第11話 旅
葵とアイラはアリーナの消息を確認するために旅に出た。
ここから南に60キロ位の処に街があり、そこで消息を聞こうと出掛けた。
その手前にアリーナの最後の戦闘場所だった渓谷があった。
夕方にその渓谷に着いた。戦闘の跡があったが、数本の矢が落ちているだけだった。
先にアイラ、後に葵と馬に乗り進んでいた。陽が西に傾きアイラと葵の影は長く東側の崖近くまで伸びていた。崖は西日を受け赤く光っていた。
突然に銃声がして葵が振り返ると、2人の白人が馬に乗り、もう目の前にいた。
先頭の男は葵の馬に飛び移り、葵を抱きかかえて一緒に馬から落ちた。
立ち上った葵と素早くナイフを抜いた男は対峙した。
男は右手に持ったナイフで刺して来た。
葵は右手を掴み廻して投げた。男は仰向けに倒れ、顔に打撃して気絶させた。
後ろの男も馬から降り拳銃を抜いて近くまで来ていた。
葵は男のナイフを素早く取り、男に向けて投げ、胸に刺さり男は倒れた。
気絶した男は縛り放置した。
葵もアイラもこの旅には武器を持って来なかった。少し後悔していた。
途中で兵隊・開拓者の白人に出会う機会が多く無駄な戦闘は避けたかった。
葵も目立たないように部族の娘の服を着ていた。
次の日、二人は街の入口にいた。
街の入口から真っすぐに広い道が続いて、その両脇に建物が連続して建っていた。
建物の外壁は板張りで薄い明色で塗装され、四角い窓が幾つか付いていた。
部屋の中がランプの光で見えていた。
「綺麗ね、こんな家に何時か住んで見たいね」とアイラは目を輝かせ葵の顔を覗き込んで言った。
「そうだね」葵は建物と道を見ながら答えた。
「そこの建物に部族の人が毛皮を持って並んでいるけど何?」と葵は聞いた。
「私も良く知らないけど、毛皮と白人のお金か又は色々な物と交換するみたい」
街の入り口付近には毛皮交換以外の部族の人々がたむろしていた。
アリーナの話を聞きたいと思い、座り込んで何かを呑んでいる部族の男の2人組に聞く事にした。
「何を呑んでいる?」葵は世間話から始めた。
「ウィスキーだよ、お前はどこの部族だ?」急に変な質問をされて男は不機嫌な顔をして答えた。
部族名を話すと、男は驚いて話した。
「アリーナと同じ部族だな、ここは白人に同化した部族しかいられないから早く逃げた方が良い」
「私達も同化した、その証拠に武器は持っていない。アリーナの消息が知りたくて来ました」葵は少し嘘を言った。
「アリーナはそこの渓谷で兵隊と激しく戦って死んだ。この伯父さんがその時に戦った兵隊に詳しい話を聞いた。話をしてやりなよ」ともう1人の若い男がウィスキーを一口飲みながら話した。
葵はアイラの顔を見た。俯いて涙を落していた。
「泣いているがアリーナの知り合いなのか?」伯父さんと呼ばれる男が聞いた。
「友達でした、2人共白人の兵隊に両親を殺された」とアイラは答えた。
「俺も昔はアリーナのように白人と戦った。何度も部族の村を襲撃されて妻と子供を殺され、心が折れてしまった。そして仕方なく甥と一緒に同化した」と伯父さんは悲しげに話した。
葵はアリーナの最後の話を聞くのは辛いので、少しの間だけ話を逸らそうと思った。
アイラにとっても大変辛い事だった。それはアイラの生い立ちだった。
アイラの両親が殺された話は葵の同情を引くための祈祷師の嘘だった。
アイラは村の近くに乳飲み子で捨てられていた。
村で育てられ4歳になると各テントを廻り、家事を手伝い食事を貰う生活を続けていた。
兵隊の襲撃も多く部族も貧しくアイラを貰ってくれるテントはなかった。
だからアイラは家族の愛を知らなかった。葵もアリーナも孤独で3人は稽古や、一緒に食事をして短い期間でも家族同様になっていた。
アイラにとってアリーナと葵の2人は掛け替えのない存在になっていた。
アリーナはアイラを本当の妹のように可愛がっていた。
戦闘の時はアイラを側に置き守っていた。アリーナの最後は聞きたくなかった。
「ウィスキーはどうして手に入れるの? 伯父さん達は保留地にいるの?」葵は話しを逸らした。
「毛皮と交換する。保留地には住んでいない。白人の規則で生きて行くのは嫌だった。今は許される場所でテントを張り生活している。狩りをするにもその方が良いから、毛皮が取れないとウィスキーが呑めなくなるから不安だ、俺も中毒になっているようだ」と甥を見ながら話した。
「伯父さん、さっきのアリーナの最後の話は?」と甥は聞いた。
そう言われて葵とアイラは聞く覚悟をした。
「兵隊の話では、峡谷で兵隊50名程とアリーナの率いる30名程の部族が戦ったが、人数で勝る兵隊が峡谷の隅までアリーナ達を追い詰めた。兵隊たちはアリーナが宝刀もなく不死身でない事も知っていた。徐々に間を詰めて行った」
「アリーナは接近戦が得意なので一旦兵を止め様子を見た。馬を降りたアリーナの廻りに6人ほどの部族の戦士がいるだけだった。戦いが再度始まったのは夕方で暗くなりかけていた」
「その日は曇りで月も出ていなかった。銃声が一斉に成り響きアリーナの腕と足に数発当たりその部分の服が破けた。でもアリーナは平然と立っていた。次に銃声がした時は胸に3発ほど受けそのまま後に倒れた」葵はここで話を止めた。
「大丈夫? まだ続ける?」泣いているアイラに聞いた。
「大丈夫です、続けて」
「アリーナの遺体を収容しようとしたが、まだ4人程の部族の男がいた。また銃撃しようとしたが、急のあたりが暗くなり、何も見えなくなった。まだ部族の男達がアリーナの遺体を守っていて暗闇の中に突撃するのは危険と考えた。明日の朝に遺体を回収する事にした」
「次の日の朝、遺体を回収に出かけた。アリーナの倒れた場所に部族の娘が倒れていたが、アリーナではなかった。その娘はまだ生きていて後ろ手に縛られていた。部族の男の死体はあったが、アリーナの死体はなかった。暫く渓谷の廻りを探してみたが埋めた後はなかった」
「その後アリーナと一緒に戦った部族の男が捕まり、アリーナの遺体は置いて逃げたと語った。だからアリーナは今でも何処かで生きていると思っている人が大勢いる」
「その縛られた娘はどうなりました」葵は聞いた。
「娘に関しては重要事項でないので、この街の保安官が預かり調べる事になった。この街に連れられて来た時に姿を見たが綺麗だった。以前にアリーナに倒された将軍の処にいたと話し、それは将軍の元部下に確認したらしい。それに、白人の言葉しか話せなかったらしい。」
「それで娘さんはどうなったの?」葵は何か気になり聞いてみた。
「娘ならこの先の居留地にいるよ。将軍の配下だった事が良かった」
「アリーナが最後に一緒にいた娘さんなので、会ってその時の状況を知りたい」とアイラは葵に言った。
葵達は礼を言って居留地を目指した。
居留地は低い木の塀で囲われていた、入口の手前で葵達は馬を止めて事務所らしき建物に入って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます