第57話 一番詳しく知っている人はもしかして




一志かずし、それはどういう意味なの?」


 美羽みうが無邪気に聞いてくる。


 僕は部屋のベッドに仰向けに転がりながら、朝倉から聞いた話を美羽に教えていた。


「恋人同士だったんだってさ。僕、聞いたこともなかった」


 まあ、のどか姉ちゃんとは違って、志乃しの姉さんはあまりおしゃべりな姉ではなかったからそういう話をした覚えがない。


「ふうん。それで志乃さんと朝倉さんは時をのね?」


「そういうことなんだろうな」


 僕だって、『鬼丸』と時間を超えた冒険をしてなかったら、とても信じることはできなかったと思う。


 志乃姉さんは恋人だった朝倉友成と共に『鬼丸』のせいで時間を超えた。


 着いた先で——朝倉の奴が言うには明治の初期だったとか——時間移動の原因の『鬼丸』がどこかへ行ってしまって現代に戻れなかった。


 しばらくなんとか暮らしていたが、二人は恋人関係を解消して、その後再び『鬼丸』を手にする機会が巡ってきて、いざ現代に帰ろうという時に——。


「志乃姉さんは向こうに残ることになった、と」


 彼はそれだけしか教えてくれなかった。何があって別れたとか、どうやって暮らしていたかとか、全然だ。


 だから本当に志乃姉さんが残りたくて残ったのか、それとも置き去りにされたのか、僕には本当のところがわからなかった。


 もし置き去りにされたのなら、僕は朝倉を許すことは出来ない。


「でもそうだったら、わざわざ一志かずし母様かあさまに教えに来ないと思う」


「あ」


 それもそうか。


「それに、母様は『御自分のお家に連絡もせずに?』って聞いてた。それって自分の家族に無事を知らせる前に、こちらに来てくれたってことじゃないかな」


「そういえば……」


 明治時代から帰還するなりたかむら家に来てくれたと考えれば、朝倉も悪い奴じゃないのかもしれない。


『鬼丸』も返してくれたし。


 しかし納得しようとする僕とは違って、美羽は首を傾げて呟いた。


「もしかしたら、本当に話を聞かなきゃならない相手は、一志の母様かもしれない」




 つづく

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