第37話

「………本当に全員捕まえたんだねぇ……」


 地下牢の中に放り込まれている大量の犯罪者達を見渡し、クリューセルは冷や汗をかいた。


 ちょっと散歩に行ってきます。


 そんな感じで五人が出ていった数時間後。アディエルの影から連絡を貰った彼は、兵士を引き連れて馬車で迎えに行った。


 なんか四つん這いになって、ブヒブヒ言ってるのがいるのだが……。


 何があったか尋ねれば、アディエルを人質に取ろうとして反撃にあい、リネットの怒りによって、豚になる暗示にかかったらしい。


 うん。絶対にリーゼンブルクを怒らせちゃ駄目だ……。


 戻ったら家族全員に言い聞かさねばと、クリューセルは心の中で誓った。


 カイエンを怒らせれば、言葉で追い詰められる。

 リネットを怒らせれば、薬を使われどうなるか分からない。

 ダニエルに至っては、情報操作で皇国に不利な状況を作られる。

 エイデンは良心的ではあるが、彼らをわけではない。


 アディエルだけが、彼らを止めて出来るのだ。


 今回の件で、ヒルシェールがすっぱりとアディエルを諦めてくれたことに、これほど安堵したことは無い。


 しかし、まだ問題は残っている。


 皇弟である叔父ヒルシェールに対して、カイエンがしっかりと反省してもらうと言ったのだ。


「……………叔父上、大丈夫であろうか……」


 遠い目をしながら、クリューセルは今日の集まりから逃げたくなっていた。




 ※※※※※※※※※※


「………薬の効果確認?」


 ヒルシェールに対して、アディエルが求めたのは、リネットの新薬による効果の確認であった。


「ええ。は問題ないのですが、なにぶん該当するの方が、なかなかいらっしゃいませんでしたので確認が取れず。どうしたものかと思っておりましたの♪」


 首を傾げて話を聞いているクリューセルに、アディエルはニコニコと笑いながら答える。


「服用確認、経過観察、状況指導を全てエマール様がお手伝いくださるそうですし、何よりこの薬の効能が確認出来ましたら、取り扱い先窓口は、エマール様です。ヒルシェール様も結果次第ではよい広告塔にお成りくださいますし」


「…それって、人体実…」


「何か問題でも?」


 微笑むアディエルの隣にいたカイエンが、にっこりと微笑んだ。


「……ナイデスネ……」


 クリューセルは、視線をずらした。


 目を合わせるな、危険!と、本能が伝えてくる。


「…まあ、叔父上が納得してるそうだし、エマール嬢も協力体制になってるんだ、我の反対など通らんよ…」


 叔父のやらかした事を、公になる前に何とか出来たのである。文句を言える立場では無い。


 そうして、リーゼンブルク一行を見送った半月後。


「……お、叔父上ーーーっ!?叔父上、しっかり!」


 クリューセルは、ゲッソリと窶れたヒルシェールの姿に叫んでいた。




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