第235話 永遠にさよなら
「あ」
オペラが小さく驚きの声をあげた。
彼が指差す方を見ると、
魂の解放が始まったのだ。
やはり
金色の光は薄いヴェールの様にたなびき、榑松の紫色の煙と混じって消えて行く。マヤは店の窓を開けて、光を——ようやく結ばれた二人を星のまたたく夜空へと送り出してやる。
榑松に抱き抱えられるように要は寄り添って夜空に溶けて行く。
二人は微笑んでいた。
「さっ、さようならぁ!」
オペラが突然叫んだ。それを皮切りに、皆が口々に別れを述べる。
「さようなら、レッド——!」
「さようなら」
「…………」
『
と、同時に、自分の変化に気がつく。
——そうか、俺も消えるのか。
『一志』はそっと窓辺から離れた。
そこから皆の後ろ姿を見守る。
特に高校生の曲垣とオペラにはもう二度と会えないのだと思うと寂しく思う。
その一方で、この時間軸で得た物の大きさに希望を持ってしまう。その希望とは胸ポケットにしまった
『一志』の通って来た時間軸には無く、この時代の一志が得たもの。この差異は実は大きいのではないだろうか。
「どうしました?」
考えに耽っていると、曲垣に声をかけられた。
懐かしい、幼い顔。
『俺も消える。いや、元の時代に戻るのかもしれないが、たぶん同じ自分にはならないだろう』
「どういう意味です?」
心底信じられない、という表情をして、曲垣は少し目を見開いた。
『今回、初めて俺の知らない過去を体験した。そのせいで、未来も変わる』
——たぶん、少しだけ違う未来に。
『これから先の未来を俺は知らない。だから俺は二度とこちらへは来れないだろう』
「もう、会えないのですか?」
『ははっ、馬鹿だな。俺と君が会うのはこの先の未来なんだぜ』
——だからそれまで俺を鍛えておいてくれよ。
困ったように眉を寄せる曲垣は心底寂しそうだ。『一志』は彼の頭をそっと撫でてやる。
——こいつの頭を撫でるなんて、これから先二度とないだろうな。
『別れじゃない。この先の世界で会うための準備さ』
——じゃあな。
曲垣が何か言おうとしたが、それよりも先に一志の身体が大きく揺れた。
はっとしたように顔を上げる一志は、深い眠りから覚めたように驚いた顔をした。
「あっ、あれ? ここは?」
曲垣は「ふーっ」とため息をつくと、一志の隣の椅子に腰掛けて説明を始めた。
つづく
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