最終話 僕と美紅と春の庭



「どうした一志かずし、こんな所で一人黄昏れて」


黄昏たそがれもするよ。母さんが爆弾発言したんだ」


 廊下で一人月明かりのさす庭を眺めていると、美紅みくがやって来た。僕の隣に座って膝を抱える。


 母さんの問題発言を伝えると、美紅はうなずいた。


「なるほど。それ故に『鬼丸』を使えるのじゃな」


「あー、そういうことか」


 そういうことなら受け入れるしかないか。


『鬼丸』を使えなかったら、みんなに出会ってなかったのだから。


「美紅はこれからどうするの?」


 美羽みうと同じく、彼女も自分の事を——自分の未来を決めて良いのだ。


 美紅は僕を見ると、小首を傾げた。


「さて? われは我を命懸けで連れ帰りに来た男を婿むこにするつもりじゃったが、其奴そやつはどう思っておるのかのう?」


「え?」


其奴そやつはなかなかの剣の使い手で心優しい男じゃ。折れた我のつのを大事に飾ってくれたそうでの」


「だっ、誰に聞いたの!?」


 美紅はふふふ、と笑うと綺麗な顔を近づけて来た。


 近い近い。


 今にも唇が触れそうな距離で、美紅は言った。


「我の婿むこ相応ふさわしいよう、明日から鍛えてやるからな」


「えっ!」


「うむ、決めた! とりあえず、あの曲垣とやらに勝つほどの腕前にしてやる」


「ちょっと!」


 美紅はすっくと立ち上がると宴会場と化した座敷の障子を開いた。


「曲垣とやら、一志と試合せい!」


「ちょっと、美紅!」


 恐る恐る曲垣くんを見ると、これまたやる気に満ち溢れた顔で立ち上がったところだ。


 ——冗談キツいぜ。


 わあっと盛り上がるみんなと嬉しそうな美紅。どこから持って来たのか木刀を取り出す曲垣くん。


 そして逃げる僕。


「待て、一志!」


「無理だってば!」


 美紅が追いかけて来る。


 飛び出した庭は、春の訪れを予感させた。






 飛翔刀鬼伝〜僕の家に伝わる刀には時空を超える力があってだな〜完〜




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