第93話 俺と茜と、みんな。−2

「あ、そうだ。みんな知ってる?」

「うん?何を?」

「二年E組でお化け屋敷やってるって…!」

「へえ…、そっか」

「行ってみよう!」


 加藤の話に、ぎゅっと…手を握りしめる茜。

 チョコバナナを食べていた彼女が少し緊張している…。


 もぐもぐ食べてる可愛い姿に笑いが出てしまうけど、俺は精一杯我慢して茜から目を逸らした。そして加藤と上野もそれに気づいたのか…、笑いを我慢する二人の口角が少しずつ上がっていた。


 なんで頬にチョコがついてるだよ〜。

 赤ちゃんかよ〜。


「じゃあ…!い、行きましょう!」

「おう!」


 浮かれている二人を先に送ってから、チョコバナナを持っている茜を呼び止めた。


「うん…?どうしたの?」

「それ、後で食べるつもり?」

「何を…?」

「頬についたチョコのこと」

「えっ…!ついてるの?知らなかった…。ねえねえ、拭いて拭いて…」


 人差し指でさっと拭いたチョコをそのまま口に入れたら、茜がびっくりする。

 片手で俺の手首を掴む彼女はすぐ赤くなって、ちょっと恥ずかしい雰囲気になっていた。なんかしたのか俺…、拭いてって言ったから普通に拭いたけど、なんでそんなに慌ててるんだ…?


「……い、今からお化け屋敷に行くの?」

「うん…。加藤はあれ好きだよな…」

「怖いのはちょっと嫌…、柊くんも行きたい…?」

「怖かったらここで一緒に待ってもいいけど、茜はどうしたい?俺は茜と一緒にいたいから、お化け屋敷なんて行かなくても構わない」

「ううん…。やはり行く…、行ってみたい」

「本当に?」

「せっかくだし…、そばからちゃんと守ってくれるよね?」

「分かった。じゃあ、行こう!」


 ……


 俺たちを待っている二人と合流し、順番を待ってお化け屋敷に入る。

 前が見えないほど暗いお化け屋敷の中、気づいた時にはもう加藤たちとは別れた後だった。あの二人に追いかけたかったけど、そばから俺の腕を抱きしめる茜は目を閉じたままゆっくり歩いていた。怖がらなくてもいいのに…、やはり暗いのは嫌だね。


 しかし冷房もつけたのか、ちょっと涼しい空気に手が冷えている。


「……全然平気…!」


 本当…?なかなかやるじゃん…と言いたかったけど、後ろから抱きしめられた。


「これで私は無敵だよ…!怖くない…」


 そうだよね。何も見えないなら何も怖くないよね…。頭がすごくいい、茜!

 びっくりさせる要素はないって言われたけど、知らないところから聞こえる気持ち悪い声に茜が怯えてしまう。震えている手と体、耳まで塞ぐのは無理だよな…。


「ここ…危険…!早くここを出よう!」

「大丈夫、お化け屋敷って言っても飾りとか演出だけだから…」


 すすす…。


「本当…?」

「そうだと、入る前に加藤が言ってくれたよ?」

「よかった!じゃあ、びっくりさせないよね?」

「うん」


 そろそろ出口が見えてきて、茜の頭を撫でてあげた。

 やっぱり怖いのはなかったんだ…。それもそれでいいと思う、雰囲気だけ十分気持ち悪かったし…。それ以上びっくりさせる要素があったら、茜が気絶してしまうかもな。


 すすす…。


 そしてどんどん近づいてくる人の足音にびくっとする柊と茜。


「何?今の音…」

「は、早くここから出よう!柊くん!」

「あっ、うん…!」


 慌てている二人、見えないところから枯れた声が聞こえる。


「あ…か…ね…」

「なんで、私の名前を知ってるの…?」

「あ…かね…ちゃ…ん。わ…た…しだ…よ」

「なんで…!私知らない!来ないで…!」

「あ…かねちゃん…。お…お…」


 声が聞こえる方向を見てるけど、何も見えないし…、茜は目を閉じたまま俺の手首を掴んでいた。けっこう気持ち悪い声だったから、茜がすごく震えている…。


「……柊くん、どうしよう…どうしよう…」

「あ…か…ねちゃ…ん」


 そして真っ黒の服を着て、白い仮面を被った人が茜に声をかける。


「おはよう!」


 と、その肩に手の置いた時、悲鳴を上げた茜がすぐ倒れてしまう。


「えっ…!茜ちゃん…?」

「その声は…?もしかして…」


 茜の悲鳴にびっくりして、仮面を外した人は生徒会の花岡だった。

 それより、なぜ花岡なんだ…?生徒会は仕事で忙しいって…、ぶつぶつ言ってたじゃん…会長。


「花岡?」

「へへ…、正解。ここ、友達がやってるから…ちょっとびっくりさせようかなーって…」

「おいおい…。いつからそこにいたんだ」

「入った頃からずっとついてきたけど…」

「そうだったのか、服が黒いから全然気づかなかった」

「今年は人手が足りないからね。こうやってびっくりさせるのは諦めたらしい」

「そっか…」


 じゃあ…、茜はどうしよう…?

 花岡がびっくりさせたせいで、今床に倒れている…。一応びっくりさせる要素はないって言ったけど…、俺にも少しは責任があるってことだよな…。見えないところから姿を現して…、茜の肩に手を置いた時は…俺もびっくりしてしまった…。


「だ、大丈夫…?茜ちゃん…」

「ちょっと気絶したみたいだ…。花岡がびっくりさせるからこうなるんだろ」

「ごめんね…。茜ちゃん怖いのが苦手だったんだ…」

「まずはここを出よう」


 今は仕方がないから倒れている茜を持ち上げて、お化け屋敷を出る。


「あら、お姫様抱っこ…!ロマンチック!」

「何言ってるんだ…。花岡も会長に頼んでみたら…?」

「会長ね…。なんって言うか、私には興味なさそう…」

「そんなことあるか…。俺にはそう見えないけど…」

「私も神里くんと茜ちゃんみたいな関係になりたい。二人とも可愛いからね」

「どこが…」

「茜ちゃん、たまたま生徒会室に遊びに来るからね?私、恋話が好きだから茜ちゃんに聞いてるのよ〜」

「へえ…」

「でも、茜ちゃんはね?柊くんと一生を共にしたいって!」

「……」


 茜…、生徒会室で何を言ってるんだ…。

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