第115話 魚人VS超人

「おい!細かい事は分からんが!

 相手は魚人だぞ!その槍は水属性ではないか!?」


 マートンがマルグリットに問いかけた。


「ああそうだ。だからどうした?」


「だからって!」


「いやいい。やらせてやれ。」


「ミレルミア!しかしだな。」


「警戒するのは分かる。アイツが決めた事だ。

 それに、ここで死んでも問題ないだろう。

 まだ正式にメンバーですらないからな。」


「かなり酷い事言ってるでありんす。」


 そんなミレルミアに周りが引いていた。


「バカも休み休み言え。雑魚が。

 アタシがこんな奴に負ける訳がないに決まってんだろうが!

 むしろ、首を洗って待っておけ。」


 マルグリットはなぜかヤル気に満ち溢れていた。


「逆にやる気になったのね。」


 ホムラは気持ちが分かるが呆れていた。


「うっうう。ほ、ホムラ。」


「イチエイ様。ご無事で。」


「ああ。キャスト様は?」


「我が主君は結界に囚われているとか。」


「そ、そうか。ならば、行きなさい。」


「はっ!」


 ホムラはその指令を素直に受け入れ、その場を離れていった。


「イチエイ。無理はするな。」


「すまない。ミレルミア。

 不甲斐ないところを見られてしまったな。

 ブラスに鍛え直してもらわねばな。」


「そんな事より!アレ!どうするのよ!」


「落ち着いて下さい。カーチャ様。」


 ハサンが荒ぶるカーチャを止めに入っている。


「カーチャ様。ご安心下さい。

 アレは仮にも英雄です。

 アレに勝つには相当な事がない以上は、天地がひっくり返ってもあり得ません。」


「さっきまでの蔑みとは打って変わってでありんすね。」


「バカにするな。

 私にだってそれぐらいは分かる。」


 ミレルミアは理解していた。英雄の姿を。

 今、目の前で繰り広げられている戦いを静かに見守っていた。


「死ね死ね死ね!」


 大量の水の斬撃が飛んできた。

 マルグリットは槍を回しながら構え直し、一撃一撃を器用に斬って打ち消していた。


「フン!この程度か?」


 下から水の柱が出てきた。

 だが、下に魔力シールドを張っていたため、ノーダメージだった。


 今度はその攻撃を牽制に、背後に地中からやってきたサムが近接戦を仕掛けた。


「隙あり!」


 相手を手で貫こうと、鋭い一撃を放った。

 マルグリットは後ろを振り向かずに、槍を背中に回して防いだ。


「終わりか?」


「チッ!舐めんな!」


 蹴りと同時に、新たに水柱を地面の斜めから放ったが。これも無傷であった。

 それどころか、蹴りを指先で止めていた。


「なっ!」


「これが力の差だ。ボウヤ。」


 マルグリットはサムのオデコにデコピンして後ろへ吹き飛ばした。


「ぐおっあ!」


 仰向けに、地面を滑るように飛ばされていた。

 そして、勢いを失くし、止まった。


「ぐっ。な、何でこんな・・・。」


「お前が弱いだけだ。」


「アイツはハッキリと言うな本当に。」


「ハッキリというか、あのー。

 これって、敢えて相手を煽っていませんこと?」


「お嬢様。ここは静かに見守りましょう。」


「お、俺が弱い・・。」


「ああ。弱い。」


 サムが徐々に戦意を喪失しかけている。

 クスリの効力が切れかけているのもあってか、弱々しくなりつつあった。


「そ・・んな・・。

 姉ちゃんのために・・クソッ!」


 腕を地面に振り下ろしていた。

 衝撃で地面にクスリが何錠か落ちた。

 サムはそのクスリを拾った。


「・・・・俺は弱いのか。

 なら、せめてコイツだけでも・・・んぐ。」


 一気に何錠かクスリを飲んだ。

 次の瞬間、身体に異常が起き始めた。


「ぬぐぅ!い、痛えぇぇぇ!」


 少年の身体が形態変化が行われていた。

 バキバキと骨の変形音を鳴らしながら、変化している。


 目の前には少年の姿はなく。

 成人男性ぐらいの身長に、目が赤く虚である。

 身体からは、堅そうな鮫肌が見えており、牙も鋭い。

 指先は以前よりも鋭利になっている。

 足も鋭い剣のような、鋭利状になっている。


「全身凶器へと成り果てやがったか。

 理性は・・・ねえな。

 あれば、自身の姿に驚きを隠せないだろうしな。」


 マルグリットは冷静に分析をしていた。


 クスリの効力は強化剤?程度しか把握していないが、目の前の敵が脅威であるか、そうではないかを見定めていた。


「やれば分かるか。」


 既に変形したサメの姿は無かった。


「!!」


 後ろから凶器が迫っていた。

 いつのまにか、地中をつたって移動していた。

 ワープレベルで速くなっていた。


 マルグリットは感覚で動いていた。

 人間の知覚レベルを超えていたため、見てからでは遅いと感じていた。


「ガァッ!」


 連続の斬り裂き攻撃が炸裂している。

 それをマルグリットは槍先で捌いている。

 しかし、ある攻撃が頬を掠めた。


 槍の持ち手部分から、水の槍が発生していた。


「(水属性の槍に干渉して、魔力を流しやがったな。)チッ!」


 槍を切り替えようにも、相手は攻撃を止めない。

 マルグリットは攻撃を捌きながら、時々、槍から発生する水の攻撃も避けなくてはいけなくなった。


「なっ!ま、マズイぞ!ミレルミア!」


 マートンが叫んでいた。


「そうだな。どうやって乗り切るのだろうか。

 それはそれで見ものだな。」


「呑気でありんすね。」


「ほ、本当ですわよ!ミレルミアさん!」


「流石に、お嬢様の言う通りかと。」


 ミレルミアは少しイラつきながら返した。


「あのな。アイツが油断したのが悪いのだ。

 ウチの肉団子騎士アリシアなら瞬殺している。

 アイツはイカれ過ぎて、例外中の例外だが。

 それでも仲間になるのなら、これぐらい乗り切れなくてはこの先厳しくなる。」


「わっちらでも厳しいでありんす。」


「お前たちは土俵が違うだろうに。

 あの新人が騎士として、旦那様の隣に立ちたいと願うのなら、あれぐらいは難なく対処する必要があるまでだ。」


 ミレルミアの分析は普通の人からしたら、斜め上過ぎる。

 この『ファミリア』の序列争いと騎士として、側仕えを希望する以上は普通では駄目であった。


「言いたい事は分かるが・・・。

 魚人を舐めていなければいいが。」


 マートンは理解を示したが、不安は拭えていない。


「オラっ!」


 マルグリットは、槍を大振りで全体に突風を巻き起こし、敵と距離を離した。


「気色悪りぃな。

 それと!後ろでごちゃごちゃとうるせーぞ!

 テメェらからぶっ殺してやろうか!?」


「ひぇ!な、何なんですの!あのお方は!?」


「仲間でも容赦しないのか。あのお方は。」


「アレもバカだからな。」


 ミレルミアだけが臆する事なくバカ発言をしていた。


「肝が強いのか。物理的に強いのか。」


 イチエイは残りの片腕だけで頭を抱えていた。


「ささっと決めろ。

 旦那様が来られると前に出てくるぞ。」


「何!?」


 今まで冷静に対応していたマルグリットが焦った。


「それはマズイ!

 雷よ!神装『トネドラ』!」


 蒼槍から雷槍に切り替えて神装を纏った。

 黄色い電流が身体を走っている。

 ビリビリとした鎧が付いている


「速攻でケリをつける。悪く思うなよ。」


 先に動いていたのはサメの方だ。

 木々ごと薙ぎ払い斬りをお見舞いしようと、巨大な水のブレードで斬りつけようとしていた。


 そして刃がマルグリットを通り過ぎた。


 だが無傷どころか、マルグリットの身体には何も起こっていなかった。


 不思議に思ったサメは、何度も水や鮫肌の刃などで斬りつけているが。

 まるでいるかのように、攻撃が一切当たっていないのだ。


「言ったろ。終わらせると。」


 マルグリットは雷の速さで、一瞬で距離を詰めていた。

 そして、敵のおでこに指を指して。


「『神代魔法:ゼウス・ボルトショック』。」


 彼女を中心に巨大な雷が発生した。


 あまりにも眩し過ぎるため、周りは目を瞑ってしまっていた。



 キャスト視点


「大丈夫ですか?キャスト様?」


「ありがとう。ホムラ。

 あの結界は内からだと、時間が経たなくては解けないらしくてね。助かったよ。」


「いえ。そんな。とんでもございません。

 私如きが、御身のお役に立てたのならば良かったです。」


 なぜそう卑屈になるのだ?

 余計に、俺の劣等感意識を煽られているのでやめていただきたい。


『器が小さ過ぎます。』


 悪かったな。

 小さいからこそ、よく己の身分を知っているつもりですよーだ。


『いえ。予想よりも大きいとは思いますが。』


 今現在はホムラと共に、ミアたちの元へと向かっていた。

 ホムラさんが俺に合わせて並走している。

 ちょこちょこ、大きめの胸が揺れている。


『何を凝視してんですか。』


 あ、いえね。観察日記てか。なんというか。


 そんな下らないやり取りをした途端に、奥から大きな雷の光が見えた。


「あれは・・・雷?」


「左様かと。

 恐らく、今戦っておられるのが、マルグリットなる奴でした。」


 奴ね。奴かよ。

 あれ相当ヤバめな一撃じゃなくて?

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