3 『推しに認知されたい派とされたくない派の溝は深い』
これしかない。
それを見た瞬間、遂に
始めの頃はかなり積極的に話しかけてくれていた心優しいクラスメイト達が、私のおどおどした反応を話しかけられて困っているのだと思ったらしく、必要がない限りは会話を振ってこなくなってしまって久しい今日この頃。
喋らなすぎて声帯が退化し始めてしまったのか、最近では人と話す前に「あー…」とか「えー…」とかがちょくちょく入るようになり、私自身そろそろヤバい、とは結構真剣に思っていた。
けど、そんな日々とも今日でおさらばだ。
後は
「いざっ!」
カチッとマウスのクリック音が響く。
こうして私は輝かしい未来への第一歩を今、確かに踏み出したのだった。
◇
「んぅ……?」
カーテンの隙間から射し込んだ、眩しい日差しで目が覚めた。
何か夢でも見ていた気がするんだけど…内容はよく思い出せない。
「んー…!」
ま、なんでもいいかと布団の中でぐーっと身体を伸ばす。夢なんて大抵はそんなもんだろう。
のそりと顔だけ上げて枕元のスマホを手に取る。画面を点けてみれば時刻はもうすぐ正午を回ろうかというところだった。休日特有のプレミアムな起床時間である。
休日は好きな時に寝られて好きな時に起きられるのが一番の良いところだと個人的には思う。アラームで叩き起こされるのはマジのマジでストレスだからな。
さて。とりあえず朝ごはん…ではなく、時間的にはもう昼ごはんか――を食べて…いや待て!?
「もうすぐ十二時っ!?」
呑気にこんなこと考えてる場合じゃねぇ!
先程まであった寝起き特有のスローリーさはどこへやら。ベッドから勢いよく跳ね起きると、一目散に机に置いてあったノートパソコンの電源を入れる。起動するまでの時間すら惜しく感じるがこればかりは仕方ない。
そして画面が表示されると同時にデスクトップに置いてあるショートカットをクリックして…
◇
#お花見 #ハルウタ #オンライブ
【オフコラボ】いつもの二人っ!【春乃桜/永遠遥歌】
27,582 人が視聴中・0分前にライブ配信開始
春乃 桜
チャンネル登録者数 55.5万人
◇
「間に合ったーっ!!」
画面に映し出されているのはオレが愛して止まない
そう。
…え? それであれから友達はできたのかって? ハハッ、面白いこと聞くな、お前。
いやー間に合って本当によかった。今日のはさすがに見逃せないって思ってたんだよね。
こうやって普段あんまり使わないノートパソコンを開いて大きな画面で見たいと思うくらいには期待して…って
『膝枕ほんと好きだね。そんなに良い?』
『極上』
『ふふ、そっか』
…なんだ、このほのかに聞こえてくるてぇてぇやりとりは…。
チャット欄に目を向けてみれば【しー】というコメントと【てぇてぇ】というコメントで溢れかえっていた。
『でも、そろそろ配信始めないとだから…ってええ!?』
¥5,000
【ありがとう…】
¥50,000
【】
¥2,000
【イチャイチャする配信はここですか?】
¥200
【有り金全部持っていけ】
¥1,000
【有り金二百円兄貴ほんと草】
『み、みんなどこから聞いて…』
【桜ちゃんと永遠さんのイチャコラから】
【センシティブシーンから】
『せ、センシティブじゃないから! …おほんっ!! みんな、今日もお花見に来てくれてありがとう! オンライブ所属バーチャルユーチューバー、
うぉおおん!! 桜ちゃーん!!
淡いピンク色の髪をした美少女が画面に現れる。春乃桜ちゃんはオンライブ一期生にしてオレの最推しである。
彼女というVtuberに出会えたことがこの世界に来て一番の収穫だったと断言できるくらいだ。
【おほんが可愛い】
【なかったことにして進めようとするのすき】
【もう切り抜かれてます…(小声)】
【Twitterにも上げられてます…】
『今日はなんとオフコラボです! お花見にこの人が来てくれたよー! どうぞっ』
『はーい、オールシーズン見られるお花見にやって来た春乃桜だよっ』
『ええっ!?』
【めちゃくちゃ似てるんだよなぁ】
【二 枚 積 み】
【環境デッキやめろ】
【桜ちゃんが二人…来るぞ!】
【オールシーズン見られるお花見で草】
【永遠さんかな?】
【永遠さんでしょ】
『当たり。春乃桜かと思われたその正体は…私、
【永遠さんだぁぁ!!!】
【ごん、お前だったのか…】
【もう桜ちゃんと言っても差し支えない】
¥10,000
【このリハクの目をもってしても見抜けぬとは…】
続いて現れたのは銀髪の美少女だ。永遠さんこと、永遠遥歌さん。オンライブ一期生の中で最も登録者数の多い人気ライバーで、歌やピアノが大得意。なので配信の内容も歌配信や生演奏が多い。無表情だがお茶目、そのうえかなりの自由人。
最初のやりとりを見ても分かる通り桜ちゃんとはとても仲がよく、オフコラボやお泊り配信を定期的かつ突発的にやっている。
今回のように永遠さんがいきなり突拍子もないことをやり出して(言い出して)、それに桜ちゃんが反応するというのもよくある流れだった。
『と、ということでハルが来てくれたよ! …一応言っておくけど、今話してるのは本物の私だからね!』
『大丈夫、みんな分かってる。私はまだまだ修行不足。もっと上手くなって出直してくる』
『これ以上は上手くならないで!? 本当に分からなくなっちゃいそうだから!!』
『………分かった』
【ちょっと不服そうですね…】
【分かった(分かってない)】
【膝枕どうでした?】
『極上。少しでも気を抜いたら眠ってしまうくらい。スカートだから直に体温が感じられるのも
【ゴクリ…】
【エッッッッ!!!】
¥2,525
【今日はスカート把握】
【これは一流膝枕ソムリエ】
『あーあーあー!! あ、そうだ! そういえばみんな三期生への応募ありがとうっ! 実はね、私とハルもみんなが送ってくれた動画を見たんだよっ』
『そう。いろんな人がいて…とっても楽しい時間だった。中にはすごく個性的なものもあったから』
あー…あったな、そんなの。そういやすっかり忘れてた。
『詳しいことはまだ言えないけど、そう遠くないうちに三期生の子達の続報が出るはずだから、みんなお楽しみにね!』
『お楽しみにね!』
『もーっ、また真似してる!』
受かったであろう三期生の人達はどんなキャラクターをしてるのかな。一期生、二期生と個性派揃いだから自然と三期生にも期待が高まるってものだ。
桜ちゃんが遠くないうちって言ってるし、今から見るのが楽しみになってきた。
『よーし、それじゃあこの後は――』
そんなことを考えながらも、心の奥では桜ちゃんや永遠さんと絡めるであろう3期生が羨ましすぎる! と思わずにはいられなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます