再会

田中山

再会

僕は高校を卒業し、大学へと進学した。

一人暮らしを始めた僕は、日々のほとんどをバイトに費やしていた。おかげでお金には困らなかったけど、とてもじゃないが彼女を作る余裕なんてなかった。

もちろん、何度か告白された事はあったけれど……その度に断った。

だって――あの日、僕の胸の中で泣きじゃくった彼女の顔を思い出してしまうから。

彼女は今頃どうしているだろうか?

きっと綺麗な女性になっているに違いない。

そう思うだけで心が締め付けられたように苦しくなる。

そんないつものようにバイトをしている僕の元へ一本の電話が入ったのだ。


『もしもし?』


「あ、咲里さん」


電話の相手は俺のバイト先の先輩だ。

どうしたんだろ。


『今日って確かシフト入ってなかったよな?』


「はい、入ってませんが」


『悪いんだけどさ、ちょっとヘルプで出てくれねえか?』


「えっ!?︎ でも……」


俺のバイト先は個人経営の喫茶店。

そんな人が来るわけでもないし、そんな人員不足になる事なんてないと思うけど・・。


『実は新人バイトと俺だけで手が回らないんだよ。頼む!あと・・』


「?わ、分かりました。すぐ行きます!」


なんか変な含みを感じるが、先輩の頼みを引き受けた僕は急いで支度をする。

そして現場へと向かったのだが……そこで信じられない光景を目の当たりにした。


「東雲さん、ボクにも!」


「はいはい、ちょっと待ってて」


なんか変なメイドがいる。

……何なんだこれは?

一体どういう状況なのか理解できなかった。


「えぇ・・」


店の真ん中に王座のようなでかい椅子がある。

その椅子にはメイド服を着て座ってる色白の女の子がいた。

で、その周りを男が取り囲んでいる。

本当にどういう状況だコレ。


「ね、ねぇ君……」


男を押しのけて椅子に座っている女の子に話しかけた。


「はい、なんでしょうかお客様? 私に何かご用ですか?」


「僕はお客じゃなくて店員の味岡です。よろしく」


「あら、よろしくお願いしますね」


女の子はそう礼儀正しく返してきた。


「しかし・・ど、どうしてメイド服なんか着てるんですか?」


そう聞いたら、女の子はクスッと笑った。

何かおかしいこと言ったかな僕?


「あら? おかしな事をお聞きになりますのね?」


「へっ?」


「ここはカフェではありませんか。ならば当然でしょう?」


「…………」


確かにカフェだよ。

喫茶店だよ!

だけどな、ここはメイド喫茶じゃない!

俺が訝しげな顔をしていると何か勘違いしたらしいメイドさんが姿勢を正した。


「申し遅れましたわ。私はここでアルバイトに入りました。東雲咲夜しののめさくやと言います。以後お見知り置きを」


そう言って丁寧に頭を下げる彼女は、紛れもなくあの時の少女だった。


「久しぶりだね」


「はい、本当にお久しぶりですわ」


彼女は嬉しそうな表情を浮かべる。


「まさかこんな形で再会するとは思わなかったよ」


「私も同じ気持ちです。・・これからよろしくお願いしますね?」


「うん、こちらこそよろしく」


こうして僕らは再び出会った。

それからというもの、僕と彼女の仲は急速に縮まった。

彼は相変わらず誰に対しても優しくて淑女的で、だけどどこか抜けている所もあって少し可愛らしかった。

そんな彼女と出会ってから数ヶ月後――僕たちは初めてデートをする事にした。

デートだけどデートじゃないよ?

なんか彼女がそう言ってるだけ。

ちなみに場所は遊園地。

デートといよりほぼ同僚との遊びみたいな感じだけど・・。

ぶっちゃけた話、僕はドキドキしている。


「うふふ、楽しみですわね?」


「ああ、凄く楽しみだよ」


電車に揺られながら他愛もない会話をしている内に目的の駅に到着する。

そこからバスに乗って目的地へと向かう。


「着きましたわ」


「ここか……結構大きいんだな?」


チケットを購入して中へと入る。平日だというのにかなりの賑わいを見せていた。


「それで、まずは何に乗る?」


「そうですね……やはり定番のジェットコースターではないでしょうか?」


「・・マジっすか?」


「マジですわよ?」


「・・本気も本気ですか?」


「本気も本気、大本気おおまじですよ?」


おお、大本気って書いておおまじって読む人初めて見た。

少し思ってたけど中二病なのかね。


「・・もうやけくそだー!」


「キャッ!?」


俺は東雲の手を引っ張ってジェットコースターの列に突っ込んだ。

やはり混んでいても平日。すぐに乗れた。

ジェットコースターはゆっくり発進する。

その瞬間俺は目を閉じた。……正直怖い、怖すぎる!!︎

ガタガタ言いながら上がっていくジェットコースター程怖いものはない。

隣の東雲はニコニコしている。


「さぁ、いよいよスタートですわ!」


「分かってるよ!」


東雲はギュウと僕の腕を抱えた。


「ホワッ!?」


「どうかなさいまして?」


「えっ、あっ、そのぉ……」


「ふぅん、こういうのがお好きなんですのね?」


「ち、違う! ただちょっと驚いただけで……」


「大丈夫ですわ。私に任せてください」


「任せるって何を……ってギャアァァァ!!」


ジェットコースターはそのまま急下降を始めた。


「楽しかったですわね♪」


「……」


俺はベンチに座り込んで放心状態になっていた。


「あらあら、大丈夫ですか?」


「……」


「仕方ありませんわね……」


「……ん?」


東雲は目を瞑って顔をゆっくりと近づけてくる。


「ヒャアアア!?」


「あら、起きましたか?」


起きましたかじゃなくて!


「何しようとしてたんだよお前は!?」


「キスでもしようかと思いましたの」


「なんでだよ!?」


「だって恋人同士ですし」


「なってないだろ!?」


「なりましょうよ?」


「ならないよ!」


「……駄目ですか?」


ウッ、そんな目で俺を見ないでくれ。

ホレてまうやろ・・。


「・・とりあえず他のところへ行こう」


「あ、待ってください!」


それから俺達は様々なアトラクションを回った。

メリーゴーランドでは二人で馬に乗り、コーヒーカップに乗って思いっきり回して目を回し、観覧車では景色を眺めて笑い合い、そして再びジェットコースターで絶叫した。

漏らすかと思った。

本当に楽しく、幸せな時間だった。


「今日は楽しかった。誘ってくれてありがとな」


「いえ、こちらこそありがとうございます。……ところで一つお願いがあるのです

が」


「なんだ?」


「私の事を名前で呼んで頂けないでしょうか?」


「……それはどういう意味だ?」


「そのままの意味です。……ダメでしょうか?」


「いいけど……どうして?」


「理由なんて必要ありませんわ。ただ、私がそうしたいからそうしていただきたいだけなのです」


「そうかい。分かったよ、咲夜」


「はい、聡介さん!」


「……なんか照れるな?」


「私もですわ」


お互いに顔を合わせて笑う。


「お前が恋人だったらこういうのを付き合うっていうんだろうな・・」


「じゃあ、付き合いましょうよ」


「へ?」


「だから、付き合ってください」


「は?」


「付き合ってほしいんです」


「本当に?」


「はい」


Действительно本当に?」


даはい


「で、聡介さん」


咲夜が改まったような顔でこっちをじっと見てきた。・・照れる。なんか恥ずかしい。


「私とお付き合いしてくれませんか?」


「・・無理だな」


咲夜はショックを受けたらしい。顔に出ている。頬は青ざめて、目には涙が浮かんで

いる。今にも泣きだしそうな顔をしている。


「・・まずは友達からだ」


・・だ。

頬に涙がつたって地面に落ちた瞬間、咲夜は笑顔に変わった。


「・・よろしくお願いします」


次の瞬間・・唇に柔らかい感触があった。

目の前には咲夜の顔があった。


「え?」


「ウフフ」

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再会 田中山 @tanakasandesuyo

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