「それな。中間テストがあるのをすっかり忘れていたんだよ。それで、学年で上位をキープしている葵に勉強を教えてもらおうと思ってな……」


「なるほど。そう言えば、この学校って、中間テストが一学期と二学期にあったわね」


 富山は、うんうん、と頷く。


「で、お前は勉強しなくていいの?」


「私? 私、別に勉強しなくていいわよ。そこまでいい成績を取ったところで、何の役にも立たないし、全て終われば、元の世界に帰るだけだからね」


「あー、お前、未来人だったな。すっかり忘れてた、その設定」


「いや、そこ忘れるところ? まぁ、いいけど……」


 富山は、はぁ、とため息を漏らした。


 それから犬伏が姿を現すまでの時間、俺は葵に勉強を教わり、富山はずっと、スマホの画面を眺めていた。


 降り続く雨は、少し弱まりを見せた。


 すると、扉がノックされ、ようやく、犬伏が姿を現す。


「遅いぞ。いつまで、待たせるつもりだ?」


「いやー、すみません。ちょっとばかし、色々とありまして……。大変でしたよ」


「何がちょっとばかしだよ。ほぼ一時間経っているじゃねぇーか」


「本当にそれよね。あなた、私がどれくらい暇を持て余していたのか、分かっているの?」


 いや、お前はただ、スマホをいじっていただけだろ。


「それで、犬伏さん。何か、あったのですか?」


 葵が右手を軽く挙げて、質問する。


「ああ、その事なのですが、今からご説明しますね」


 犬伏はすぐに自分の席に座り、カバンの中から、資料を取り出した。


「とりあえず、これをご覧ください」


 手にした資料を、俺達の前に見せる。


 そこには履歴書みたいな形式で、右上には少女の写真、後は、何かずらっと書かれていた。


「ええと、これは?」


 葵が犬伏に訊く。


「これは次の天使が眠っていると思われる少女です。そして、天使化の暴走となりえるでしょう」


「藤峰皐月。聞いたことない名前だな……」


 俺は名前を見て、首を傾げる。


「それはそうよ。だって、ここに書いているじゃない。三年一組って」


 本当だ。三年一組と隣に書いてある。

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