第69話 クール系男子

 そんなこんなで、『たかむらの家には親戚のモデルと可愛い子が居る』ということに落ち着いたのである。


 僕が道場の更衣室で稽古着に着替えていると、ガラリと戸が開いて誰かが入って来た。


「あ、曲垣まがき君」


「なんだお前か」


 つっけんどんな塩対応のこの男子はこの道場で唯一、僕と同じ高校二年生の曲垣君だ。


 僕とは違って、小学生の頃から剣道と居合をたしなんでいる。剣道は二段、居合も二段だ。背が高く、僕よりもがっしりしていて、真っ黒な黒髪に切長な目が凛々しい男子である。


 そして何故なぜだかわからないのだが、曲垣君は僕に冷たい。


 同学年ということで仲良くなろうと試みたものの、うまくいかない。


 ——曲垣君、学校どこ?


 ——曲垣君、部活も剣道部?


 ——曲垣君、家どっち?


 ——曲垣く……。


 全て無言の返事。


 僕はめげてしまい、声をかけなくなってしまった。


 ところがそれから一か月通い続けてようやく僕が『正座のわざ』を覚えた頃——。


「……」


 曲垣君が何か言いたそうにあの涼やかな目で僕を見ていることに気がついた。でもまた無視されても嫌だった僕は、自分からは話しかけなかった。


 するとちょっと三白眼になった曲垣君がずかずかと僕に近づいて来た。


「……よう」


 うわ!

 曲垣君から話しかけられた!


「な、何?」


「……続いてんな」


「へ?」


 それだけ言うと、曲垣君はクールに僕に背を向けて行ってしまったのだった。




 つづく

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