二年三組の鬼
魚崎 依知子
第1話
「私、教師になったらこれしなきゃいけないって、忘れてたんですよねえ」
「『夜の学校はこわいので戸締まりはしません』は、通じないもんな」
ためいきをつく私に、となりを歩く
一方の私は小さくて気弱な国語教師で、子どもの頃から暗いところとこわいものが苦手だ。夜の学校は、どうがんばっても好きにはなれない。
「じゃあ、僕は二階を見て回るんで」
「お願いします。私は、このまま奥を見て来ますね」
階段前で安川と別れ、私はそのまま一階の奥へと向かった。
うちの中学は、生徒数約九百人の大きな学校だ。一階は校長室や職員室のほか、家庭科室や技術室、一年生と二年一組から三組までのクラスがある。今年の一年生は少なくて五組までしかないが、二年生と三年生は九組まで設置された。
安川は二年八組、私は三組の担任だ。安川はベテラン教師だが私は教師二年目のひよっこで、一人前にはほど遠い。それなのに、今年の二年生には特にやんちゃな子が多い。七月にあった林間学校は
二年二組までの戸締まりを確認し、一番奥にある三組の、後ろのドアに手をかける。ふと、窓の向こうで何かが動いたような気がした。
何?
目をこらしてのぞき込んだ時、静まり返った薄暗い教室の中で「何か」がこちらを向く。校庭のあかりにぼんやりと照らされた顔は、長い角と牙を持った、鬼だった。
びくりとした私を、鬼は暗がりの中からじっと見つめる。見開かれた目が、怪しく光った気がした。鳥肌が立ち、汗が浮かぶ。
「……き、きゃああ!」
悲鳴を上げて、力が抜けたように座り込む。逃げ出したいのに、あまりのこわさに体が動かない。今、今ドアを開けられたら、私はもう。だれか、だれか助けて。
「
聞こえた声に視線を向けると、走って来る安川が見えた。悲鳴を聞いて、下りてきてくれたのだろう。
「どうした!」
「きょ、教室の中に、中に鬼が!」
鬼? と安川は聞き返しながら、勇ましく目の前のドアを開ける。思わず後ずさった私とは反対に、安川はずかずかと中へ乗り込んで行った。
大丈夫、だろうか。
まだ起こせない体をどうにか動かし、ドアの向こうをのぞく。いると思っていた安川の姿がなくて、血の気が引いた。テラスにつながるドアが大きく開かれ、あかりが教室の中へ長く伸びている。どうしよう、まさか鬼に。
泣きそうになった時、テラスの方で物音がする。窓の向こうに見えた安川の姿に、ほっとした。
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