28.当てにならない地図
「スライグの名誉のために最初に言っておくが、今回はあいつに非がある訳じゃない。あいつは重度の方向音痴ではあるが、今回非があるのは、家の姉の方だ」
「お姉さんに、ですか?」
ナーゼスさんは、歩きながらそのようなことを言ってきた。
どうやら、今回に関してはスライグさんのせいではなかったようだ。
私は、心の中で彼に謝罪する。スライグさんならあり得るなんて思って、ごめんなさいと。
「スライグが方向音痴だと知っていた家の姉は、あんたの話が来た時に地図がいるだろうと、あいつにそれを渡したんだ」
「ああ、この地図ですか?」
「そうだ。だけど、それはまったく別の場所が書いてある地図だ。確か、包丁か何かが傷んだ時に鍛冶屋までの道のりを姉貴が書いてくれたものだな……まあ、要するにそれは、当てにならないということだ」
私は、手元の地図を見ながら苦笑いする。この地図は、ナーゼスさんのお姉さんであるトゥーリンさんが間違えてスライグさんに渡したもの。その事実には、もう笑うしかなかった。
ただ、そこで私は違和感を覚える。どうして、私はこの地図を使って鍛冶屋まで辿り着けたのだろうか。
「ナーゼスさん、事情はわかりました。でも、これって私のマンションからの地図だと思うんですけど……」
「俺と姉貴も、以前はそこに住んでいたんだよ。で、そこから定食屋への地図も家にはあるんだ。引っ越しの時に使ったやつがな。その二つを、姉貴は間違えたんだ」
「な、なるほど……」
私の疑問は、すぐに解消された。二人があのマンションに住んでいたというなら、私が鍛冶屋に行けるのは何もおかしくない。
ただ、今度は別の疑問が生じることになった。二人の身の上が、少し気になったのである。
しかし、それはデリケートな問題だ。少なくとも、出会ったばかりの私が聞くべきことではないだろう。
「それで、俺はその話を絶望的な顔をしている姉貴から聞いて、あんたを探しに出かけた訳だ。まあ、鍛冶屋で張っていれば、いつかそれらしい人が現れるだろうと思っていたんだが、思っていたよりも早く来ていたんだな?」
「え? ああ、それは道に迷うかもしれないと思って……」
「なるほど、それは賢明な判断だ。地図が間違っているかもしれないしな」
ナーゼスさんは、こちらを向いて少し笑った。それに対して、私も笑みを浮かべる。
「まあ、あんたなんだろうとは思っていたが、それでも話しかけるには勇気が必要だった。何しろ、間違っていたらナンパか何かだと思われるからな」
「ふふ、そうかもしれませんね……」
「うん? どうかしたのか?」
「いえ……」
ナーゼスさんの言葉に、私は思い出していた。スライグさんの時も、そんな感じだったということを。
もしかして、私はこれから先男性と出会う時にずっとこういう風に出会うことになるのだろうか。
そんなあり得ないことを思ってしまい、私は思わず少し噴き出してしまったのである。
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