XVIII

「………」


 互いに下を向きながら、沈黙の時間が過ぎていく。


 葵は、チラッ、チラッとこっちを見ては、すぐに目を逸らすし、完璧にここはアウェイ状態である。


「「あのっ! あ、そちらからどうぞ……。あっ……」」


 声がかみ合って、また、気まずくなる雰囲気だ。どこかに、この様子を見ているあの二人は、どういうリアクションを取っているのか、想像すると、なぜか、ムカッと来る。


「そ、それじゃあ、行くとするか……」


「は、はい! そうですね。行きましょうか」


 ぎこちなく、恥ずかしがりながら手を握り、一呼吸おいてから一緒に歩き始めた。




「犬伏、二人が動き出したわ。それにしても、初々しいデートする二人を見ていると、なんだかムカムカ来るわね」


 私は、遠く離れた場所から犬伏と共にデートを始める二人を監視していた。


「そうですかぁ? あの二人、あれでいいと思うんですけどねぇ。それよりもしっかりと監視は続けてくださいよ。僕はモニターを確認しながら状況を把握しないといけないんですから」


「分かってるわよ、それくらい……。ったく、なんで二人のモニターチェックをしないといけないんだか……。そんなの雰囲気で把握すればいいじゃない」


 タブレットを操作している犬伏を見ながら、私はプクー、と頬を膨らませた。


「ほら、移動するわよ。二人を見失っちゃうじゃない」


 私は、犬伏の腕を組みながら二人が向かったショッピングモールの中に入った。




 うーん。あんなきれいな人がお兄ちゃんの……。噓でしょ、いつの間にあんな人とお付き合いをしていたの。


 あ、そうだった。こんなところで油を売っている暇なんてない。早くお兄ちゃんを追いかけないと……。ん? さっきからあの二人何をしているんだろう?


 私の視界に入ったのは、お兄ちゃんたちを建物の陰でこそこそしながら見ている男女の二人組だ。男の方は、タブレットを持っており、女の方は、何かギャー、ギャー言っているように見える。あの二人組、怪しすぎる。


 もしかして、ストーカー? いや、それにしてもストーカーなら男女二人で行動するわけがないし、一体、なんなの? あの二人?


 その二人組もお兄ちゃんたちがショッピングモールに入っていく姿を確認すると、すぐに移動開始する。その後を私も追うように、周囲から怪しまれずショッピングモールに入った。


 今日の服装は、あまり目立たないように一人でも移動できる姿だ。

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