琴葉は恋愛活動中です。

鈴木すず

-1- 珈琲とミルク

「琴葉、なんでアンタはここにいるのかな?」


私の数少ない友人の一人、貴島秋奈が、珈琲をひと口飲んでから言った。


「現地調査ですっ!」


今、私、桂木琴葉は、秋奈と、秋奈の彼氏さん(大学生だって…!)のデート現場を目撃している。たいそう面白いシチュエーションだ。

彼氏さんは流石の落ち着き方で、でも出来れば私に帰って欲しそうな雰囲気だ。そりゃそうだ。


私は、まだ恋愛という恋愛をしたことがない。だから、

「誰かが、好き」

という感情を持っている人は、私には分からないからこそとても素敵だと思うし、羨ましいと感じる。ずっと、そうだった。でも。

私ももう高校生。高校生になってもうひと月経つというのに、新しい人間関係が秋奈だけなんて、とても残念だ。秋奈と親しくなって、秋奈にはいつも年上の彼氏がいるらしいことが分かった。しかも、高校に上がってすぐに始めたファミレスのバイトで、早速、彼氏を作っている。秋奈の恋愛力は、すごい。


秋奈の彼氏さんが、

「琴葉ちゃんは、何が飲みたい?」

と、私に聞いた。どうやら、おごってくれるらしい。

「ミルクだけって、ありますか?」

秋奈と秋奈の彼氏さんが、同時に吹き出した。

「い、いやー。あるんじゃないかな?」

「なんですか。二人とも、私を子供扱いして!」

「いやいや。ごめん、ごめん。」


「でもさ、琴葉ちゃん、彼氏が欲しいみたいだけど、恋愛感情を持たない人もいるんだよ。それに相手もあることだから、あんまり気にし過ぎない方がいいんじゃないかな?」

「そりゃ、大人はなんだって言いますよ。私は、色んなことが気になるお年頃なんですよーだ。」

「琴葉、ここのカフェラテ、美味しいよ。」

「え、そうなの。」

「しかもラテアートってやつ描いてくれる。」

「え、何それ。じゃあ、そうしよ。」

カフェラテの上に、葉っぱのイラストが描いてあるものが運ばれてきた。

「これ、飲んじゃうの、もったいない!」

「本当だよね。なんか、琴葉来たら来たで楽しいね。」

「うん。琴葉ちゃん、またおいで。毎回は困るけど。」

「へいへい。」

高校デビューに、カフェラテデビュー。

高校は、入ったら案外大したことなかったし、カフェラテだって、案外苦くなかった。



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