第28話

 ヒルシェールは己の財産を使い、こっそりとギルドを立ち上げた。

 アディエルの情報を得るためだった。

 報酬が高い上に手段を問わないために、あっという間にならず者が増え、闇ギルドと呼ばれるようになっていた。

 それでも、情報さえ手に入れば良いと気にしなかった。

 しかし、かの国は他国からの者に目が厳しく、なかなか捗らない。


 国からの使者として自分が向かおうとすれば、皇太子であるクリューセルがいるので必要ないと言われた。

 なので、お忍びで向かったところ、侯爵家の護衛と、近衛騎士に阻まれた。


 正面からは会わせてもらえないと理解したヒルシェールは、自分の使用人として紛れ込ませていたギルドの者達に、アディエルを攫ってくるように命じた。


 ……惨敗だった。


 忍び込むどころか、彼らは簀巻きにされて、ヒルシェールの泊まっていた宿の部屋に放り込まれていた。


 外からでは無理だ……。


 ヒルシェールはそう判断し、内側から入り込めるようにしなければならないと考えた。

 何年も何年も作戦を考え、どうにかしてかの国の貴族をと結論を出した。

 そんな折、ギルドにかの国の貴族の情報を集めている他国の貴族がいると知らせが入った。

 侯爵家に関わるよりも、それ以外の貴族に関わる方が楽である。

 だからヒルシェールは、自分の手の者をそこへ紛れ込ませ、欲しい情報を得る仕事をするように命じた。

 侯爵家よりも王宮からの方がと判断したからだ。


 ヒルシェールが欲しいのはアディエル自身であり、アディエルの純潔が欲しい訳では無い。ならば、婚姻を済ませて気を抜いた時に事を起こせば良いと、計画を立てていたのだ。


 必要とした王宮の見取り図や警備体制の情報を手に入れ、ヒルシェールは浮かれていた。浮かれすぎていて気づいていなかった。

 あれだけ苦労して手に入らなかった情報が、調手に入ったことにーーーー。


 そんな折、突然皇帝である兄から、パーティーの参加を求められた。

 リーゼンブルクから、王太子が婚約をしたことへの祝いの返礼をしに来るというのだ。


 アディエルも共に来ると聞き、ヒルシェールは喜びに身体を震わせた。


 自国ならば、やりようはいくらでもあるし、使える手勢も多いのだ。


 すぐさま彼は、アディエルの泊まる予定の部屋を確認し、そこへ辿り着くまでの隠し通路の確認をした。

 アディエルの寝室へ向かい、二人でいるところを目撃されれば、婚約は破棄されると考えたのだ。


 本来ならば、手篭めにするだろうが、ヒルシェールにはアディエルを傷つけるつもりは無かったので、便解決するように計画を練ったのだった。


 そして、リーゼンブルクから王太子一行が到着したーーーー。

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