第35話 女の子とデートって。−4

 ちょっと遅い昼ご飯を食べながら二人だけの時間を満喫していた。

 何をしても笑ってくれるし、何を食べても幸せな顔をする雨宮。普通の人はこんな女子と付き合うことができるなら死んでも後悔ないよな…。誰かを好きになって一緒に何かをするのは本当に大事だと思う…、それが学生時代の思い出になるからさ。多分、雨宮もそんなことがしたいんだろう…。


 そんな時期に、そばにいたのはあいにく俺と言う人間だった。

 何もいない俺、空っぽで純粋でもない俺が…、こんな女の子と一緒にデートをしている。俺は美香さんのことを抱きしめて、いまだに彼女のことを忘れられないのに…どうして雨宮はこんな俺と一緒にいてくれるんだろう…。


 言ったことないから仕方がないのか…、その前に言いたくないよな…。

 嫌われるから…。


「ねえ、食欲ないの?」

「うん?」

「あんまり食べないから…」

「俺は…、雨宮が食べてる姿を見るのが楽しいから…ちょっとぼーっとしてた」

「なんだよ…。変」

「変じゃないよー」


 手を繋いだり、たまには抱きしめたりする雨宮にはどうしてあげたらいいんだ。

 俺が彼女にできることはなんだろう…。こんな明るい女の子が俺のそばにいてもいいのか、本当にいいのか…?自ら距離を置くってそう決めたのに、俺は…そのままずっと無駄に時間を消費していた。


「ホイッ!」


 俯いていた俺が皿に置いているミニトマトを潰すと、口の中に入ってくる肉の味にびっくりしてしまう。


「……」

「お肉ー。美味しい!」

「びっくりした…」

「柊くん、楽しくない…?やはり私と一緒にいるのが嫌なの?」

「えっ…?どうしてそんなことを言うんだ…?」

「なんか、楽しそうに見えないから…」

「ごめん…。俺は楽しいけど…デートなんか初めてだからさ。どうしたらいいのかよく分からなくて…」

「……そう?柊くんとデートした女の子は私が初めてだよね!」

「うん。そうよ」

「嬉しい…!」


 俺の表情が悪かったのか…、いけない。

 また、そんなことを思い出してしまう…。


 雨宮と今日は楽しい思い出を作るつもりだったのに、俺ってやつはいつも…。


「ねね、柊くん…!」

「うん?」

「一緒に写真撮らない?」

「写真?」

「うん!この後にデザートがくるからね!一緒に撮ろう!」

「いいよ。自信はないけど、頑張ってみる!」


 そして雨宮が注文したチーズケーキとココア、そして俺のコーヒーが出た。

 すぐ一口食べようとする雨宮に「写真」って言ってあげたら、びっくといてすぐ体の向きを変える。美味そうなケーキに惹かれて写真を撮るのも忘れたんだ…。


「こっち!こっち…!座ってみ」

「うん…」

「写真って、角度が大事だよ!」


 スマホを持ち上げて「V」のサインをする雨宮が俺に寄りかかって、俺もさりげなく笑顔を作ってみた。女子と一緒に写真を撮るのは生まれてから初めてだった…。それより上手く撮れたのか…、表情が変だったらどうしよう…。そばで心配しながらスマホをいじる雨宮をちらっと見ていた。


「……」

「柊くん…」

「う、うん…」

「カッコいい…!私、この写真L○NEのプロフィールにしたい!」


 上手く撮れたようだ…。カフェのテーブルに置いているケーキと飲み物、そして二人が仲良くくっついているのが見られるカップルっぽい雰囲気。これが普通のデートでやることだと、今思い出してしまった。


「柊くん、カッコいい…」


 しかも、この写真をプロフィールにするって…大胆だよね。雨宮は…。


「フンフンフンー」

「楽しそうだな…」

「うん!最後は一緒に行きたいところがあるから、一緒に行くよね?」

「もちろん」


 お会計の後、慣れたように俺と手を繋ぐ雨宮がエスカレーターに乗る。


「もう慣れてしまったのか…、手繋ぐの」

「うん。行こうー!」

「ちょっと、急がなくても…!」


 帽子を売るお店…?


 雨宮は帽子も買う予定だったのか、俺にはけっこう高そうな帽子を売っているように見えるけど、帽子だけを売る店も初めてだった。その店の中から黒い帽子を取ってきて俺に被せる雨宮はじっとしてこっちを見つめていた。帽子を買うのに、どうして俺に被せるんだ…?


「これ似合う!」

「うん?」


 鏡の前に立っている二人、雨宮も俺と同じ帽子を被っていた。


「えっ…?一緒?」

「うん!一緒、私こうやって帽子買うのが好き。好きな人と同じ帽子を被って歩きたい!」

「そうか…。じゃあ、俺が買ってやるよ」

「ううん…。今日は私に付き合ってくれてありがとう!私が買うからいい!」

「いや…。それでも…」


 繋いだこの手は離さず、雨宮とのデートが終わる。

 なんか…、いろいろあったけど、時間があっと言う間に過ぎてしまった。目の前から見える雨宮の姿と日が暮れる景色が重なって、少し懐かしい気がする。女子とこうやってデートをするのも悪くはない、俺は雨宮と一緒にこんなことができて嬉しい。


「柊くん」

「うん?」

「私ね。男子と遊んだことも、こうやって歩いて、デートして、同じ帽子を買うのも全部初めてだよ。やっぱり柊くんと一緒にいるのが好きだよ!」

「何…いきなり…」

「デートもキスもしたよね?」

「それは…」

「責任、取ってくれるよね?」

「……いきなり変なこと言うなよ…」

「わぁー!柊くん、照れてるんだー!」

「……バカ」


 これでいいと思う。

 だから、もう俺の中に入って来ないで…。もうこれでいいんだ…。


 ———嫌よ。

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