第15話

「…どういう事だ、ユリアナ……」


「っ!?」


 掛けられた声に驚き、振り向けば父親が立っていた。


「お、お父様…、これは……」


「打ち合わせ通りに飲ませたとはどういう事だっ!?お前は辺境伯家に嫁ぐために、伯爵への想いに区切りを付けるといったのではなかったか?」


 父親からの厳しい声に、ここは一先ず泣いて誤魔化そうとユリアナは口を開いた。


「そ、そんな訳あるわけないじゃない!何でこの方を諦めなければいけませんの!?間違えてるのはこの女の方ですもの!罰を与えてくれてやればいいのですわ!」


 しかし、出てきたのは本心で、止めようと思っても勝手に口が話してしまっていた。


「…それで?お前は伯爵夫人に何をしたんだ?」


 肩を落としながらも、侯爵は質問を続けた。


「…こちらの手の者を使用人に忍び込ませて、手紙や噂話で評判を落とすようにさせましたわ。後は頭のイカれた男にこの女を与えると約束して、今日は媚薬を飲ませて、この部屋でくれてやることになってましたのよ…」


 全部口に出した驚きで、ユリアナは口を両手で押さえ、ヘナヘナと床に座り込んだ。


「…ウソ。何で私……?」


 自分の意思に反して、口は勝手に言葉を紡いでしまった。

 よりにもよって、好いた相手の目の前で、だ。


 ノロノロと顔を上げると、恐ろしい顔つきで、彼はユリアナを見下ろしていた。


「…生憎、貴女のような性格の悪い方に、自分は相応しくないでしょう…」


 殺気の籠った視線を向けられ、ユリアナは真っ青になってガタガタと震え出す。


「あ…、あ…。何で?何で、こんな…」


「これは改善の余地はねえんじゃないか?」


 辺境伯ラクト・ダスティールは、ドアにもたれてそう言った。


「…ダスティール伯。何故こちらに?」


 倒れそうなくらい落ち込んだまま、ファム侯爵は、娘の婚約者にと選んだ男を見た。


「なあに。俺はこの国に知り合いが多くてですね。婚約者が決まったと連絡したら、色々ともらいまして。今回も俺が判断をするべきだと連絡が来たので、こちらに招かれていたのですよ」


 肩を竦めながら話したラクトは、ズカズカと座り込んでいるユリアナへ近寄った。


「で?、どうする気だ?」


 クイッと顎をしゃくって、ユリアナの処分を尋ねる。


「どう…とは?」


 右頬に手を当て、アディエルがコテンと首を右に傾げた。


「お前らんとこの国でやらかした問題だろ?うちにどう責任取らせるよ?」


「「っ!?」」


 その言葉にファム侯爵親子は真っ青を通り越し、真っ白な顔色になった。


「ふふ。ラクト様ったら、どうして私とカイ様が貴方をお呼びしたと?」


 肩を竦めて口元に手をやり、クスクス笑うアディエルと、そんな彼女の腰に手を置いて、静かに微笑むカイエンに、ラクトはポカンと口を開けたままでいるのだったーーーー。


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