第71話 僕の身体が覚えている何か
急に人前でやれと言われて出来るほど僕は器用ではなかった。
しかしここまで舞台を整えられては——
林崎先生に
急に
「
大声でなんて事言うんだー。
くすくすと微笑ましい笑い声が上がる中、僕は道場の真ん中に正座した。
型自体は長いものではない。
でも
正座したまま僕が一つ深呼吸すると、それを合図のように道場内がしんと静まる。
正面を見据えて刀に手をかけると正座していた足のつま先を立てる。
そこから右足を立てて片膝立ちになると同時に、横一文字に刀を振る。
少しぶれた。
ふらつくみっともない技のその後——奇跡が起きた。
あの『僕じゃない誰か』が乗り移って『鬼丸』を振るった時の感覚が蘇る。
それをトレースするかのように身体が動いた。
横一文字から刀を振り上げて真っ直ぐに相手を斬り下ろす。刀が流れる空気を断ち、見えない相手が見え、そして僕はそれを斬った。
僕の刀が風を斬って空気を鳴らす。
誰もがはっと息を呑むのがわかる。
斬り下ろした刀を斜め下に『
すごく自然に体が動き、下がる足も滑らかに僕は型を終える。
僕自身は夢中で、ただその瞬間だけあるべき所にあるべき動きが収まった気がしたのを覚えているだけだった。
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます