第177話 ヨウコさんに起きた出来事6

「ここが『ダプト』。みんなのたまり場だよ」


 ユウタに案内されてやって来たのは、『金糸雀カナリヤ』が入っていた雑居ビルよりももっとボロボロの廃ビルだった。今にも取り壊しの対象になりそうなその四階建てのビルのワンフロアが、『ダプト』と呼ばれている寝泊まりするところらしい。


「『ダプト』ってのは昔ここがそんな名前のバーか何かだったから、その名残なごり。ヨウコは荷物ないの?」


「荷物はコインロッカーに入れてるから大丈夫。持って来てもいいのかな?」


「いいよ。ここは僕みたいな行き場を失った子どもたちが集まってるんだ。だけどね、お互い自立してるんだ。自分のことは自分で、ね」


「はい」


 小学生のユウタに大人みたいな見た目のヨウコが言い聞かされているようで、はたから見たら変にみえるだろうな、とヨウコは思った。


 けれど話してみればやはり感じる。


 小学生の見た目でありながら、中身が大人びているのだ。


「ルールは一つ、ここのことを喋らないこと」


 ヨウコはその言葉にうなずく。


 ユウタはその様子を見て続けた。


「誰か他の人にここの場所を喋ったら、タダじゃ済まないよ」


 そう言って、一瞬だけ視線をレッドに向ける。ヨウコも視線を追ってレッドを見たが、相変わらず赤いフードをかぶって、俯いているので、その表情は伺えない。


 ヨウコは神妙な顔をしてもう一度頷いた。





「それって、僕らに話していいの?」


 僕が尋ねるとヨウコさんは手にしていたストローで氷しか残ってないアイスコーヒーのグラスをかき回した。小気味良い氷の音が響く。


「……場所を教えたわけじゃないし、大丈夫だと思う。『ダプト』には私くらいの男の子が二人とユウタとレッドが寝泊まりしてるの。ほんとにそれだけで……その別のたまり場みたいに変なバイトとか強要されないからすごく楽ですね」


 有名なたまり場の名前を出しながら、彼女はほっとしたようにそう言った。しかし曲垣まがきくんは冷静に聞き返す。


「それで、俺たちにどうしろってんだ? 悪いがそいつらが事件の犯人なら、やっぱり警察に行くしかないだろう?」


「確かにそうなんですけど、ユウタにコレを渡されたんです」


 そう言ってヨウコさんがジャケットのポケットからなにか小さな物を取り出し、手のひらにのせたそれを僕らの目の前に差し出した。


 それは、黒地に金と朱色の模様の入った、小さなタマゴみたいな宝珠——『反魂玉はんこんだま』だった。




 つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る