第7話
「父さん、なんでここに」
「やっと、龍脈を通して繋がれたんだ。一応、あの記憶を見たとき振りかな。でも、あまり時間がないから、手短にいくよ。ベンチ、座って」
「手短にって……それに、僕の身体じゃベンチには。あれ?なんで、僕普通に話せて……?」
ふと、両の手を見下ろすと、そこにはいつものようなイモリとトカゲの中間のような腕は無く、かわりに人間の手があった。
もう、ずっと遠い記憶になっていたもの。
人間の身体。
「ここでは心の姿が形になる。つまり、そういう事だよ」
「父さんは……こっちの世界の姿なのに?」
「まあ、色々あってね。心がこちらに寄ってしまったみたいだ」
父さんは、あの記憶の中の若い姿のまま。
ただ、あの記憶の中で来ていた鎧は着てはおらず、この世界の町民が着ているような簡素な布の服を身にまとっていた。
父さんの隣に腰掛けると、彼は再び口を開いた。
「今、この世界は危ない状態なんだ。魔王カジムが龍脈の力を悪用して世界を支配しようとしてる」
「魔王カジム?ずっと昔の人間のはずじゃ……」
「ムジカ・ニグ・デアロウーサの事だ。渚も奴の手下と戦っただろう。獣人族の忍者と、森人族の魔導師の二人組。あれらの主だ。奴は父さん達の仲間の一人の力の半分を奪って今まで生き長らえている。もう半分は他の人間が取っていったようだから、カジムに奪われる心配は無いが。だが、同時に奴の不死性を崩すにはその半分の力が必要だ」
「な、何の話を……?」
父さんは服のポケットから一つのネックレスを取り出した。
青い宝石がついた、綺麗なネックレス。
その見た目に既視感を感じて、僕は少し首を傾げた。
「これ、は」
「これは空っぽだし、僕の記憶でしかないけど。これが魔王カジムに奪われた賢者マギの魂の片割れ。当時のマギステア、いや昔はあそこもフランクラッドだったんだけど、その地の守り手として産まれた彼は不死の力を持っていたんだ。これと、もう一つの石を身体に埋められていた事でね」
「不死を与える石……まるで賢者の石だ」
そう言うと、父さんは「流石は僕の息子。察しがいいね」と言ってパチンと指をはじく。
「その通り、これは賢者の石だ。二つ揃えば安定した不老不死を与えるが、片割れだけでは望まずとも持ち主に永遠の命を与える呪いの石。龍神アイオーンとの戦いの最中、マギはこの石ともう一つの石を奪われて殺された。だが、騙されていた事に気が付いた龍神アイオーンがこちらについた事で片方は取り返すことが出来たんだ」
「そのもう片方は、今どこに……」
「赤い宝石がついたものだが……いつも渚の隣にいただろう?」
その言葉を聞いて、はっとした。
道理で既視感を感じていたのだ。
思い出すのはニニィと出会い、そして二人で決めた旅のルートを歩み始めたあの日の朝。
僕は確かにあの日、このネックレスを見ていた。
「ニニィか……!」
「そう。ニニィ・エレオノーラ。彼女こそが片割れの石の持ち主だ。彼女の持つ石と、奴の持つ石を同時に破壊する事で、2つの不死性は崩される」
「それなら魔王カジムを倒すことができ……あ」
「でも、渚はそうしたくない。だろう?」
龍神をも召喚する凄まじい力を持つ召喚士であり、その上不老不死の力まで持っている魔王カジム。
彼を倒すための方法はすぐにわかったが、その話を聞いて気がついてしまった。
魔王カジムを殺せば、ニニィも同時に死んでしまう。
「そんな、ニニィが、でも、どうすれば」
ふと、彼へと視線を向けると、彼の姿が段々と薄くなってきていた。
「まずいな、そろそろ限界か」
「父さん!」
「いいか、父さんは死んだ時にこの世界に召喚された。アイオーンもだ。そしてアイオーンは死に際に僕に伝えてきた、渚、お前こそが全てに決着を付けてくれる最後の英雄であり、龍神だと」
「僕が……? 龍神で、英雄?」
「渚、ヤツは、カジムは本物の龍神を手に入れたと思っている。だがそれは間違いだ。お前こそが龍神として産まれ、僕の力を分け与えた最後の希望」
父さんの、英雄セシルの両手が僕の両肩を掴む。
父さんの身体はもうほとんど消えかかっており、肩にかかる感覚も薄れてきていた。
「最後に。もしお前がニニィ・エレオノーラを大切に想っていて、助けたいのなら方法が一つだけある。だが、それはお前の命を大きく削ることになるだろう。だから、お前の父親としてそれは―――」
父さんの姿が消えた。
周りを見れば、草原の景色も遠くから崩れていっている。
僕の意識が、現実へと浮上していく。
◆◆◆◆◆◆◆
「きゃあぁぁぁーーっっ!」
甲高い少女の悲鳴で、僕は目を覚ました。
気が付けば、眠りについた時と同じ池の上。
だが、どうにも身体の感覚がおかしい。
「だ、誰? 誰!? 龍神様は、どこ!??!」
「浮かんでる……」
「というか、助けなきゃ!あの人溺れ死んじゃうわよ!」
ウィニアさんとメルゥちゃんの騒ぐ声。
いや、騒いでいるのはウィニアさんの方だけか。
メルゥちゃんの方は呆然としたような声を出している。
僕はむくりと水中で身体を立て、そして水魔法で身体の位置を調整しつつ立ち上がった。
「うう……どうしたのですか、二人共」
その時、気付く。
水面に、見覚えのある
「へっ……? え、なんで。今まで、一度だって出来なかったのに」
眠っていたときに自然と变化魔法を使ったのだろう。
僕の身体は人間だった頃のそれに変化していた。
うまく四肢に力が入らなかったのはそのせいだ。
もしかしたら、あの夢の中で人の姿に戻っていたことで成功したのかもしれない。
これで人の街を安心して歩くことができる。
嬉しくなった僕は、姉妹の方を向いて叫んだ。
「や、やりました!僕、变化魔法に成功しました!」
あまりの喜びに、思っていたよりも大きな声が出てしまう。
だが、僕はここで一つ大きな失敗をしてしまっていた。
本当に嬉しかったから、僕は失念していたのだ。
ドラゴンだった僕は、衣服なんて身に着けていなかったと言うことに。
「な、何あの……あんな、大きぃ………きゃあぁぁぁぁっ!?!」
「ち○ちんだ」
股間で、アレがぷらぷらとみっともなく揺れていた。
阿呆みたいに水面に突っ立っていた僕の胸に、メルゥちゃんのぼそっと言ったそのセリフが深く突き刺さる。
このあと数十分、僕は恥ずかしさのあまり、ウィニアさんと顔を合わせることも出来なかった。
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