「それって、私も含まれていませんよね?」


「え?」


 俺は、葵に睨まれて自分が発言した言葉を思い返す。


「どうせ、私は面倒な女ですよ。陣君には、迷惑ばかりかけていますからね。私が、もっとましな女だったら、陣君に苦労なんてなかったと思いますから」


「いや、そこまで言ってはいないだろ。別に葵が面倒とかではなくてだな……」


「それはどうでしょうか?」


「いや、本当だって、だから機嫌を直してくれよ」


 葵は、機嫌悪そうにそっぽ向く。


 おかしい。さっきから、葵の声のトーンが、なぜか、俺をからかっているように聞こえる。


「ちょっと待て? お前、さっきから俺で遊んでいないか?」


 俺は葵に質問してみる。どう見ても、怪しいからだ。


「さぁ? それはどうでしょうか?」


 葵は口元に手を抑え、クスッと笑みを浮かべながら、俺の方を見て言った。


 やっぱり、ワザとだ。俺をからかう時に葵は、生き生きとしている。


 これで何度振り回されたことやら……。


「ま、放課後になれば分かることだから。それと並行して、勉強を教えてくれ」


 俺は、再び、外の景色を眺めながら、未だ止まない雨を愛おしく思った。




 放課後——


 葵と共に文芸部の部室に訪れると、部屋には富山、一人しか居なかった。


「あれ? 犬伏はどうしたんだ?」


「さぁ? どこか、ほっつき歩いているんじゃないの?」


 と、富山はそう答える。


「なんだよ。自分から呼び出しておきながら、本人は遅刻かよ。毎日、ここに来ているとはいえ、急用があるとき、こちらの対応も考えろってーの」


 俺はいつもの席に座り、葵はその隣に座る。


 犬伏が来るまで、とりあえず、葵に勉強を見てもらう約束になっており、俺は、勉強道具をカバンの中から取り出した。葵も同じく、勉強道具を取り出す。


「あなたが勉強するのって、珍しいわね。雨でも降るのかしら」


「悪いかよ。後、現在進行形で、雨は降っているけどな」


「ああ、梅雨だからね……。晴れの日の多い方が、逆に不自然よね……」


 富山は、今日の天気を部屋の窓から確認して言った。


「それで、何で勉強をするの? いつもは本を読んでいることが多いけど……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る