第94話 俺と茜と、みんな。−3
午後の保健室。盛り上がっている人々を眺めながら、茜が起きるのを待っていた。
気絶してからほぼ30分くらい経って…。目の前の寝相を見つめると、なぜか茜にいたずらがしたくなる。人差し指で鼻を触ったり、頬をつついたりしてるけど、どんな抵抗もできず、眉をひそめる茜がとても可愛かった。
「起きて〜。茜」
「……ううん」
「起きないと…、食べられるよ〜」
「私、美味しくないから…食べないで…」
少し乱れた姿にどきっとする。
「起きてるよね?」
「寝てますぅ…」
俺は、恥ずかしくて耳が赤くなっている茜に気づいてしまった。
だよね…。そこで気絶してしまうと恥ずかしくなりますね…。茜…。
「どう見ても起きてるんだろう…」
「知らない…、恥ずかしい。めっちゃ恥ずかしい…」
「知ってたんだ」
「だって、本当にびっくりしたから…。そこでパッと来るとは思わなかったよ…」
「もうちょっと休んだ方がいいかな?」
「なんか…、こうやって二人っきりになるのも悪くないと思う…。へへへ…」
布団を被って、俺と目を合わせない茜がじっとしている。
加藤からL○NEが来て、そろそろ外で会わないといけないのに…。でも、茜は今起きたばかりだから…、寝ぼけてるこの甘えん坊をどうしたらいいのかな…。すぐ起こして外に連れて行く方法は…、それしかないのか。
「もうちょっと寝る…。恥ずかしくて二人に会いたくない…」
「へえ…なんで?」
「だって…、こんなこと初めてだもん」
「じゃあ、俺は二人と遊んでくるから…ここで休んでて」
「えっ!」
と、布団から顔を出す茜。
その首筋を狙って、すぐ唇をつける。抗えないようにぎゅっと抱きしめた後、茜が一番恥ずかしがる体勢でその首筋を吸ってみた。二人の体が熱くなっているのを感じる…。静かな保健室の中、精一杯自分の喘ぎ声を我慢した茜は震える手で俺の制服を掴んでいた。
ベッドの上でちょっとエロいことをしている二人。
「やめて…、人が来るかもしれないから…」
「起きた?」
「お、起きた…。起きたから…」
そう言ってからすぐ鏡を見て、俺がつけてあげたキスマークを確認した茜が涙声で話す。
「こんなところに…」
「なんで…?似合うよ?」
「知らないバカ…。本当に変態…」
すると、保健室の扉にノックをする音が聞こえて二人がびくっとする。
扉を開けて、中に入ってきたのは食べ物と飲み物を買ってきた加藤と上野だった。
「まだここにいたのか…」
「茜ちゃん、体は大丈夫?びっくりして気絶したって…聞いたよ」
「……だ、大丈夫、心配かけてごめんね」
「気にしなくてもいいよ…」
ちらっと、茜の首筋に残されたキスマークを見る海。
「あ、柊…。もしかして、俺たちがいいところを邪魔したか?」
「お前はちょっと…静かにしろ」
「返事が来ないから心配してたのに〜。二人ともイチャイチャしてたんだ〜」
「おい!加藤!」
その話に目を合わせる茜と美穂。何も言わず、黙々と焼きとうもろこしを食べる二人だった。ちょっと乱れている美穂の制服と真っ赤なキスマークが見える茜。この、言わなくても分かってしまう状況に…、二人はじっとして顔を赤めるだけだった。
「……」
「……」
コーラを飲みながら、ちょっかいを出す加藤の背中を叩いた。
「お前さ、上野と何したんだ。今まで」
「楽しいことかな…?でしょう?美穂ちゃん」
「は、はい…!せ、先輩と二人っきりになって…なって…楽しんでいました…!」
どう見ても、加藤のやつに襲われた反応だ。
「だって」
「……上野」
「はい?」
「加藤に変なことをされたらすぐ俺に言って、なんとかしてやる」
「は、はい!」
「ひどい〜。自分も茜ちゃんと甘い時間を過ごしたくせに…、寝てるうちにあんなことやそんなこと…」
と、いやらしい声で話す加藤に、持っていたとうもろこしを落とす茜だった。
「……へっ!柊くん…そんなことしたの?」
「……するわけないだろ!加藤の話を聞くな!茜!」
「アハハハハッ」
「お前…、全く…」
「あ〜そうだ。後夜祭の時は会長も来るって言ったぞ」
「会長、暇そう…」
「だよな…」
「ねえねえ。柊くん、コーラちょうだい」
肩をつつく茜にさりげなく飲みかけのコーラを渡した。
布団の中で汗をかいたから…、喉乾いたよね。じっとしてコーラを飲む茜の姿になぜか笑みを浮かべてしまう。幼い頃に、こんなこともあったよな…。一緒にご飯を食べると、いつもほっぺがいっぱいになる茜。それでも無理して食べようとするのが一番可愛かった。
その姿を思い出した俺は、さりげなく茜の頭を撫でる。
「うん…?どうしたの?」
「何も…?」
「茜ちゃんは愛されてるよね…」
「はい…?」
そう言ってる海と、そばから頷く美穂。
———保健室前の廊下。
その中を覗いている人に声をかける保健室の前田先生。
「何してますか?吉田先生」
「いや…。どうしたら高校生と付き合えるんだよ…。加藤、神里…」
「それは犯罪ですよ?吉田先生」
「羨ましい…、俺にもそんなチャンスをくれ…!俺も高校時代に戻りたいんだよ!」
「……」
ヤバそうな雰囲気を感じて、ポケットからスマホを出した前田先生がどこかに電話をかける。
「誰に電話かけるんですか?」
「110」
「えー!」
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