走って、メロ子ちゃん!
i & you
第1話
メロ子は激怒した。必ず、あのめっちゃ悪い王をたおさなきゃ!と決意した。でも、メロ子には政治がわかんない。メロ子は今まで、学校も行かずに笛を吹き、羊と遊んで暮して来た。けれども悪いやつに対しては、なんか人よりもきづきやすかった。今朝早く、メロ子は村を出発して、野を越え山越え、50kmくらいはなれたここ、丸の内デパートにやって来た。メロ子には、パパもママももういない。彼ピもいない。16歳の、内気な妹ちゃんと二人暮しだ。この妹は、村のとある、几帳面ななサラリーマンと結婚することになっていた。結婚式ももうすぐである。だからメロ子は、花嫁のドレスとかパーティーのごちそうとかを買いに、はるばるデパートへやって来たのだ、まずはその品々を買って、それから大通りをぶらぶら歩いた。メロ子には昔からの親友がいた。セリヌンティウスちゃんである。今はここの街で、タピオカ屋さんをしている。その親友に、これから会いに行く約束なのだ。全然会ってなかったから、訪ねて行くのが楽しみである。歩いているうちにメロスは、ここの様子を怪しく思った。ひっそりしている。夕方だから街の中が暗いのはそうだけれども、なんだか、そのせいばかりじゃ無くて、街全体が、やけに寂しい。のんきなメロ子も、だんだん不安になって来た。路で逢った若いギャルをつかまえて、
「どしたん?あーしが2年前に来た時は夜でもみんなtik tok撮ったりしてたやん?」
と質問した。若いギャルは、首を振って答えなかった。しばらく歩いてばぁばに逢い、こんどはもっと、声をおっきくして質問した。老爺は答えなかった。メロ子は両手でばぁばのからだをゆすぶって質問を重ねた。ばぁばは、誰にも聞こえないような細々とした声で言った。
「王様は、Twitterアカウントを凍結させます。」
「何で凍らせるん」
「盛れてないプリを晒されてる、というのですが、みんなその気なら2ちゃんねるにでも張りますよ、全く」
「たくさん、凍ったん」
「はい、はじめはフォロワー五十万人の、王様の妹さまを。それから、御自身の息子さんを。それから、妹さまの御子さまを。それから、皇后さまを。それから、賢臣の荒田様を。」
「驚いたわ。王様、頭おかしなったん?」
「いいえ、乱心ではございませぬ。人を、信ずる事が出来ぬ、というのです。このごろは、臣下の心をも、お疑いになり、少しく派手な暮しをしている者には、人質ひとりずつ差し出すことを命じて居ります。御命令を拒めば三日以内にアカウントを乗っ取られ、下ネタツイートをさせられたあと凍結させられます。きょうは、六人凍結しました。」
聞いて、メロ子は激怒した。
「は?許さないが???もう殺すしかなくね???」
メロスは、単純な女であった。買い物を、背負ったままで、のそのそ王城にはいって行った。たちまち彼女は警備員に捕まった。調べられて、メロ子のポッケからはカッターナイフが出て来たので、騒ぎが大きくなってしまった。メロ子は、王の前に引き出された。
「このカッターで何をするつもりであったか。言え!」暴君は静かに、けれども威厳を以て問いつめた。その王の顔は蒼白で、眉間の皺は、刻み込まれたように深かった。
「昔の良かったTwitterを、あんたの手から救い出す!」
とメロ子は悪びれずに答えた。
「フォロワー十人の、おまえがか?」王は、憫笑した。
「仕方の無いやつじゃ。おまえには、わしの孤独がわからぬ。」
「言わんとって!」とメロ子は、ムカついて、言い返した。「人の心を疑うんは、人としてサイテーや、サイテー。あんたは、Twitter民の民度まで疑ってる!」
「疑うのが、正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのは、おまえたちだ。人の心は、あてにならない。人間は、もともと欲望のかたまりさ。信じては、ならぬ。」暴君は落着いて呟つぶやき、ほっと溜息をついた。「わしだって、平和を望んでいるのだが。」
「なんの為の平和なん?!自分の名誉守るため?!」こんどはメロ子が馬鹿にしたように笑った。「罪の無いアカウントを凍結させて何が平和だ。」
「だまれ、身分の低い者め」王は、さっと顔を上げて、言った。「口じゃあ、どんな清らかな事でも言える。わしからすれば、皆等しく、人の腹の奥底が見え透いておる。おまえだって、いまに凍結されてから、泣いて詫わびたって聞かぬぞ。」
「ああ、王様は賢いもんね。ちょーしのってればいいよ。わたしは、ちゃんと死ぬる覚悟で居るのに。命乞いなど決してしない。ただ――」と言いかけて、メロ子は足もとに視線を落し少しためらい、
「やっぱ死にたくねーわ」
刃の銀が滑らかに滑り、メロ子の首は落ちた。
走って、メロ子ちゃん! i & you @waka_052
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