飛翔刀鬼伝〜僕の家に伝わる刀は時空を超える力があってだな〜

青樹春夜(あおきはるや:旧halhal-

第1話 夏の終わりに時を超えるなんてありますか?

 それは、稲妻に全身を包み込まれたような衝撃だった。


 今にして思えば、だけど。


 実際に雷に撃たれたらこんなもんじゃすまないのはわかっている。ただ表現するならその出来事は青い雷光と風に身体が捻れて投げ飛ばされる——そんな感覚だったんだ。


 そして硬い大地めがけて高い所から落ちたのを覚えている。大怪我をするほどの高さじゃなかったけど、僕が感じたのは校舎の最上階から一階までの距離を落ちた気がする。


 あくまでも感覚だ。


 実際気を失った僕が目を覚ました時、身体に痛みは感じたけど、どこも骨折などしていなかった。


「イテテ……なんなんだよ……」


 霧が深い。


 落ちる時に目にした風景だと、自然豊かな場所だと思えた。緑の木々が霧の間から見え、それがずっと遠くまで広がっていたからだ。


 立ち上がろうとして、僕は自分の左手が握りしめているモノに気がついた。


 あの稲妻の衝撃と高所からの落下にも関わらず、それを手放さなかったらしい。


 改めて僕はそれを見た。


 ——『鬼丸おにまる』。


 黒塗りの鞘に黒とも見える紫の紐を使った拵え。鞘に収めた刀身は薄青く輝き、水に濡れた様であったのを覚えている。


 しかし問題はつばだ。


 たぶん、変わったデザインだと思う。僕が知っている刀の鍔は円形や楕円形で様々な意匠で作られている。


 だけどこれは——。


 僕は改めて胡散うさん臭そうな目でそれを眺めた。


 一言で言うならば、鬼。


 重厚な鍔は鬼の顔をしていた。鼻に当たる部分からつかが生えていると思って欲しい。二本の角は湾曲して楕円形の鍔の意匠に収まっているが、反対側にはクワッと牙を剥いた口が角の対称であるかのように造られていた。


 そして閉じられた目。


 僕は再び、その閉じられた目を疑いの目で見つめた。


「おい」


 馬鹿らしいと思うだろうが、僕はその鬼の鍔に向かって声をかけた。


「聞こえてる、よな?」


 僕の呼びかけに誤魔化しきれないと思ったかのように、硬いはずの——多分鉄製の——鬼の目がゆっくりと開いた。


『チッ、寝たふりは通じぬか』


「ちょっと、舌打ちはないだろ。お前の言う通りにしたら、こうなったんだ。説明を求める」


 黒い鉄製の鍔はうごうごと身を振るわせると、めんどくさそうに言い訳を始める。


『いや、わしもな、こんな風に上手くいくとは思わなんだ……やはり鬼の血を引く一族だからかのう』


「鬼って——」


 僕が更に問いただそうとした時、遠くから何かが近づいて来る気配を感じて、僕らは顔を上げた。


『む! いかん! 奴じゃ、奴が来る。逃げよ!』


「ななな、何が来るんだよ?」


『説明は後じゃ。とにかくここを離れよ!!』


 僕はその言葉を信じて——変なものを信じたものだけど——走り出した。




つづく

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