第182話 『金糸雀』という店
階段を登ってすぐの所に、その店はあった。
看板にはまだ灯りが入っていないが、確かに『
「開いてる」
ドアノブに手をかけたヨウコさんが少し驚きの表情を見せる。僕らもこんな昼間から開いているとは思っていなかった。
「マヤさん、いる?」
ヨウコさんが声をかけながらドアの中を覗き込む。奥から「いるわよ〜」と優しげな声が返って来た。
「友達も一緒なの。入ってもいい?」
返事を待たずにオペラがヨウコさんに続いて店に入って行く。僕も腹を決めてその後に続いて初めて大人の店に入店した。
まるで映画に出てくるような栗色のカウンターにシックなオレンジ色の光を放つ小さなシャンデリア。
数席しかない狭いお店だけど、落ち着い雰囲気は地元にある古い喫茶店を思わせた。
そしてカウンターの向こうにはゆるいウェーブのかかった長い髪を下ろした年上の女性——『マヤさん』がいた。ゆるふわな雰囲気のお姉さんである。優しそうな女性で、行き先のない子ども達の世話をしちゃうのがなんとなく感じ取れた。
そして彼女の後ろには色とりどりのお酒の瓶が並んでいる。シャンデリアの光を受けて、それらはキラキラと眩く光り、ここが子どもの来る場所じゃないと主張していた。
「こんちは〜」
オペラがヘラヘラと挨拶する。いや愛嬌たっぷりに、と言うべきか。年上に可愛がられるタイプだな。
僕らも挨拶する。
マヤさんの目が少し
「あっ、僕らは家出してません」
慌ててフォローしたつもりだったが、今度はヨウコさんに冷たい視線を放たれた。
だがマヤさんは少しほっとしたように肩の力を抜いて、ため息をついた。
「よかったわ。これ以上、
「迷子じゃないもん」
ヨウコさんが口を尖らせたが、マヤさんは容赦しない。
「迷子よ。どう生きていいかわからなくなっている
「……」
痛いところを突かれてヨウコさんも黙ってしまう。その沈黙の隙に、オペラが手早く自己紹介と僕らの紹介も済ませる。
自分はヨウコさんの友達であること。この二人は付き添いで、自分が居候している家にいる友達とその友人の『ピーちゃん』だと説明する。
「おい、お前……」
「まあまあ、曲垣くん落ち着いて」
「落ち着いている!!」
いや、キレそうだよ……。
「鬼がいるかもしれないから、それを調べるんだろう? ちょっと静かにしてて」
小声で曲垣くんを宥めると、彼はプイッとそっぽを向いてしまった。まったく……なんでオペラは彼を煽るんだ?
「それにしてもこんなに大勢でどうしたの?」
マヤさんが不思議そうな顔で尋ねてくる。
僕らはあらかじめ用意していたシナリオ通りの会話を始めた。
つづく
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