第34話
ギルが待っているサロンに向かう。
ドレス姿はすでに見られているというのに、それでもどう思われるのか、少しだけドキドキしてしまう。
「ギルさま、お待たせいたしました」
顔を上げて視線がぶつかる。
ギルは私のチュールスカートの色味に合わせたクリーム色がベースの礼服に身を包んでいる。美しく繊細な金糸の刺繍がなされていた。きっと、私のドレスを受けて、新たに仕立ててくれたんだわ。
ギルは笑顔を見せて「今日は付き合ってくれてありがとう」と言い、これじゃあ俺と踊る時間が短くなってしまいそうだな、と零した。
そうして、両親やメイドの生暖かい視線に見送られた末に辿り着いた会場はまさに豪華絢爛、という言葉がぴったりの場所だった。
国王が主催、しかも女王の為の舞踏会となれば一流の会場で開催されるということを頭では認識していたけれど、まさかここまでとは。
「す、すごいわ……」
ギルのエスコートで大広間に入ると、そこは三階分ほどの高さがある空間で、目の前には大階段が設えられており、二階部分の張り出し廊下から降りてこられるようになっていた。
そして天井からは一定間隔でクリスタルが輝くシャンデリアが下がっていて、磨き上げられた床はその光を受けて輝きを放っている。
「リリアはここに来るのは二回目だろう? 特段新しいものもないようだが」
まずい。
「え、ええ。そうでしたわ。ただ毎回驚いてしまうほどこちらの会場が素晴らしく、そして美しいと思ってしまったのです」
「そうか。父上と母上が聞いたら喜ぶだろう。毎年この舞踏会の準備に力を入れているからな」
なんとか誤魔化せた、かしら……?
あぶないわ……この後きっとご挨拶の時間もあるだろうから、ぼろを出さずに乗り切らないと……。
ふと回りを見渡すと、着飾った紳士淑女たちがすこし距離を置いたところからチラチラとこちらを見ている。耳をダンボにしてささやき声を聴くと、「美しいわ……」といった賞賛の言葉の合間に、「破棄されたんじゃなかったの?」という言葉も聞こえてくる。
やっぱり、人の口に戸は立てられぬと言うけれど、婚約破棄のことは噂レベルにはなってしまっているようね。どうか今日一日だけでも、それが両陛下のお耳に入りませんように……。
色々と考えていて不安な表情をしてしまっていたからか、ギルが私の顔を覗き込んで「大丈夫か? 具合が悪いのか?」と聞いてくる。
銀の髪がさらりと落ちて、金色の瞳が心配そうに揺れている。視線を合わせていられなくてふと横にずらすと、左耳につけられたピアスが見えた。
私の瞳の色と同じ、空色の一粒の宝石。
衣装の色を揃えるだけじゃなくて、こんなところに私の色を入れてくれるなんて。今日はただの振りのはずなのに、すべてが私を“婚約者”だと証明してくる。
周囲の女子から「きゃ……!」と抑えきれない嬌声が聞こえた。
「あ、いいえ、すみません。少し考え事を……」
「そうか、何かあったらすぐ言ってくれ」
どうしよう、ずっと感じてはいたけれど、違うって思いたかったけど、ひょっとして……ギルはまだ、私に好意を持っているのかもしれない……。
グルグルとまた思考の渦に囚われそうになったその時、会場に流れている曲がふと止まり、執事が両陛下の登場を告げた。
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