同じクラスの女の子2人を同時に好きになってしまったんだがどうしたらいいのだろうか。

YUKI

第1話 同じクラスの女の子2人を同時に好きになってしまったんだがどうしたらいいのだろうか。

 学校の校庭に等間隔に植えられた桜が全て満開に咲き誇り、ハラハラと散り始めた春のとある日、漸く大きめのサイズが丁度良くなって来た黒い詰め襟の学生服を着て都内の市立中学校に通う僕…新田真琴にったまことは今日、2年生になった。


 中学生になって、ここ1年は結構身長が伸びた。

 膝とかの関節が痛かったもんな…。

 それでも身長は165センチくらいだけど。


 校門を入って校舎の出入口前には新しいクラス割表が貼り出されていて人だかりが出来ており、皆一喜一憂している。

 僕は…と…G組だ。

 他に知っている人はいないかな…

 探していたら、背後から肩を組まれた。


 「おー真琴、今年も同じクラスだな、よろしく!

 あれからもう1年か…

 お前、初めて会った時は女の子みたいだったのに、身長も伸びて声変わりもして…お前の可愛い声は何処へ行った…(泣)。」


 コイツは小笠原、天然パーマでヒョロっと背の高い、いい加減なヤツだ。

 1年の時の同級生で家も近いし、よく一緒に遊んでいる。

 

 僕は名前もそうだが、見た目もよく女の子に間違われていた。

 去年1年間で身長が伸びて声変わりをしたから、今はそれなりに男の子には見られてるハズだ。

 顔は女顔だからといって、男に興味があるワケじゃない。

 いっそ坊主にでもしようかと思ったが、女顔に坊主は似合わないと家族に反対された。

 

 「可愛い声?知らんがな。

 さぁ、教室行こう。」


 もう少しクラス割表を見たかったが、僕達は校舎2階の新しい教室へと移動する。


 教室の中は既に半数以上が登校している様で、騒がしい。

 席順は黒板に貼り出されていて、僕の席はクラスの後ろの方の真ん中あたりだった。


 席に座って周りを見渡すと、左斜め前には黒のショートカット、目は黒目がちでクリクリと大きく、小柄で明るい感じの可愛い女の子、右斜め前には少し茶色のツインテールで色白、女の子としては背が高めだけど出るところはしっかり出ている綺麗な女の子がそれぞれ周りの女の子と話をしていて時折笑顔を見せている。

 2人共スゴイ美人だな…と思っていたら、小笠原がニヤニヤしながら近寄って来た。


 「おやおや真琴君、気付きましたかな、あの2人に。

 左の子は学年で2番目に人気のある可愛い女の子、名前は江口美里えぐちみさとさん、右の子は学年で1番人気の綺麗な女の子、相原美姫あいはらみきさんだ。

 2人共名前に美しいという漢字が使われてるんだが、やっぱり名は体を表すのかね。

 学年のツートップが同じクラスになるなんて、俺達ツイてるな!」


 「そんな事言ったって、僕達が相手にされるハズ無いだろ。

 現実を見ろよ。」


 「お前…確かにそうだけどよ…

 夢くらい見させてくれよ(泣)。」


 「寝言は寝て言え。」


 「お前…超現実主義者な(泣)。」


 そこに先生が入って来たので小笠原は自席に戻る。

 僕達はその後体育館に移動して始業式で校長先生の有難い話を聞き、教室に戻った。


 今日はクラス全員の自己紹介をして、その後クラスの役員、委員会を決め、事務連絡後解散、明日から本格的に授業を開始するらしい。

 僕はツートップの自己紹介に耳を澄ました。

 まず最初に相原さんだ。

 

 「私は相原美姫といいます。

 生徒会の書記をしていますので、教室に居ない時は生徒会役員室に居ると思います。

 趣味はお菓子作り。

 どうぞよろしくお願いします。」


 パチパチと大きな拍手が響く。

 生徒会か…スゴく真面目そうな子だな。

 

 次は江口さん…では無く、僕だった。

 席順からいえば僕か。


 「僕は新田真琴です、部活はやっていません。

 1年の時は図書委員をしていたので、2年も図書委員をやりたいと思います、どうぞよろしく。」


 まばらな拍手が聞こえた。

 1年の時にクラスが同じだった人もあんまり居ないし、僕なんかこんなもんだ。


 今度こそ江口さんだ。


 「私は江口美里です、陸上部に所属しています。

 身体は小さいですが身体を動かすのは大好きなので、何かあったら誘ってください。」

 

 やはり今度も大きな拍手が聞こえた。

 明るくて活発そうな子だな。


 1人は綺麗で真面目でお淑やかな子、1人は可愛くて活発で明るい子…

 タイプは違うけど、2人共人気なのが解る。


 ま、どうせこんな美人には相手にされないし、僕は眺めてるだけでいいや。

 なんせ授業中は僕の位置からは2人共視界に入って来るからな、見放題だ。

 



 放課後になって僕は図書室に行った。

 今年も図書委員になったので図書室の先生に挨拶に行ったら、暫く受付業務をする事になった。

 まぁいいさ、特に用事も無いし、読み途中の本を読んで暇を潰した。




 家に帰るため鞄を取りに教室に戻ると、机を足場にして高い所に貼り紙をしようとしている女子がいた。

 顔は見えず、画用紙を両手で上に上げてプルプルと震えながら、

 

 「もう少し…」


と独り言を発している。

 机もカタカタと揺れていて倒れそうで怖い、僕は女の子に近寄り机を押さえようと思ったが遅かった、彼女はバランスを崩し僕の方に倒れ掛かって来た。


 「…やっ…!」


 声にならない声を上げながら倒れ掛かって来る彼女を僕はダイビングキャッチする。

 背後からしっかり抱き着いて彼女の後頭部を守る事は出来たが、一緒に床に倒れながら他の机や椅子を盛大になぎ倒した。


 やっと動きが止まると、僕は彼女の下敷きになっていたが身体に痛みは無い。

 まずは彼女の無事を確認しようと身体を見回した。

 …僕の左手は彼女の背後から頭を抱え、右手は柔らかいモノを鷲掴みに…胸っ!?


 急いで彼女から手を離し少し離れたら、今度はスカートが捲れ上がっていて、下着が丸見えに…!!


 僕はどうしたらいいかアタフタしていたら、


 「あいたたた…って、アレ?痛くない?」


 彼女は捲れ上がった自分のスカートを見ると、サッとスカートを下ろした後、周囲を見回した。

 彼女は相原美姫さんだった。 

 そして、僕と視線が重なる。


 「「…………」」


 「見たっ!?」


 「イヤ、あの…」


 「何色だった?」


 「…ピンク…。」


 相原さんは顔を赤くしながら、


 「しっかり見てんじゃないの、もう…。

 もしかして、貴方が助けてくれたの?

 えっと…新田君?」


 「えっ、まぁ…うん。」


 名前、覚えててくれたんだ…。 

 相原さんは起き上がり、制服の埃を払うのを止めると、


 「ありがとう、あの高さから落ちて頭を打っていたら大変な事になっていたかも。

 先生に貼り紙を貼っておく様に頼まれたんだけど、私しかいなくて。

 新田君は怪我してない?」


 そう言いながら、僕の身体に付いた埃も払ってくれた。 

 そして顔を真っ赤にしながら、


 「で、私の胸を触ったのはどっちの手?」


 「へっ…?」


 覚えてたんだ、仕方ない、正直に言おう…。


 「右手…。」


 相原さんは僕の右手を掴んで握手すると、


 「本当にありがとうね。

 でも…胸を触って下着を見た事は忘れる様に。

 誰かに言ったら…皆に新田君に襲われたって言っちゃうかもよ。」


 と、握手した手がギリギリと握り締められていく。


 「えっ…エーッ!?」


 「だから、今日起きた事は私達2人だけの秘密ねっ?」


 相原さんは人差し指を唇に当てながら、至近距離で僕にウインクして来た。


 なんという破壊力…

 僕はずっとドキドキしっぱなしだった。

 

 「コノコ、カワイイワネ…」


 相原さんは僕が帰る時に何か言ってたみたいだけど、ポーッとしてて、よく聞き取れなかった。

 相原さんは真面目でお淑やかだと思ってたけど、フレンドリーでお転婆な子かも。

 でも、やっぱり可愛いなぁ…。

 

 


 僕は家に帰って遅くなった昼ご飯を食べ私服に着替えると、本日発売される新刊を買いに隣街の本屋に自転車で出発した。

 片道30分くらいかかるんだけど、普段通らない道を通るから、いつもと違う景色が見れて楽しい。


 大きな川の上に掛かる橋を渡っていると、隣街側の川沿いにある野球のグラウンドと歩道が見えた。

 よく見るとグラウンド脇で数人の人影が揉めている様だ、大声が聞こえる。

 僕の性格上、見て見ぬフリは出来ない。

 僕は自転車を漕ぎながら近付くと、高校生くらいのデブ、チビ、ノッポの3人の男と小学生くらいの泣いている男の子、それになんと赤いジャージを着た江口美里さんがいた。

 デブと江口さんが口論している。

 

 「子供の野球ボールが脚に当たったくらいで大騒ぎして…

 可哀相でしょ、許してあげて。」


 「何だと、このガキはお前の弟か?」


 「違うけど、泣いてるでしょ、ちょっと叱り過ぎじゃないの?

 脚もさっきから普通に歩いてるんだから大した事無いんでしょ?」


 「あ…痛いててて、こりゃ骨が折れてるかもしれない、治療費だ、慰謝料も持って来い!

 それか、お前の連絡先でもいいぞ、俺の彼女になれ。

 今日もこれから付き合えよ、そしたらそのガキは許してやる。」

 

 「イヤよ、何で私が彼女にならないといけないの?

 誰か警察に通報して!」


 周りで様子を見ていた老人や女の人達は蜘蛛の子を散らす様に立ち去っていった。


 …まぁ、事情は解った。

 僕は自転車を降りて、ゆっくり泣いてる男の子に近付くと、


 「泣くな、少年。

 ちょっと離れてろ。」


 「あっ、君は…?」


 僕は江口さんに人差し指を唇に当てて静かにする様に合図すると、チビが


 「何だ、お前は!?

 その女の友達か?

 可愛い顔してんな、一緒に遊ぶか?んー?」

 

 僕は男だぞ…ムカついたが、相手にこれ以上情報を与えるのは得策では無い。


 「あー、通りすがりの者ですが、怪我の部位は何処ですかね?

 ココですか?それともコッチ?」


 デブの脚を一通り触ったが、痛い様には思えない。

 やはりウソだったか…。

 ボールが当たったというデブは自分の唇を指差し、

 

 「ボールが当ったのは、ココだよ、ココ。

 俺の唇だよ、さぁ、お前の唇で俺の唇を癒やしてくれー。

 ムチュー。」


 残りの2人もゲラゲラと笑っている。

 コイツ、無茶苦茶言いやがる…。


 「先輩方、脚は大丈夫みたいですね、では僕達はこれで。」


 少年と江口さんにこの場を立ち去る旨を伝えると、デブが


 「じゃあ、はい、そうですかと帰す訳ねーだろーが!

 ちょっと待てよ!」


 と僕の左手首を握ったので、僕は左手を自分の方へ引っ張りながらデブの体制を崩し左の手の平を開く。

 そして掴まれた腕ごとデブの手を捻りながら外し、外したデブの手首を両手で持ち直して更に下に捻る。

 

 「い、痛え!!」


 小手返しという手首の関節技だ。

 これはメッチャ痛いので、捻られたら捻られた分だけ相手は痛みに耐えられず勝手に地面にしゃがみ込んでくれる。

 先ずはデブを沈めると、次はノッポが


 「こっ、この女、何をした!?」


と殴りかかって来た。


 僕はその手を取り、一本背負いでノッポを投げる。

 頭から落とすと危険なので、投げた腕を引っ張って背中から地面に落としてやる。


 2人沈めると残ったチビは戦意を喪失したのか、


 「何なんだ…お前は何なんだよ…女のクセに…。」


 「その女を殴ろうとして沈められた感想がソレ?

 僕は正当防衛だから、訴えても先輩方が悪くなりますよ、ではこれで。

 さぁ、行こう、少年も。

 解散だ。」


 江口さんは、そそくさと歩きつつ僕を見ながら、


 「私は櫻井じゃ…「」あー、、続きは後でね。」


 少年が近付いてきて、


 「お姉ちゃん、ありがとうございました。」


 「もうここには暫く来ないでね、アイツ等が仕返しをしに少年を探して回るかもしれないから。」


 「うん、ありがと、さよなら。」


 少年は足早に立ち去ると、僕らも人のいる繁華街の方へと移動した。


 暫く黙って歩いていた江口さんは顔を赤くして涙ぐみながら、


 「あっ、あの…新田君だよね…?同じクラスの。

 助けてくれて、ありがとう…。

 周りの人が皆居なくなっちゃった時にはもうダメかと思った…。」


 江口さんも僕の名前を覚えててくれたんだ…。

 僕は江口さんにハンカチを渡しながら、


 「あー、あれは酷いよね、せめて110番くらいしてくれてもいいのに。

 まぁ僕も暴力を振るったワケだから、警察が来ない方が結果的には良かったかも。」


 「あの…新田君は何で私の事を櫻井さんって呼んだのかな、もしかして私の名前、判らない…?」


 「そんなワケ無いよ、江口さん。

 何でかっていうと、本当の名前を相手に覚えられた場合、後で僕達の身元を調べられるかもしれないからさ。

 だから僕は女って言われても否定しなかったんだ。

 今後、もしさっきの男達やストーカーとかに後ろを付いて来られた場合はそのまま家に真っ直ぐ帰っちゃいけないよ?

 自分の家の場所を自分でバラす様なものだからね。

 そういう時はなるべく人が多く居る場所に逃げるんだ、いいね?」


 「新田君、何でそういう事に色々と詳しいの?

 それに何だかスゴく強かったし…。」


 「僕の家は戦国時代の頃から柔術を伝承している武士の家系だからさ。

 今で言う総合格闘技かな。

 それよりゴメンね?

 僕がアイツ等に手を出したばかりに今後は江口さんが狙われてしまうかもしれない…。

 ここにはよく来るの?」


 「あー、私の家は川の向こう側だよ、今日は身体を動かしにコッチのグラウンドの方まで来てただけ。

 私も暫くはコッチ側には来ない様にするね。

 …新田君の家は何処なの?」


 「僕の家は東町かな。

 江口さんは?」


 「私は南町。意外と近いね…。

 あの…新田君、お願いがあるの。

 私を暫くの間、家まで送ってくれないかな…?

 やっぱりちょっとさっきの人達が学校や家に来ないか心配なの…。」


 江口さんは大きな瞳を潤ませながら不安げに僕を見つめている。


 「…そうだね、僕のせいでもあるし…

 でも江口さんは部活があるよね?」


 「うん、ゴメンね?

 待たせると思うけど…

 お願い。」


  江口さんは僕の手を掴んで自分の胸元まで引き寄せ、両掌を組んでお祈りをする様に懇願している。


 あ、当たってるよ、ナニとは言わないけど、当たってる…。

 僕は恥ずかしがりながらも、

 

 「あぁ、いいよ。

 僕も図書委員だから、受付をやる時は帰りは遅いし。 

 他の日も部活は無いから、宿題でもして待ってるよ。

 でも、今日初めて同じクラスになったばかりの僕でいいの?

 僕と一緒に帰ったりしたら、江口さんは学校中のウワサにされたりして困るんじゃない?」


 「わっ、私?

 私は困らないよ、彼氏とか居ないし。

 ムシロウレシイシ…」


 「えっ、最後何か言った?」


 「ううん、何も。」


 「じゃあ、今日から家に送ろうか。」


 「よ、よろしくお願いします…。」


 江口さんは真っ赤になりながら恥ずかしそうに返事をした。


 江口さんは明るくて活発な子だと思ってたけど、更に優しくて恥じらいがあって、可愛いなぁ…。


 

 

 僕は家の風呂に浸かりながら、今日の事を振り返った。

 

 どうしよう…僕は同じクラスの女の子2人を同時に好きになってしまったみたいだ…

 

 こんな事、誰にも言えないよ…

 どうしたらいいんだろう…。




 次の日学校に行くと、朝や休み時間に相原さんと江口さんの2人がやたら僕に話し掛けて来る様になった。

 

 そして昼休みになって僕は家から持って来た弁当を机の上に出したら、

 

 「「新田君、一緒にお昼ご飯食べよっ。」」


 2人が同時に僕の方を振り返ってハモった。


 2人はお互いを見ながらニコッとしているが、目は笑っていない。

 何か見えない火花が散っている様だ…。




 ハァ…本当に僕はどうしたらいいんだろうか……。

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