第24話 レインのターン⑦

「思いの外、楽しめたな」

「うん、私も楽しめてよかった」


 二人が獣カフェを楽しんでから、外に出たのは夜のこと。すでに、外は宵闇よいやみを照らす月が出ており涼しい風が吹いていた。街灯もたくさん炊いていて、街は光に包まれている。


「……夜ご飯は、どこで食べよう? アレンは何か食べたい物とかある?」

「んーお肉がいいかな」

「なら、飲みにいこう……」

「そうだな……たまには、いいか」


 仕事を終えた者達が、そして、ダンジョン攻略に赴いていた冒険者達が豪快に酒飲みに走っている中、アレン達もその輪に入る様子。

 数多の陽気な声が店々から漏れ出しているが、そんなことは気にも留めずアレン達はストリートを歩いていた。


「酒場は活気が凄すぎるから、少し落ち着いたところがいいよな」

「うん……落ち着いたところがいい」


 レインも同感の様で、喧騒の多そうな店は避けて比較的静かそうなお店を探していくことになった。

 レインの柔い手を握りながら、歩いていくとやがて自分たちの求めていたであろう店舗へと辿り着く。


「こことか良さそう……?」


 ピタリ、と足を止めて聞いてくるレイン。

 一見、寂れた様に見えるカフェテラスはレンガ造りで何というか古風な感じがした。

 看板には『美の戯れ』とのプレートがあり、それが店名に違いないだろう。

 アレンはレインの問いかけに対して、ゆっくりと頷いてから店内の様子を窺うことにしてみる。


(………え、ど、どうなってんだ……この店は)


 まず目に入ってきたのは、妖艶な雰囲気を醸し出しているウエイトレス。周囲を見渡せば、働いている人達は可愛らしい女性ばかりであった。アレンは眼福の光景に思わずごくりと固唾を飲むが、瞬間——耳を引っ張られてしまう。


「……ん、やっぱりここなし」

「い、いたたたた……な、何すんだ」

「何でもない」

「いや、何でもないことはないだろ」


 耳はピンっと張り、頬はむくれて千種色の瞳はアレンを見つめようとしてくれない。

 明らかに不機嫌になっていることはアレンの目から見ても明らかだった。


(……なぜだ? さっきまではテンション高かったのに)


 頭を回転させるも、鈍感なアレンには検討もつくはずがない。頬を『むぅ』と膨らませるレインはアレンの手を強引に引いていき、『美の戯れ』から離れていこうとする。


「あの店、見た感じ客層静かそうだったが、気に入らなかったのか?」

「……知らない」


 アレン的には結構良さそうだと思ったのだが、レインはどこか不愉快そう。

 ずるずると、アレンを引きずっていくレインである。流石、【冒険者ギルド】で"攻撃特化の獣人"と言われるだけの怪力はあった。


「いや、自分で歩くから……って、ちょっと痛いんだが……」

「もう、こうなったらやけ酒だから」

「え、は!?」


 それだけは辞めて欲しかった。レインの酒癖が良くないことはアレンは嫌という程に知っているから。


「で、でも落ち着いた店でやけ酒は……」

「ううん。もう賑やかないつもの酒場にいく」

「ちょ、ちょっとレイン!?」


 もう何を言っても無駄な様子。レインはふんと鼻息を鳴らし尻尾も荒々しく振っていた。


(………お、俺なにかしたのか?)


 何とか解決の糸口を探ろうとするものの、もう遅かった。レインは陽気な笑い声が沢山漏れ出している酒場へと足を踏み込んだのだから。


♦︎♢♦︎


 血気盛んな冒険者ギルドの様な酒場で、レインは酒をぐびぐびと飲んでは甘えてきていた。


「アレン、頭なでてぇ」

「……………」

「アレン……可愛がってよぉ」

「……………」


 紅潮した顔色に、とろんとした頬、潤みに潤み切った千種色の瞳。今現在、アレンは対応に困り果ててしまっていた。


(気まずい……何が、気まずいって周りの目が……)


 男が群れて酒を飲んでいる中、アレンだけが一人の女性から甘えられているという光景。

 他の男性達からの刺す様な視線があまりにも痛かったのだ。


(これだから……レインの酒に付き合うのは嫌なんだ)


 はぁ、とため息を吐くアレンであるがそのときである。レインが重要なワードと共に意味深な発言をしたのだ。


「アレン……"迷宮祭"、相当きつくて大変だと思うけど……信じてるから」

「……っ」


 レインの瞳からは"期待"というよりかは"確信"じみたものを感じ取る。アレンは"迷宮祭"というワードに対して眉をひそめていた。


(あと一ヶ月後の迷宮祭、なんか怖くなってきたなぁ……)

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