『4』



「さて…戻ってきたわけだけど、七海…」


「うん…。聞いたよ全部。だけど、問題ないよ。私は九十九と一緒にこの世界を攻略してみせるーーー!」



 先ほどと同じ空間。しかし、空気は少しばかり重たく感じる。それでも…。



「やらなきゃ。戻るためには…とりあえず当面はこの陣営の強化をしなきゃだな!」



 目標は決まった。のんびりしてはいられないが、幸い時間はほぼ無限にある。



「そうだね…、そういえば二神さんが言ってたんだけど、その霊脈玉で兵力だったり色々出来るみたいだからやりながら覚えていこうよ」


「あー…ちょっとばかり喧嘩腰だったから、そういうのは全く聞いてなかった。まぁ、実際やってみなきゃわからないか」



 霊脈玉に手をかざす九十九。すると目の前にディスプレイが現れる。



 最果城:城主・九十九


 国力 100


 雇用:門番→田中(月3万)


 税収 0


 陣営 なし


 残金 490240円



「そりゃ生まれたばかりの城だから国力はほぼ0に等しいな…」


「門番さん田中って言うんだ。…それにしても残金意外に少ないね」


「多分鳴神大戦記で持っていたお金だろうけど…、俺は元々アイテムとかに使ってるからいつもかつかつだし、七海も鍛冶屋に行ったばかりだからそんなに無いもんな」


「でも、ここにくる前にこの刀を整備できて良かったよ。この刀の耐久値戻すのも100万近くかかったわけだし」


「とにかく稼いでいろんな人を雇用しよう!何かコマンドはないかな…おっ、募集もあるみたいだしやってみるか」



 その日は募集をひたすらかけて終わる。調理員、門番、雑務員、兵士。その他にも稼ぎどころや税金等の収入について色々と模索はしてみたものの、物価だったりがあまりわからなかったため、後日町に繰り出すことに決めた。



そうこうしているうちに夜になり、町の明かりがほぼ消えてしまったころ、2人は寝室で蝋燭の明かりを前に布団を敷く。



「うひゃ〜、やっぱり夜は怖いね。…だけど久しぶりだなぁ、九十九とこうやって布団を敷いて寝るなんて」


「小学校以来だな…七海はこの世界で生きるのは怖くないか」



 静寂。生活音はなく、心臓の音と吐息の微かな音だけが身体に響いている。少しばかりの沈黙の後、七海が口を開く。



「正直…怖いかも。だって、本当に死んじゃう可能性があるわけだし。ゲームの世界だけど、今は現実なんだなって。だけど…」


「だけど…?」


「ーーーーーーなんとかなるって信じてる。時間はほぼ無限。九十九は城の内部にいたから見てなかったかもだけど、私は深淵城攻略で外にいたからどれくらいの脅威かってのは分かってるつもり。現実世界の私だったら木刀持っても城の石垣にすら傷をつけられないし、そもそもとてつもない攻撃で一瞬で死んじゃうけど…幸い職業補正とかで戦えるはずだよ」


「そうだな…悲観してても仕方ない。俺たちは生きて、ここから出るんだ」



 決意は揺るがない。このゲーム世界で生きていく。それは紛れもない事実で、逃げることもできないのだから。だったら抗おう。こうして城を構え、目標は明確なんだから。



「これは…好機なのかもな。ちょっとした人生の休暇って意味でも、まだまだこのゲームが楽しめるってことでも。やっぱり怖いけど…生きてみよう、この世界で」



 それ以上の会話はなく、精神的に疲れたのだろうか、2人とも寝息を立てて微睡みに落ちていったのだった。




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