第279話 月河さんとの別れ


 支えていた月河さんの身体からこぼれ続けていた金色の粒子がひときわ大きく流れ出た。


「月河さん……!」


「なに、気にするな。もともと無かった命よ」


 仲間が散った、燃える屋敷の前まで来ると、月河さんは笑った。


「ここでお別れかの? わしは元々死んどった場所で最期を迎えるわい」


「月河さん! 僕もそこまでついて行くよ」


 そう言ったけど、彼は満足そうに笑った。


「わはは、気持ちだけ受け取っておくぞ。お主にはちと頼みがあるのじゃ」


「頼み?」


 きょとんとする僕の胸を指して月河さんは微笑んだ。


「鬼姫のつのを戻してくれまいか?」




「美紅のつのを?」


「あの屋敷の中には鬼姫の亡骸なきがらがあるはずじゃ。姫のつのは持ち去られたが、せめてお主の持つつのを亡骸のそばに置いてやってくれんか」


 僕は思わず上着の上からポケットの中のつのを押さえた。


 ——これは、僕の思い出だ。


 だけど。


 美紅の亡骸がこれで完全なものになって、見送られることになるのなら——それもいいのかもしれない。


「わかったよ、ちゃんとお別れしてくる」


 うなずく僕に、月河さんは嬉しそうに笑った。


「うむ、満足満足。一志、良き旅路をな」


「ありがとう、月河さん」


 くるりと背を向けると、月河さんはゆっくりと去って行く。


 僕が月河さんの遺体を見つけた場所まで戻るのだ。そして命尽きた月河さんを其角きかくさんが見つける——。


 たぶんね。


 僕は遠ざかる月河さんを見送ると、まだ燃えて燻っている屋敷へと足を向けた。





 つづく

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