「そうだな。おそらく、今の状況なら、辻中は、天使と実際に話をしている可能性も高いし、俺たちが話をすれば、素直に受け入れるかどうかは、彼女の性格上、無理じゃないと思うが、それを否定するかもしれないからな」


「そうですよね。そこは、何とかしないといけませんよね」


 苦しそうは辻中を見て、俺は、本当に彼女を助けることができるのか、疑心暗鬼になる。


「二人とも、そろそろ、応急処置を離れるから少し離れていてもらえる?」


 富山は、右手を辻中の胸の辺りに当てて、目をつぶり、集中し始める。


 すると、辻中の胸の辺りから魔法陣が現れ、彼女を覆った瘴気が少しずつ吸い取り上げられていく。


「犬伏、これはあれか? 一種の回復魔法的なものなのか?」


「そうですね。富山さんは、万能型の魔法使いですし、これくらいの事は容易いでしょう」


 唖然とする俺は、魔法を見るのはこれで二回目であり、回復魔法は初めてである。


 集中する富山を見ながら、俺は、辻中が少しでも良くなることを願った。


 瘴気が消えた後、彼女の容態は、初めの頃よりかは呼吸も良くなっていた。


「一応、応急処置は何とか成功したみたいだけど、どれくらい持つのかは分からないわね。天使化の進行は、私の魔法でも完全に治せるわけでもないし、後は、ここからどうやって封じ込めるかはあなた次第よ」


 富山は、息をはぁ、と吐いては、俺の方を見た。


「ああ、分かっている。二人ともありがとうな。この後は、俺なりに何とかしてみるから先に教室に戻っていてくれ。生徒が四人もいなくなったら怪しまれるだろ?」


 二人を先に教室に戻して、俺は辻中のそばにいることにした。もちろん、保健室の先生には、許可をもらっての事である。


 椅子に座り、寝ている辻中の顔を見る。寝顔も案外、可愛いものだなと思いながら、俺は疲れたのか、座ったまま眠り始めてしまった。




 さっきまでの苦しさが、どこかに流れ落ちていくようでした。


 私は、暗闇の中で不安定なところにいました。ここがどこなのか、はっきりとしない中で、私の体は宙に浮いていました。


「そういえば、確か……、私は図書室で気を失って、その後、どうなったのでしょうか?」


 体は苦しくもなければ、だるいといった感じもなく、あの苦しみは何だったのか、今になってみれば、不思議な感覚でした。


 そうです。あの後、坂田君が、私に何か呼び掛けていたような……。思い出せません。


 それにしても、ここは一体どこなのでしょうか? 出口はどこにあるのでしょうか?


 私は歩きながら、この暗闇から出るための出口を探し始める。

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