Ⅲ
「それって、私も含まれていませんよね?」
「え?」
俺は、葵に睨まれて自分が発言した言葉を思い返す。
「どうせ、私は面倒な女ですよ。陣君には、迷惑ばかりかけていますからね。私が、もっとましな女だったら、陣君に苦労なんてなかったと思いますから」
「いや、そこまで言ってはいないだろ。別に葵が面倒とかではなくてだな……」
「それはどうでしょうか?」
「いや、本当だって、だから機嫌を直してくれよ」
葵は、機嫌悪そうにそっぽ向く。
おかしい。さっきから、葵の声のトーンが、なぜか、俺をからかっているように聞こえる。
「ちょっと待て? お前、さっきから俺で遊んでいないか?」
俺は葵に質問してみる。どう見ても、怪しいからだ。
「さぁ? それはどうでしょうか?」
葵は口元に手を抑え、クスッと笑みを浮かべながら、俺の方を見て言った。
やっぱり、ワザとだ。俺をからかう時に葵は、生き生きとしている。
これで何度振り回されたことやら……。
「ま、放課後になれば分かることだから。それと並行して、勉強を教えてくれ」
俺は、再び、外の景色を眺めながら、未だ止まない雨を愛おしく思った。
放課後——
葵と共に文芸部の部室に訪れると、部屋には富山、一人しか居なかった。
「あれ? 犬伏はどうしたんだ?」
「さぁ? どこか、ほっつき歩いているんじゃないの?」
と、富山はそう答える。
「なんだよ。自分から呼び出しておきながら、本人は遅刻かよ。毎日、ここに来ているとはいえ、急用があるとき、こちらの対応も考えろってーの」
俺はいつもの席に座り、葵はその隣に座る。
犬伏が来るまで、とりあえず、葵に勉強を見てもらう約束になっており、俺は、勉強道具をカバンの中から取り出した。葵も同じく、勉強道具を取り出す。
「あなたが勉強するのって、珍しいわね。雨でも降るのかしら」
「悪いかよ。後、現在進行形で、雨は降っているけどな」
「ああ、梅雨だからね……。晴れの日の多い方が、逆に不自然よね……」
富山は、今日の天気を部屋の窓から確認して言った。
「それで、何で勉強をするの? いつもは本を読んでいることが多いけど……」
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