第22話 レインのターン⑤
「いやぁ、美味しかった。……ありがとな、レイン」
「ううん、それはこっちの台詞」
喫茶店を出てから、アレンとレインは言葉を交わし合っていた。その言動から『白亜の氷城』をお互い、盛大に楽しめたようである。
現在は、他店舗に向かいながらアレンとレインは会話を弾ませていた。
「次どこ行きたいとかある……? アレン」
「うーん、今日は暑いから出来るだけ店内で楽しめる所がいいよな」
「………そうだよね」
店内で涼んで思ったことだが、外より内の方が明らかに快適なのだ。それに、獣人族であるレインにとって毛量の多さから、人族である自分よりも外は暑いに違いなかった。
(レインも店内の方が……いいだろうしな)
そう思っての判断である。
「アレン、ちゃんと楽しめてる?」
「あぁ……楽しめてるよ」
「なら、良いんだけど」
「そんな焦って困らなくても、楽しくないんだったら、速攻家帰ってるから安心してくれ」
「…………」
どうにもアレンの目からみて、レインは心配性な様に映った。普段、我が儘なところが目立つレインであるため違和感を覚えずにはいられない。
(何をそんなに焦っているんだろう……)
可憐な白いワンピースの裾をきゅっと握りしめてそわそわとするレインを見ると、そのことに触れないのも不自然だろう。
アレンは一息ついて、話を振った。
「どうして、そんなに不安になってるんだ?」
「……負けたく……ないの」
「誰に?」
「あのエルフと、受付嬢、そして……あの化け物に……」
腕を組んで敵対心を燃やすレイン。耳をピクピクッと跳ねさせ、頬を『むぅ』と膨らませる。
(エクレシアとアンナさん、そしておそらく化け物っていうのは………流れ的にルクシアだよなぁ)
鈍感なアレンでも察しがつくが、何に対して負けたくないのかは分からなかった。
(ダンジョン攻略に対して? いやでも、それならアンナさんがこのメンツに入ってくるのが分からない……)
頭を悩ませ考えついたのは、少し下世話なもの。はっと気づいたアレンは、もじもじと体を動かしながらレインにグッドサインを送る。
「が、頑張ってくれ(胸の大きさだよな。この面々で負けたくないというと)」
「うん、頑張る……(アレンが私を選んでくれるように)」
両者の解釈は大いに違うものであるが、なぜか噛み合いを見せていた。アレンの『頑張ってくれ』という言葉が響いたのか、レインはふぅと一息ついて提案をする。
「……店内で楽しめる所といえば、
「行ったことないし、楽しそうだな」
獣カフェ。癒しを求めて利用する客が多い店。アレンは一度も行ったことがなかったため、楽しめそうだと直感する。
「じゃあ、そこにしよう」
「あぁ」
「……期限は"迷宮祭"までだから、そこまでにアレンを———」
「ん? なんか言ったか?」
「ううん、別になにも……アレン、またはぐれたらダメだから手をつないでもいい?」
「全然良いよ、ほら」
恥ずかしい気持ちはあるが、ここで拒否すれば揶揄われてしまうだろう。愚策には走りたくなかったアレンである。
「ありがとう、じゃあ……行こう」
尻尾を振りながら、そして、頬を赤らめながらギュッと手をつなぐレイン。
あまりの滑らかさにアレンもドキッと心臓が高鳴ってしまうのだった。
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