、で大丈夫ですから』

『獣王ともコラボするという話じゃったしの。機会さえあれば慣れるじゃろう。いっそのこと我ら三期生組で一度ずつあかりとコラボしていくのも手かもしれんのぅ』

『えっ、ちょっ!? ま、待って』

『と、言ったところで時間じゃな。この後はコラボ前に募っていたマシュマロを読んで終わりにするぞ』

『あ、私が選びたい!』

『ん、私も』

『分かった、分かった。順番じゃ順番。ではゆいなから――』

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