ろくでもない異世界転生をさせられたアタシ

あべくん

序章 茜1人の旅

第1話 納得できない!

 「昨日未明、A市の建物で火災が発生しました。この事故により、2名の高齢者が負傷し、内1名は意識不明の重体」

 「M市で殺人事件が発生・・」

 「政治家の汚職・・」


 頼んでもいないのに朝から辛気臭い話を延々垂れ流すテレビを思い出しながら、影になっている校舎の裏で、高校生の高橋茜は青空を見上げていた。

 のんびりと雲が流れる程度の風が、茜の茶色いセミロングを揺らし、夏服にはじんわりと汗がにじんでいる。

 今こうしている間にも、世界のどこかで、誰かが大変な目に合っているのだろう。自分とは何の関係の無い、どこかの誰かが。


 着地点の無い考えを頭に巡らせてから、茜はへらへらと口を歪めて、手に持った煙草を口に運ぶ。童顔の彼女には似合わない、笑みと煙草。

 誰も思いもしないだろう、自分が出席もせずに校舎裏で煙草をふかしているなど。これでも、成績は中の中、運動だって多少は出来るし友人もいる。

 もしも自分が将来、スポーツ選手だとか教授になるのならば、今すぐにでも勉強に熱を入れて未来の為に努力をするべきだが、今の大人たちとニュースを見ていると、そんな努力がアホらしく思えて、茜は仕方なかった。



 彼女にとって世と人とは、興味を向ける価値も無い、空っぽな虚構に過ぎない。無関心であることが悪ではないし、関心を抱けるモノなど何一つ無いからだ。



 視線を落として再び煙草を咥えて、口の中に溜まっていく煙を、味わう訳でもなく味わってみて、顔を上げる。

 だが青空の代わりに、黒い塊が自分の真上に落ちてきた。



 気が付いた時、茜は灰色の空間にいた。

 自分は立っているが、どこが上で下なのか、そもそもちゃんと立てているのか分からなくなるような、まるで宇宙のような場所。


 「ど・・どこ・・?」


 意識せずに口から出た不安に、冷や汗や震えが続く。


 「なんなの・・なに?」

 「何だと思う?」


 突如、茜の背後から男の声がして勢いよく振り返ると、まるで道化師のような見た目をした男が椅子に座り机に両足を乗せながら、彼女をせせら笑っていた。

 一体何が起こったのか、ここはどこなのか、あの男は何者なのか。茜の胸中にあった、行き場の無い不安が、ふつふつと怒りに変わり、矛先が男性へと向かった。


 「だ、誰だよ!オメーはよぉ!?」


 彼女の怒鳴り声に、男性は軽く欠伸を返す。


 「な・・んだよ・・・舐めてんのか!?クソ野郎!」


 全く動じない彼に対して、茜が近づいて更に圧を掛けようと思ったが、体が動かない。


 「いいから、そういうの」


 男性は茜から顔を逸らして、耳の穴に指を突っ込んでほじくり始める。


 「高橋茜。お前は死んだ。これから異世界に飛ぶ」


 興味なさげに淡々と告げられていく言葉は、軽さの中に確かな真実味があった。


 「やる事は後始末。やんなくてもいいけど、その時は本当に死ぬ呪いを掛けたから、まぁお前次第ってやつ」


 男が言い切った瞬間、茜の足元が白く光り出して、彼女の体がふわふわと宙に浮き始める。だと言うのに、男はほじくり出した耳クソにしか興味がないらしく、彼女の方を一切見ていない。


 「ざっけんな!何なんだよこれ!?降ろせクソが!」


 必死に体を動かして抵抗しようにも、それが出来ず、唯一動く口を使って精一杯の抵抗をしてみる。徐々に感じる虚しさすらバネにして、どんどん怒鳴っていく。


 「なんとか言いやがれ!コラぁ!」

 「君の精神に見合った能力を渡したから、それで頑張ってねー・・なんて」

 「は!?意味わかんねぇこと抜かしてんじゃねぇぞ!」


 灰色の世界で最後に聞こえたのは、男の甲高い嘲笑だけだった。

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