誰のうんこ!?

さいとう みさき

登校班は緊急招集だ!


諸君しょくん、集まってもらったのは他でもない、今我班の集合場所にうんこが置かれている。これは何の陰謀いんぼうだろうか?」

 六年生で班長の一ノ瀬誠(いちのせまこと)君は神妙しんみょうな顔つきで僕たちの前でそう語りだした。



「きっと三浦みうらさんちのターボだよ! 毎朝ここを散歩しているもん」

 三年生の二宮涼太(にのみやりょうた)君は早速犯人だろうと思わしき人物(犬)を特定する。



「待って、三浦みうらさんちのターボはチワワだよ? こんなに大きなうんちしないよ?」

 四年生の四谷明美(よつやあけみ)ちゃんがそのうんこの大きさからチワワのターボでは無いと主張をする。



「だけど、こんな駐車場にうんこするなんて…… まさかネコ?」

 同じく四年生の五十嵐清太(いがらしせいた)君は犬がうんこするには場違いな場所であると言い、猫である可能性を示唆しさした。



「でもネコならこんな大きなうんこはしないよ? これってシベリアンハスキーみたいに大型犬で無いとしない大きさだよ?」

 僕はそのうんこの大きさから猫であるはずがないと推測すいそくする。

 今年副班長になった僕は五年生で六道景勝(ろくどうけいしょう)と言う。




 僕たちは登校班の集合場所であるドラックストアーの駐車場の入り口にいる。


 何時もここに午前七時半に集まり登校班を組んで学校へ行くのだけど、今日は一番最初に来ていたまこと君が僕たちの集合場所にうんこが置かれている事に気付きみんなが集まるのを待ってから話始めた。



六道景勝ろくどうけいしょう君、大きな犬ってこの辺じゃ見かけないよ?」


「そうそう、この辺の家は皆ちっちゃい犬ばかりだよ?」



 五十嵐清太いがらしせいた君と四谷明美よつやあけみちゃんは声をそろえてそう言う。

 でもこの大きさ。

 普通の小型犬じゃないのは確実だ。



「まあマテ、諸君しょくんらはこれが犬のうんこであると何故確証なぜかくしょうできるのだね?」


「いや、まこと君。犬以外にこんな所にうんこしないよ?」


「そうそう、大きな犬以外にこんな大きなうんこするわけ無いじゃないか!」


 僕も二宮涼太にのみやりょうた君もまこと君のその言葉に否定的ひていてきになる。

 だって犬以外に考えられないじゃないか?



「発想を変えよう。もし象をも持ち上げられるほどのでかい鳥がいたらどうだ?」


「ちょっと待って、それどんだけ大きな鳥だよ?」



 そんな怪鳥がこんな町中にいるわけがない。

 それに鳥のうんこってもっとびちゃってしているはず。



「そんな怪鳥がいるなら人面犬とかかもしれないよ!?」



「「「「いやいや、それは無い」」」」



 二宮涼太にのみやりょうた君のトンデモ話は速攻そっこうでみんなに否定された。



「でも、そうするとこのうんちって誰のよ?」


 四谷明美よつやあけみちゃんはそう言っていやそうにその大きなうんこを見る。

 

 言われてみんなで改めてそのうんこを見ると、色的には少し白っぽい。

 そして僕はそれを見てやはり犬ではないかと思う。

 何故なぜならドックフードを食べている犬は白っぽいうんこをするからだ。



「やっぱり犬なんじゃないかな? だってドックフード食べてる犬ってこんな感じのうんこするもん」


 僕がそう言うと五十嵐清太いがらしせいた君が何かに気付く。


「あ、ちょっと待って。うんこが割れた断面に何か有る…… この黄色いのはトウモロコシ!?」



「ふふふ、では犯人は牛だな! この前社会見学で牛舎でえさ食べている牛を見たがえさの中にトウモロコシがふくまれていたぞ!!」



 まこと君はかけている眼鏡めがねのズレを直してびしぃっと指さし宣言する。


「それは無いだろう、だってここ町中だよ? それに牛のうんこってこんな細長くないだろうし草が混じってるってはずだよ? 田舎のじいちゃん家で見た牛のうんこってそんなんだったよ?」


 まこと君の宣言に僕は思わず突っ込みを入れる。


 漫画まんがに出てくるようなとぐろを巻いたうんこでは無いけど、二条にじょうのうんこは両方とも細長い筒状つつじょうの形状で、そのうち片方がもう片方のうんこの上に乗っかっていてそれが途中とちゅうで割れて断面が見れる。


 まさしくオーソドックスな犬のうんこっぽい。

 しかし犬がトウモロコシを食べるのだろうか?



「トウモロコシを食べるって事は…… 一ノ瀬誠いちのせまこと君の言うように発想を変えてみて巨大なハムスタ―かっ!?」


「どんだけでかいハムスターだよ!?」



 五十嵐清太いがらしせいた君はこれしかないという感じで親指を立てながらそう言う。

 思わずそんな彼に僕は突っ込みを入れてしまった。



「じゃあ、おっきなモモンガー!」


「それ、こわっ! そんな大きなモモンガ―が飛んできたら、こわっ!!」



 何故なぜに同じようなボケをかますのか四谷明美よつやあけみちゃん。

 もしかして五十嵐清太いがらしせいた君がボケたから自分もとかって思ってない?

 このおしどり夫婦ふうふめ!



「まあマテ、それでは鳥とモモンガ―の間を取ってシマリスと言うのはどうだ?」


「間を取ってなんでシマリス!? と言うか何故なぜにげっ歯類!?」



 まこと君はこれでどうだと、ドヤ顔で言う。

 なんかもう言ったもの勝ちみたいになってきた。

 なら僕だって!



「みんなここでうんこをした前提ぜんていだけどもし誰かがここへうんこを捨てたとしたらどうだい?」



 ざわっ!



 僕のその発言にみんなざわつく。


「た、確かにその可能性を忘れていた。もし誰かがここへうんこを捨てたなら……」


「ありないよ! だってうんちだよ? 汚いよ? それをなんでわざわざここへ!?」




「ふふ、見えてきたな。分かったぞ諸君しょくん! 全てのなぞは解けた!! このうんこはこのドラックストアーをおとしいれるためのものなのだ!!」


 

 ばばぁーんッ!!



 一ノ瀬誠いちのせまこと君はそう言って眼鏡めがねのズレをまた直しズバッとうんこに指を向ける。

 しかし何故なぜそんな事を?



「最近学校の近くに新しいドラックストアーが出来ただろう? ここのドラックストアーとは別の名前の」


「あ、そう言えばお菓子が安売りの広告出てたわね!」


 四谷明美よつやあけみちゃんはうれしそうにそんな事を思い出し手を口元でポンと合わせる。

 しかしそれが何故なぜ



「どう言う事だいまこと君?」


「いいか、ドラッグストアーがこの近所に何軒なんけんある?」


「えーと、ここと学校の近く、それと登校中に一つ……」



 考えてみれば閑静かんせいな住宅街に最近やたらとドラッグストアーが立ち並んでした。

 僕が小学生一年生の時はここのドラックストアーくらいしか無かったのに。




「つまりはドラッグストアーの客取り合戦で古くからある有力な店を除外じょがいするための工作なのだ!!」




「「「「な、何だってぇっ!?」」」」



 一ノ瀬誠いちのせまこと君のその恐ろしい工作に僕らは一同騒然そうぜんとした。

 確かにお店の駐車場の入り口にこんな大きなうんこが有ったら誰もいやがってお店にはいかない。

 しかも新しいお店の方が奇麗きれいっぽい。

 だとするとこれは僕らの班に対するいやがらせでは無く、このドラックストアーに対するいやがらせか!!!?



「な、何て恐ろしいの…… うんちが入り口に有るだけでこのお店の品物がなんか全部うんちっぽく感じるわ!!」


「た、確かに、明美あけみちゃんの言う通りだ。僕の大好きなレトルトカレーがうんこカレーに感じてしまう……」


「うん、かりんとうなんかもっとそれっぽいよね……」



 五十嵐清太いがらしせいた君も四谷明美よつやあけみちゃんも、そして二宮涼太にのみやりょうた君もばいきんバリアーしながらそのお店を見る。



 だけど僕は知っている。

 このお店には僕らが集まって集団登校をする頃におじさんの店員さんが毎朝この駐車場を掃除そうじする事を。



「でもこんな事してもここの店員さんのおじさんがもうじきやって来て掃除そうじ始めちゃうよ? ここにうんこが有る事知っているのは僕らとそのおじさんくらいになってしまうよ? それじゃぁこのドラックストアーがうんこドラックストアーって誰も分からないじゃないか?」


「た、確かに……」


「そう言えばもうすぐあのおじさん来るよね?」


「えー、じゃあなんでこんな所にうんこが?」



「ふむ、効果的こうかてきでないのにうんこが置かれるとは…… 分かったぞ! これはそのおじさんの店員に対するいやがらせだ!! つまりは個人的なうらみからの行いなのだ!!」



 まこと君はそう言ってドラッグストアーのお店の方を見る。

 すると向こうからエプロン姿のいつものおじさん店員がほうきとちり取りを持って出てきた。



「見よ、ドラッグストアーのおじさん店員が出てきたぞ! そして犯人はこのうんこを見ていやがる様をきっと何処どこかで盗み見ているぞ!!」


 まこと君がそう言うと僕らはさっとこの周りを見渡す。

 一体誰が?

 そしてこのおじさんに何故なぜそんないやがらせを!?



「おんやぁ? 君たちどうしたんだい? いつもはもう学校へ行く時間じゃないのかね??」


「おじさん! これ見て! うんこだよ!!」



 二宮涼太にのみやりょうた君は指さしながらおじさん店員にそう言う。

 するとおじさん店員はそれを見てぎょっとする。



「おじさん、誰がこんなひどい事を!?」



 僕は思わずおじさん店員に聞いてしまう。

 だってこんなのはひどぎるよ!


 しかしおじさん店員はそれを見てため息をきながらお店の横側の品物搬入口ぶっぴんはんにゅうぐちの方を見る。



「こんな所に粗相そそうするなんてなぁ……」


 言いながらおじさん店員は搬入口はんにゅうぐちの更に奥に有る段ボール置き場に行く。

 僕たちは思わず顔を見合わせおじさん店員についてく。



 すると段ボール置き場に誰かが倒れている!?



「ま、まさか死体!?」


「なんだと!? このうんこ問題はとうとう殺人事件にまでなってしまったか!?」


「いやぁーっ! 怖いぃっ!」


「だ、大丈夫だよ明美あけみちゃん、僕が付いているよ!!」


「すっげー、本物の死体だ!!」



 僕もまこと君も五十嵐清太いがらしせいた君、四谷明美よつやあけみちゃんもそして二宮涼太にのみやりょうた君も殺人事件に発展してしまったこのうんこ問題の当事者として固唾かたずを飲んでその成り行きを見守る。

 するとドラックストアーのおじさん店員は恐れも知らずにその死体に手を付きこう言う。



「やっぱり七瀬ななせさんとこのおじいちゃんか。まったく、お酒飲んでぱらってこんな所で粗相そそうをしたんだね? ほら、起きて七瀬ななせのおじいちゃん」




「「「「「へっ?」」」」」




 おじさん店員がそう言いながらその死体を揺らすとその死体は動き出しむくりと起き上がる



「うーん、もう飲めねえぞぉ~」


「まだいが残ってるのかい? ほら、あんなところにうんこしちゃってからに。いい加減酔かげんよいをましなよ?」



 僕たちが唖然あぜんとする中、七瀬ななせさんちのおじいちゃんは大きな伸びをする。

 そしてまだ酒くさい息をまきちららす。

 それを苦笑しながらおじさん店員は七瀬ななせさんちのおじいちゃんを引き起こす。

 

 と、僕たちを見て言う。



「おっと、君たちもそろそろ学校行かないと遅刻するよ?」



「「「「「あ”っ!」」」」」



 ドラッグストアーのおじさん店員にそう言われ僕らはもうだいぶ時間が過ぎている事に気付く。

 


「まずいぞ! 全員並んで急ぎ登校だ!!」


「そんな、無遅刻無欠席でずっと頑張がんばったのに、早く行きましょう!!」


「そうだね、明美あけみちゃん!」


「凄いね、四谷明美よつやあけみちゃん無遅刻無欠席なんだぁ」


まこと君、登校班全員並んだよ! 早く行こう!!」




 こうして僕たちはあわてて学校へ班を組み遅刻ギリギリで門をくぐり抜けるのだった。



  





 ……あのうんこ、なんで白っぽかったのだろう?


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誰のうんこ!? さいとう みさき @saitoumisaki

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