少女セレフィの事件簿

フィオー

第1話

 親愛なるママ先生、皆がセレフィの仕事の話を聞きたいと言ってうるさいですので、今回はこうして代書屋さんに頼み、セレフィの言ってることを手紙にしたためてもらう次第です。良い感じにまとめてもらいますので、この内容を皆へ先生からお伝えくださいませ。


 孤児院を出て、能力者犯罪のエキスパートのキアラさんの元でセレフィが仕事をはじめて早1年、何個も手帳を書きつぶしてきました。だから文字もうまく書けるようになりましたよ。


 セレフィが見てきたキアラさんが解決した事件の、その中で一番大きな事件の経緯を話していきます。


 なんとっ、レベル10の能力者がやった事件です。


 対策のために国家が止まるほどのが、レベル10の能力者です。


 その事件とは、6か月前に起こった、バルビエリさんの現金強盗事件の事です。セレフィの9才の誕生日のすぐ後です。


 セレフィとキアラさんは通報を受けて、すぐ馬車に乗ってガラン銀行に向かいました。ガラン銀行前はサーコートに重々しい鎧を着た警備兵さん達でいっぱいでした。


「能力者による強盗事件だそうね」


 キアラさんは颯爽と馬車から降りて、出迎える銀行の支配人に手庇をしながら言いました。この馬車のステップをつま先だけでリズムよく降りるのが超かっこよく、セレフィもマネしたいのに、ぜんぜんできません。


 ついでにキアラさんは、すごく背が高いです。男の人も見下ろしいて、ボンッキュッボンッな体をしています。全女性の憧れです。


「おおっ、お待ちしておりました。犯人はあなた方と同じく能力者です。ああ、何という事か。早く調査をお願いしますっ」


 とWのかたちの口ひげの支配人さんが、あまりに取り乱してキアラさんに言っているので、セレフィは、


「ダイジョブでありますよっ。我々は能力者犯罪のエキスパートであります、おまかせくだしゃいっ」


 って、支配人さんに言ってやりました。


「えっお嬢ちゃんも能力者なの!?」


 って支配人さんは、セレフィにびっくりしてました。


「支配人こっちに来なさい。ここに現金を運び込んでいる時に、盗まれたのね?」


 犯行現場の荷馬車の荷台を見ていたキアラさんが、支配人を呼び尋ねました。


 支配人さんがキアラさんの元へと走って行きました。


 セレフィもキアラさんの元へと走って行って、キアラさんが覗き込んでいる荷台を覗き込みました。


 荷台には何もなかったです。お金があると思ったら全部中に持ってったみたいでした。


 セレフィは仕事を始めました。クンクン中の匂いを嗅ぎまわっていきます。


「キアラさん。匂い、いくら嗅いでも何もわかりませんっ」


 セレフィのレベル1能力、犬並みの嗅覚での調査結果を、キアラさんに報告しました。


 セレフィの仕事の半分が終わりました。


「ありがとセレフィ」

「あんでもないですよ」


 キアラさんのお役に立てれてセレフィは満足でした。


 キアラさんは支配人さんに振り向き、じーっと睨みつけて、


「教会登録能力者は今、ジェントの街に私らだけ。つまり能力者犯罪だとしたら未確認能力者による犯行です。まず、何の能力かを特定しないと対策もできないわ、だから支配人、当時の状況を教えてちょうだい」


 って聞きました。


 キアラさんのレベル8能力です。


 キアラさんは、ぐっと力を入れて人を睨みつけると意のままにコントロールすることができます。こうやってキアラさんに能力を使われて尋ねられると嘘が付けなくなります。


 セレフィにしてくることはありません。掃除洗濯料理は全部、セレフィがやりたくてやっている事です。孤児院にいる時より楽しい毎日です。そう言えとキアラさんに言われたので、ここにちゃんと言っておきます。


「はい……盗まれたのは、430万ギールもの大金でございます……全て100ギール札、この馬車の荷台から、一瞬で無くなりました」


 支配人さんが言いました。


「ホントに一瞬で?」

「はい。一瞬です、私の目の前から突然に無くなったんです」


 キアラさんは支配人さんに聞いていきます。


「目撃者はあなただけ?」

「いいえ、運び込んでいた警備兵も、見ています」

「そのもう一人の目撃者の警備兵はどこ?」

「はっ、自分でございます」


 荷馬車の横に立っていた警備兵さんがキアラさんに敬礼しました。


「では目撃者は2人?」

「そうです」

「荷台にはいくらあったの?」

「5000万ギール近くの現金が袋に分けられ詰め込まれていました」

「変ね、どうして400万ギールだけ盗まれたんでしょう?」

「そりゃ持てないからでありますよっ」


 セレフィは、わかってしまったのでそう言ってやりました。


「そうね、セレフィ。400万ギールは約10カーンちょいになるわ。ペラペラの手の平大のギール札を束ねてそれだけの重さになるお札の塊……人1人が持てるギリギリの範囲と見るかどうか……。それで支配人は当時はどこにいたの?」

「この警備兵が売上金を積んでいるのを、この荷台の中に立って監視しておりました」

「では警備兵もこっちに来て。……ちょっと再現してみましょう。当時あなた方がいたところに立ってみて」


 支配人さんと警備兵さんは荷台にテキパキと乗り込んでいきます。


 警備兵さんは荷台の奥の左側で腰を少し曲げて、ギール札のブロックの入った袋を荷台の奥に積んでいるポーズを取りました。


 支配人さんは荷台の入口右側に立って、荷台奥で作業する警備兵さんを見るように立ちました。


「……なるほど、ではその場で2人ともに質問です、その時、何か気づいたことはある?」

「……、いえ……」


 支配人さんが困ったように首を振ります。


「自分は何もありませんっ」


 警備兵さんが、ハキハキと言いました。


 キアラさんが、そんな支配人さんと警備兵さんを睨みました。能力を使う時のキアラさんは、睨みつけなくちゃならないので、顔がちょっと怖いです。


「どんな能力であれ痕跡一つ残さないでなんてありえないの。何でも良い、その一瞬の時に、又は前に後に、あなた方が見た聞いた感じたもの全てを片っ端から教えなさい、重要かどうかは私が判断するっ、良いわねっ」

「はい」


 言われて支配人さんと警備兵さんは、共にピシッと姿勢を正して、返事しました。


 セレフィは出番に備えてポケットから手帳を取り出しました。


「では、あなた方が見たものをすべて言いなさい」

「蜂が2匹飛んでました、太陽が雲に入ってちょっと暗くなりました、……」


 などなど、2人は共に、目に入ったものをどんどん言っていきます。


「セレフィ」

「はいっ」

「ここらに蜂の巣があるか調べる」

「了解いたしましたっ」


 セレフィは手帳にメモしていきます。


 2人が羅列していく中、キアラさんが気になったものをセレフィはメモしていきます。これがセレフィの仕事のもう半分です。


 そのため、セレフィの左ポッケはハンカチと財布、右ポッケは手帳とペンで、いつもパンパンになっています。


 セレフィはそれを忘れないようにメモして、後で全て調べていくのです。


「では聴覚。聞いたものをすべて言いなさい」

「道路を封鎖する事に罵声がしました。警備兵の鎧がカチャカチャ……」


 などなど、2人は共に、耳に入った音を片っ端からどんどん言っていきます。


「馬の嘶きが聞こえてきました、あとは……」

「馬の嘶き? 警備兵、それはどこで聞いたの?」


 キアラさんが、何かに引っかかり尋ねました。


「……道路の反対側です」

「いつ聞こえたの?」

「ちょうど現金が消えた瞬間です」

「あっ、それでしたら私も聞こえました」


 支配人さんも言いました。


「辻馬車が一輛、反対側の道で急停車した音でございます。ただ飛び出した子供を轢きそうになっていただけでありました」

「……セレフィ。犯行当時、反対側の道で急停車した辻馬車を探がす」

「了解いたしましたっ」


 セレフィは手帳にメモしていきます。


 キアラさんは2人に向き直り、鋭い眼光を注いで、


「では触覚。肌で感じたものをすべて言いなさい」


 聞き取りを続けていきます。


「風がときおり強く吹いてました。空気は乾燥してました。……」


 2人は共に、肌で感じたものをどんどん言っていきます。そして、


「積み込みを行っていた右腕が急に痺れました」

「私もでございます、私も急に左腕が痺れました」


 と2人が言った時でした。


「待った」


 キアラさんの制止の声に、2人はピッタリ口をつぐみます。


「痺れ? 2人ともが? それは、正確にはどこの部分なの?」

「私は左腕全体でございます」

「自分は右腕全体です」


 キアラさんは少し考え込み、荷台奥の左側に居る警備兵さんと、荷台の奥の左側にいる支配人さんを交互に見ます。


「……なるほどね……」


 キアラさんは呟きました。そしてキアラさんは唇を舐めるのを、セレフィは見逃しませんでした。キアラさんは、ついに何かを掴んだのです。これはキアラさんが犯人につながる何かがわかった合図なのです。


 セレフィは興奮して、


「キアラさんっ。何かわかったんでありましゅかっ」


 と取り乱して聞きました。


「つまり……誰かがこの荷台に乗り込んで、奥に積まれたギール札まで行くとするとね。同線上に左に立っている支配人の左腕が、右側に立っている警備兵の右腕が、邪魔になるってわけなの」


 どういう意味か、セレフィまったくわかりませんでしたので、


「……どういう意味か、セレフィまったくわかりませんっ」


 とキアラさんに伝えました。


「誰かが、この2人の間を通って行った……と見えなくない?」

「……じゃあ強盗さんは、一瞬で二人の間を通ってお金を盗んでいったとゆう事でしょうか?」

「くそっ、何でよりにもよって!」


 その時、支配人が急に怒りだしました。


 どうやらセレフィの方にキアラさんが見て話していたので、効果が切れたみたいです。


「これでバルビエリ様に悪い印象を持たれたら、我が銀行はっ、くそっ! 他でも現金移動なんてやってるだろうにっ。本当に捕まえてくださいよ、バルビエリ様に目をつけられたら……ああっ、うちの生活が懸かってるんですから!」


 支配人はすごくいら立って、怒り心頭でした。


 キアラさんは聞き込みを再開しました。でも結局大事な情報はもう出たので、ここからの事は割愛しますね。

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