第36話 足止、説明、お礼。
三ノ輪 彦一郎に励まされた千代田 晴輝は右手を見て「…こんな腕でもやっていけるかな?」と言う。
三ノ輪 彦一郎が「大丈夫です!先生は諦めずに応援します!上野さんも君を待ってくれますよ」と返すと千代田 晴輝は真っ赤になって慌てる。
「僕みたいな人間と付き合ったら婆ちゃんの事とかあるから壁作ってたんだ」
「千代田君は優しいいい子ですね。上野さんならわかってくれますよ」
そこに息を切らせて走ってくる兵士とリーブス姫。
三ノ輪 彦一郎は「どうも」と笑顔で声をかけると毒気を抜かれたリーブス姫はよそ行きの顔で「あ…あなた方は何をしているんですか!?」と質問をする。
「まあ簡単に説明しますよ。100年前の生還者が居まして、まあコルポファのミスは100年前に呼んだ人間と死んだ人間の把握を怠った……、ああ、ユータレスの中に行かれては無理ですね。
とりあえずユータレスから100年前の群馬 豪君が帰還したんです」
「100年前の勇者?あの時の鍵!」
「ええ、そうです。彼が言うにはエグスは群馬君の力でフェルタイを果たしてひとまず落ち着いたが、本当にひとまずで限界が近いそうです」
リーブス姫は年上の三ノ輪 彦一郎の話し方に飲まれていてキチンと話に向き合う。
そして三ノ輪 彦一郎は時間稼ぎの意味もあってゆっくりと丁寧に説明をする。
「限界?」
「ええ、本来エグスは流浪の神。ひとつどころに居ないのに100年も押さえ込んだから限界を迎えつつあったそうです。限界を迎えたエグスは何をするか想像もつかないとの事でした。最悪はエグスの力でこの地が消し飛ぶかもしれないそうで、まだマシなのはスターク達はエグスの不満や負の感情が形になったものだそうで、限界を迎えて爆発をしたらコルポファ中にスタークが飛び散って地獄になるからエグスを逃すと提案をされました」
「…そ…そんな事を誰が信じると…」
「我々は信じました。だからこそフェルタイをしてユータレスから離れる事が出来るエグスを連れて山を降りました。いやはや、凄いのは隠していたのに夜に会った時の我々の顔つきで何かに勘づいたといって乗り込んできたプリンツァさんですね。まあ彼女にはスタークが溢れるぞと脅して人質にして逃げました。それにひとつ言うならフェルタイを果たしても我々を帰す気のないあなた方、コルポファは召喚が得意でも転移は苦手で、転移の力で死ぬそうですね。戦場君も群馬君が指摘するまで黙っていましたが認めましたよ」
三ノ輪 彦一郎はリーブス姫が話に飲まれている事を理解してプリンツァや戦場 闘一郎の話を持ち出して、あくまでこれは表世界の人間が行った事にしてしまう。
そして脱走をしたのはコルポファが転移を行うと死んでしまう事を隠していた事を前に出して正当性を伝える。
隠し事がバレた事で渋い表情をするリーブス姫が「くっ…。それであなた方はどう言うつもりですか?」と聞いてくる。三ノ輪 彦一郎は「まあ、何個かあります。ひとつは足止めです。後はこの説明、そして食事なんかのお礼ですね」と言った。
「お礼ですって?散々衣食住の面倒をみてやったのに!」
「勝手に呼びつけておいてだろ!」
「おお、千代田君。いいですよ!言ってやりなさい」
「それは仕方のない事と話したではありませんか!あなた方の勇者がユータレスに赴かなければこの世界は滅んでいました!」
「そうそう、その勇者ですがもう1人生き残りが居ましたよ」
想定外の事にリーブス姫が「は?」と聞き返すと千代田 晴輝が「お姫様は覚えてるかな?荒川さくら高校の小台 空。アイツは生きてたよ」と言い、三ノ輪 彦一郎が人の悪い顔で「大丈夫ですよ。伝説の勇者ですから覚えていますよね?」とリーブス姫に聞くと、当然覚えていない…それどころか興味のないリーブス姫は困惑の表情で「え…ええ」と生返事をする。
「少し話を変えますね。エグスがいなくなった後のエグスの加護についてご存知ですか?」
「…!?そうよ!エグスの加護がなくなったらこのコルポファは滅んでしまうわ!」
「エグスから聞きましたよ。本来はエグスが旅立つとすぐにユータレスが消えて力を喪失するそうですが姫様の髪はまだ青ですね」
実際は3日前後なのだがすぐにと言うと慌てて自身の髪を見て兵士の髪をチェックするリーブス姫は「どう言う事?」と困惑の顔をする。
「それがお礼ですかね。勇者小台君は未だユータレスの中です。人間がユータレスにいる間は加護が生きるそうです。ただ彼が出てくるとユータレスは閉じてコルポファの皆様は加護を失うそうです。そして彼の望みは姫様に会う事」
「どんな約束をしたのか知らないけど小台君は最後まで姫様を信じてたよ」
「くっ…じゃあ他の者がユータレスに向かうと?」
「まあ小台君は姫を探してユータレスから出てきてしまいますね」
「そうなったら加護も終わりですね」
リーブス姫の考えがまとまる前にいい感じに千代田 晴輝が相槌を打つので姫はドンドン追い込まれて行き、兵士達に「くっ…今すぐにユータレスに向かいます!この者達を捕まえて門を開けてエグス様を取り返しなさい!」と指示を出すと三ノ輪 彦一郎と千代田 晴輝を取り押さえようと兵士が来て、残りの兵士は門に向かう。
ここで千代田 晴輝が「あ、僕は出血中なんでプラセさん呼んでくださいね」と言い、「千代田君が血のついた手で門を閉めたので開ける人は覚悟が必要ですね」と三ノ輪 彦一郎がトドメをさす。
この状況に憤慨したリーブス姫は千代田 晴輝と三ノ輪 彦一郎が大人しく捕らえられるのを確認すると足早にユータレスを目指した。
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