それが君の持つもの

@sik21

出会い

 夕焼け空が紅色に輝く頃。僕は父の死を突然聞かされた。それは半分暗く、半分橙路に輝くリビングの中で、黒いスーツを着た二人の男の口から。その男たちは父の研究仲間。一人は髪が薄く、でっぷりとした丸顔のタクオ。もう一人はすらっとした短髪に、髭が口の周りに生えたホウジョウだ。


「マサヤ君。父の訃報を聞いておどいているかもしれませんが…。」タクオは涙声になりながら、そう僕に悲しみを伝える。しかし僕は父の訃報を聞き入れた時、彼のように悲しくならなかった。しかし嬉しくもない。だがどうしてそう言う気持ちが湧き上がるのかは分からなかった。


 そんな物思いにふけっている時、ホウジョウが僕に一枚の写真を手渡す。僕はその写真を手に取り、写るものを見る。そこには白い帽子を被り、サングラスをした男が映っていた。


「これは?」僕はホウジョウに誰かを聞く。「こいつが父を殺した犯人だ。」ホウジョウはは怒りを抑えながら、僕にそう伝えた。僕は両目を大きく見開き、その写真に写った男を見つめた。「この男の名はケンドと言って、君の父、そして我々と共に研究していた男です。」タクオは実況解説のように、写真を見る僕に説明した。


「この男が父を…。もしかしてそれは超能力に関してのことなんですか?」僕は彼らに対し、そう質問する。彼らはこくりと頷いた。


「そうだ。恐らくは博士とある研究を廻って対立したんだろう。君も知っている通り、超能力の研究だ。だが我々もその研究内容までは分からない。本当に悔やむところだ。」ホウジョウは両手を重ね合わせ、自分の非力さを戒めるように嘆いた。


「そうですか…。分かりました。」僕はただ一言呟く。「分かってくれればそれでいい。それで後一つ言いたいことがある。君はこの件から離れていてくれ。後は私達が何とかするから。」ホウジョウは無常な一言を僕に告げた。


「何故ですか?僕も知りたいです。亡き父の子だから。」僕は必死に懇願する。「それでも駄目です。君はケンドに命を狙われているかもしれないんです。もし何か身の危険があったら遅い。だから私達に任せておいて下さい。君の分も気持ちを預かりますから。」タクオは理由を話し、僕の懇願を跳ね除けた。


僕は遂に諦めた。「分かりました…。」やる背のない返事がリビングの中を響かせる。「分かっていくれたらそれでいい。」ホウジョウはそう言いながら、肘を両手に当てて立ち上がる。


「安心してくれ、僕たちが君の安全を守る。亡き教授のために。」「大丈夫ですから。君は安静していておいてください。」タクオも立ち上がり、僕を勇気付けようとした。僕はそれに何の言葉も返さなかった。それから僕は彼らを、玄関まで送る。


「それじゃ、僕達はこれで。明日様子を見に来るから。それまで大人しくしておくんだ。」ホウジョウは玄関の扉を潜る前、僕に念を押した。「そうですよ。君の身の為ですから。それじゃ、また明日。」タクオもホウジョウに続き、念を押した。そして僕は彼らに握手を交わし、二人はすぐさま出ていった。


 それから時は経ち、夜になる。僕は青白く輝くライトの下、一人考え込んだ。これからどうすればいいのか。何故秘密を知れないのか。やるせない気持ちが沸々と湧いてくる。僕は一人悩みこむ。その時だった。誰もいない、静寂の中に電話のベルが鳴る。


僕は一瞬、心臓がドキッとする。しかし慣れた。それから僕は電話機に向かい、受話器を取る。するとそこから男性の低い声が聞こえた。


「君がマサヤ君だね。私はミカイド先生の協力者だ。」「協力者?もしかしてホウジョウさんの…。」「あぁ、そうだ。だから聞いてほしい。私は父が何故殺されたのか、その真相を知っている。だから君の家の近くにある広場に来てほしい。もちろん、今すぐにだ。」「…。分かった。それじゃ、今すぐに行く。」僕はすぐさま受話器を置く。そして黒色の上着を羽織り、外へ出た。


 そうして僕は寒く、暗い夜の中を歩いていった。そして家の近くにある広場に入り、その中にある噴水の前に立った。辺りを見渡す。しかし誰もいない。「着いた。でも誰もいない。」僕は水面を見つめる。そこには僕の顔、半月、そして黒い人影だった。


 僕は慌てて後ろを振り向く。だがそこには誰もいない。「なんだったんだ。今のは?」僕は心からくる恐怖心で、身体を震わせた。「電話で話した人か…。いや、でも…。」そう狼狽えながら、辺りを見渡す。その時だった。


 僕の目の前で突風のような物が起った。それは踊りく狂うかのように、僕の周りを回る。「なんだ!これは。」僕はその突風をただまじまじと見つめる。しかし次の瞬間、その突風の中から人間が現れた。それは煌めいたナイフを片手に持ちながら。


「うわっ!」僕は余りの唐突な出来事で体が固まってしまい、目をつぶる位しかっ出来なかった。ナイフが僕の懐に迫る。殺されたかと思った。


しかし僕はナイフに刺された感覚は無かった。「あれ、殺されていない。何故だ!」僕は目をゆっくりと開ける。そこには僕を襲った人間が倒れており、その手前に女性が立っていた。


その女性は二十代前半。茶髪で長髪。それは背中辺りまで伸びている。服装は紺色のトレーナーに、デニムのジーンズを着用していた。


「あなたは、誰?」僕は起き上がり、その女性に尋ねる。「私の名はカヤ。よろしくね。」カヤは僕の方を振り向き、にっこりと笑顔を見せた。そして彼女は続けてこう言った。


「それにしても良かったわ、後をつけていて。」カヤはほっと胸を撫でおろしながら、また前を向く。僕も彼女の向いた方を、まじまじと見つめる。そこには倒れ怒んだ男性が、何事もなかったかのように立ちすくんでいた。


その姿は20代後半くらいで黒髪の短髪。すらっとした紺色のスーツに黒のズボンを履いていた。「カヤ、邪魔をしないでくれるか。俺の狙いはその後ろにいる男だ。」男は僕を、獲物を狙う狼の如く睨みつけながらそう言う。それはまるで僕に親族を殺されたかのように。


僕は彼のその目に恐れ慄いた。「そこまでしてどうして狙うの、彼を?カール。」カヤはカールに対し、そう疑問を呈す。「命令だ。そして…。いや、それは貴様らに関係はない。ただ黙って拉致されればいい。」そう恨みを露呈しながら、ナイフを僕達に向ける。


「…。そう、分かったわ。」カヤは何か察した様子を見せながら、親指を内側に向ける。その後、左腕を伸ばし手を広げた。するとその瞬間、カールの真上に空気の塊ができた。まるで岩石のように。そしてそれをカール目掛け突き落とした。


だがカールはそれを一瞬の内に避ける。それから人間には到底見えない速さで、僕の方へ接近する。「マサヤ!」カヤは僕の方に振り向き、その方向へ向かう。僕は次こそ殺されると本当に思い込んだ。だがその時、身体が強制的に右へ動いた。まるで僕の恐怖心に反応するかの如く。おかげでカールの攻撃は避けることが出来た。


「今のは!」カールは僕のその行動に何かを知っている素振りを見せた。一方カヤはそれを見て、目を大きく見開いた。「嘘、彼ってここまでの能力を持っていたの。」僕は避けられたことにほっとし、胸を撫でおろす。しかしその瞬間、身体に激痛が走った。まるで


「うっ、痛い。急に体が。」僕は両手で左右の肩を掴みながら、まるで朽ち果てるかの如く、その場で倒れこんでしまった。「ふん。結局、人から借りた能力、宝の持ち腐れだな。」カールは僕に向けて捨て台詞を吐く。そして今度こそ決めるとばかりに、ナイフを僕の顔に叩き込もうとした。「待て、カール!」カヤはカールの猛攻を止めようと、走り出す。


 するとその時、何処からか男性の重音な声が聞こえてきた。「待て。」カールはそれを聞き、ナイフが僕の目の前で止める。カヤもそれを聞き、その場で制止した。「何故止める、ケンド。」カールは声がした方を振り向き、睨みつけるように見た。


そこには白い帽子、それに似合う白い服にズボンを履いた男が立っていた。写真に写っていたあの男だ。「あっ、あいつは!父を殺した。」僕は目を丸くする。「ケンド、どうしてここに。」カヤは唖然とした態度を見せた。


「まぁ、落ち着け。まだ彼を殺すのは早い。」ケンドは陽気に話しながら、こちらへ向かってくる。それは無機質な足音を立てながら。僕はその足音を聞くと、恐怖心が徐々に湧いてくる。そしてその恐怖心と、全身の痛さが混じり合い、混沌とした気持ち悪さに変貌した。


「怖い、あいつを見ているととても。それに気持ち悪さも。」僕は余りの気持ち悪さに、うまく言葉にできなっかった。その合間にケンドは、僕とカールの近くまで迫っていた。そしてケンドは僕の隣に行き、しゃがんだ。


「やぁ、久しぶりだねマサヤ君。久しぶりかな。元気ではなさそうだが。」ケンドは僕の苦しむ顔を見ながら、穏やかに話す。「久しぶりって、お前とは会った記憶がないぞ。」僕は彼の態度のに業を煮やす。ケンドは僕のその姿を嘲笑った。


「覚えていないのか…。まぁ、いいか。それで君は博士、いやお父さんが何故殺されたのか知りたいのだね?」「そうだ。」「あれは悲惨だった。いや、僕達にとっては始まりだったのかもしれない…。「始まり…。」「あぁ、そうさ。あなたの父親は我々の偉大な研究を否定した。だから殺した。」ケンドは弁舌を振るった後、立ちあがる。


「行こう、カール。」「あぁ、分かった。」カールは不服そうな態度で、彼の言うことを聞く。それからケンドはカールの元へ行き、その直後風で囲まれた。そして彼らはその中に消えていった。


 僕とカヤはそれを、ただ眺めていることしかできなかった。そして後に残ったのは怒りと寒い夜風のみだった。「大丈夫、マサヤ。」カヤはすぐさま僕に近いた。「あぁ、少しはマシになった。」僕はゆっくりと立ち上がる。マヤは僕が立ちあがった後、よろめく体を支えた。「それじゃ、行きましょ。」カヤは僕を支えながら歩く。僕も彼女の歩調と合わせ歩いた。そして僕達は暗闇の中をただひたすら歩いて行った。





























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