第265話 六本の角


「な、なぜ二人のつのをもう一組持っている!?」


 月河げつがさんが驚愕の声を上げる。


 雪牙丸せつがまるは両手に煌めくつのを三本ずつ見せびらかしながらニヤニヤ笑っていた。


 僕も驚いたけれど、すぐにあることに思い当たる。


 月河さんも見ているはずだ。反魂玉で双子鬼を甦らせた時、すでに折られたつのがみるみるうちに戻っていくのを——。


「ああっ、そうか! お主は二人のつのをすでに奪っておきながら、またも我らの尊厳を奪いに来るかッ!!」


 月河さんが湧き上がる怒りの為に、再び光の針をその手に生むと、雪牙丸に向かって投げつけた。


 雪牙丸は両手の指の間に挟んだ六本のつのをクロスさせると、それだけで光の針を弾き飛ばす。


 針は空へ向かって弾かれ、やがて消えた。


「うむ。申し分ないつのじゃ。これをのう、こう胸に埋め込むかのう……」


 はだけた首元から胸にかけてを晒しながら、雪牙丸は黒光する太歳たいさいさんのつのをさらに飾り立てるかのように北辰さんと南冥さんの角を埋め込んでいく。


 その度に青と緑の光が放たれて、僕らの目を惑わした。光の中にはうっとりと力に酔う雪牙丸がいる。


「……まずいぞ、一志かずし


「そう、ですね」


 まずいも何も、ただでさえ強い雪牙丸が太歳さん達のつのを取り込んだのだ。


 これはヤバい。


 僕は『鬼丸』を握りしめた。


 いつでも抜けるように左手に持つ癖がいつの間にかついていることに気がついて苦笑する。


 なんだってこんな時に気がつくんだ。


「さて、最後の鬼狩りと行こうか」


 焦る僕らを横目で眺めながら、雪牙丸は宣言した。




 つづく

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