第186話 反魂玉に込められたもの


 不意に視界が明るくなる。少し濁った色の青空が見えて、自分達が空を見て落下していることに気がつくのはまばたききよりも短い時間だった。


「う、ぁ!」


 ぐるんと目がまわる。『鬼丸』が二度目の瞬間移動をしてくれたおかげで、僕らは雑居ビルの前の道路に体ひとつ分の高さからどさっと落ちただけで済んだ。


「うわ、びっくりした。二階の店から水平移動して、それから地面近くまで移動したのか……」


 僕が分析してると、体を起こしたオペラがヨウコさんの手を取って駆け出した。


「何やってんのさ! 逃げるよ!」


 そうだ。レッドが来たら厄介だ。


 僕と曲垣まがきくんもオペラの後を追って逃げ出した。


一志かずし! ありゃなんじゃ? あの組み合ったは紛れもなく蒼牙そうがであったぞい』


 黒鞘に納められた『鬼丸』が驚きを隠せないように口走る。しかしその疑問は僕らも同じだ。


「やっぱり、あの人——赤いコートの人が鬼なのかな?」


『鬼? いや、あれは鬼の気は感じられんかった……。じゃが眷属けんぞくではあるかのう』


「眷属?」


 仲間ってこと?


 息切れしながら路地を曲がり、四人ともようやく足を止める。肩で息をしながら振り返るが、どうやら追ってくる気配がない。


 こうしてみると、オペラの逃げるという判断は正解だった。路地をちょこまかと曲がって逃げたのも追っ手をいた要因だろう。


「ちょっと、休もう、ね」


 オペラが切れ切れに皆に言う。誰もが頷いて、汚い路地裏で壁にもたれたりしながら、それぞれ一息つく。


「『鬼丸』、眷属って仲間みたいなもの?」


『ちと違うが……鬼よりも下位のものと言えば良いかの。決して鬼にあらず』


「そっか。てっきりレッドが鬼なんだと思ってた」


 小さくため息をつくと、僕はうずくまって休んでいるオペラからヨウコさんの『反魂玉はんごんだま』を借りた。それを『鬼丸』に見せる。


『ややっ! これは『反魂玉』! しかも使える状態ではないか?』


「本物だよね?」


『ちと待たんか。……玉は本物じゃが、が違うのう』


「違う? 鬼力きりきが入っているんじゃないの?」


『似ているが別物じゃな。しかし『反魂玉』としては使えるぞ。——ははあ、わかった』


「なにが?」


『お主の言うレッドという奴は微かに鬼力を感じた。奴は真性の『反魂玉』にて甦った者じゃろな。そんで後ろにいた小僧は——ありゃ死人しびとじゃ』





 つづく

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