第19話 衝突と絶望。

京成学院はガリ勉集団を絵に描いたように槍の重さに泣き言を言い、パチンコのゴムひとつ満足に引けずに足を引っ張る。

槍や金棒を持って走れない国府台 帝王に玉ノ井 勇太が「おい!本気で走れ!死ぬぞ!」と声をかける。


国府台 帝王は「ひぃっ……っ………低脳…」と言い返すと後ろから追い立てる役目の大塚 直人が「うるせえ無能!勉強でスタークを追い払ってから威張れ!」と怒鳴り散らす。



2日の訓練後に千代田 晴輝は食堂でセオとワオを呼んで図面と睨めっこをしていた。

そこに来た菅野 篤志は「何をしているのか?」と千代田 晴輝に聞いた。


千代田 晴輝は一瞬躊躇をしたが、今隠してもどの道バレる事だとしてパチンコの図面だと教える。


千代田 晴輝は言葉を選びながら「皆さんの体力に合わせて、来週は間に合わなくても長時間の戦闘に耐えられるように牽制用ですが威力を抑えてでも扱えるようにします」と言うと菅野 篤志は「ならばそれは俺がやろう!」と言い出した。


菅野 篤志は戦いに不向きな自分の居場所作りとして千代田 晴輝の仕事をよく言えば代わりにやろうとしていた。本音のところは自分の方が勉強が出来るのだからすごい武器を作り上げて二度と無能と呼ばせないようにしたいだけだった。

だが今度は次の問題に当たる。


「数値を言ってくれ、強度計算をしよう」

菅野 篤志はそう言った。


耳を疑う千代田 晴輝だったが話を聞くと計算は出来るが武器の発想はなく、どうしようもない状況だった。


これにより「何か思いついたら持ってきてください」と一蹴される菅野 篤志。

菅野 篤志は必死に計算の必要性を訴えたが、結局は感覚でだが実戦で壊れない正確な武器を作れている千代田 晴輝に軍配が上がった。


他のメンバーも軒並み訓練についていけなかった。

口で何を言っても話にならなければ意味がない。


そんな進学校に通っているというエリート意識にまみれていた京成学院の生徒たちは屈辱感の中、勝ち気な大田 楓と勝田台 風香が衝突をした。


大田 楓の言っていることは何一つ間違っていない。

今まで訓練していなかった分、皆より遅れているのなら残って訓練もするべきだし、戦闘を熟知している梶原 祐一や玉ノ井 勇太の指揮下に入って大人しくするべきだと言ったのに取り巻きの谷津 彩乃と大橋 礼那を巻き込んで勝手に出来もしない連携の練習を始めた。

しかも勝田台 風香に都合のいい練習で、取り巻きの2人は無駄に右へ左へ行き来しているだけだった。


だからこそ手伝うから訓練をしようと持ちかけた大田 楓と衝突をした。


何を言われても学力、家柄等でマウントを取ろうとして話にならない勝田台 風香に大田 楓が怒鳴った瞬間、勝田台 風香は手を上げた。


バチンと言う乾いた音の後でバチンとなる更に力強い音。

殴られて頭にきた大田 楓は秒で殴り返す。


訓練量の差から勝田台 風香は一撃で吹き飛ばされてノックアウトされていた。

夕飯時に皆の前で暴力事件だと騒いだが「先に手を出したのはアンタだよ」と言い返され、更に「ロクに働かずにいても一番風呂に入ってご飯も馬鹿みたいに食ってるのを見逃してやってるだけでも感謝しなよ。そもそも風呂は清潔なうちに桔梗や勝利が入るもんなのに子供に順番譲ってもらって恥ずかしくないの?」とコレでもかと言い負かされて真っ赤になった勝田台 風香はしっかりとお替りまでしてから部屋に引きこもった。


そんな中、上野 桜子だけは京成学院の代表のように皆に謝って回る。

だが話を聞けば上野 桜子は残されたメンバーとは会話すらろくにない訳で、変な話だが京成学院の学校生活よりもコルポファで玉ノ井 勇太達と過ごした時間の方が濃密だと言っていた。


上野 桜子は絵が得意でカメラのない代わりに桔梗と勝利の絵を描いて玉ノ井 勇太達に渡した。

それは貰った方は金を払わなければと思える腕前であったが上野 桜子は「褒めてくれてありがとう」とお礼を言った。


「あの日も絵の練習しててクロッキー帳を持ってて良かった」と笑う上野 桜子に板橋 京子は「私、あの日なんでか鞄持って逃げようとしてカバン持ってきててノートとかあるから紙ならあるからね」と話していた。



そして日曜日。

挨拶に現れたストルトを全員で取り囲むように立って京成学院の連中を呼んだ。


初めは「何かな」と、とぼけたストルトだったがすぐに本性を現した。


「二度と転移なんかするものか!お前達のせいで勇者はいない!また来年の勇者が来てフェルタイするまで戦うのだ!」


この言葉に帰還を拠り所にしていた京成学院の生徒達は泣き崩れる。


泣き崩れた京成学院の6人を無視して玉ノ井 勇太が「なあ、一個いいか?」と聞く。

「なんだ?」

「仮にフェルタイってのが成されれば俺達は帰れるんだよな?」


「その通りだ、姫様からはそのように聞いている」

そう言ってストルトは逃げるように帰って行った。


この日、どんなに落ち込んでも人一倍食事だけは摂っていた勝田台 風香は夕食時にも部屋から出てこずに泣き続けていた。

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