71.追いかけてくる者
「……うん?」
「あれ? どうかしましたか?」
そこで、マルギアスさんは少し不思議そうに声をあげた。それは、まるで何かに気づかいたかのような声だ。
「……何か音が聞こえませんか?」
「音……?」
マルギアスさんに言われて、私は耳を澄ませてみる。すると、確かに奇妙な音が聞こえてきた。
それは等間隔で聞こえてきている。私は少し嫌な予感がした。なぜなら、それが足音のように聞こえたからだ。
「マルギアスさん、外の様子を」
「ええ」
私が言葉を発するよりも早くマルギアスさんは動いていた。馬車の窓を開けて、そこから周囲の様子を確認していたのだ。
外を見て、彼はすぐに表情を変える。それは、驚いているような表情だ。
「あ、あれは……」
「……失礼します」
困惑するマルギアスさんを押しのけて、私も窓から身を乗り出してみた。すると、馬車の後方からこちらに迫ってくる男が目に入る。
その男の体は、巨大だ。明らかに、普通の人間とは異なっている。
そして、その顔を見て、私は理解した。グーゼス様が、私を追いかけてきているのだと。
「は、話には聞いていましたが……あれが、ルルメアさんを狙っている化け物なんですね?」
「ええ、そうです。でも、まさか、こんなに早く追いかけて来るなんて、思っていませんでしたが……」
「とりあえず、御者をやっている騎士に馬車の速度を上げるように言います。当然、既に気づいているとは思いますが」
「いえ、そんなことをしても無駄です」
「無駄?」
「もう追いつかれますから……」
グーゼス様は、その巨体に見合わぬ速度でこちらに迫って来た。その力強い足音が、私達には聞こえていたのだろう。
馬車の速度を上げても、恐らく逃げ切れない。そう思った私は、その手に魔力を集中させる。
「ルルメアさん、何を……?」
「彼を攻撃します」
「なるほど……魔法ですか」
「ええ」
マルギアスさんの言葉に答えながら、私は手から光の球体を放った。
それは、一直線にグーゼス様に向かって行く。彼はそれを躱そうとしない。どうやら、前と同じように正気ではないようだ。恐らく、私の元に向かうことしか、今の彼にはできないのだろう。
「ぐああっ!」
「当たったようですね?」
「ええ、ですが、これで倒れてくれる程、彼は甘くないでしょう」
私の攻撃は、グーゼス様に命中した。しかし、少し怯んだだけで、彼はその進行をやめようとはしない。
それには、私も少々困った。この状況では、強力な魔法も作り出せない。先程のような小粒な魔法しか使えないのだ。
私は、少し考える。今から、どうすればいいのかを。
答えはすぐに出た。ここで彼と戦うしかないと。
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