第12話

 リーゼンブルク王国、国王マクスウェルの在位二十周年の式典は、近隣諸国の王族や高位貴族を招いて、豪華絢爛に開かれた。

 この式典では、王太子とその婚約者の正式な発表とお披露目もあるということで、各国は興味津々である。


 王太子となるカイエンが、婚約者を唯一の妃とする為に、国法に着手するほどの令嬢となれば、見てみたくなるのが人情というものであろう。


 そんな中、一人だけ考えの違う者がいた。


 隣国ターラッセンの侯爵令嬢、ユリアナ・ファムである。

 ゆるふわなハニーブロンドの髪をふわりと頭の上で一つに結わえて垂らし、鮮やかな緑色のベルベットのリボンを結んでいる。

 忍ばせている使用人から得た情報で、己の運命の恋人であるランディの衣装に合わせて、パステルグリーンの大人しめのドレスを身にまとっている。


 今日の彼は、パステルグリーンのチーフを胸のポケットにだから。


 彼と並んだ自分は、誰から見ても揃えた衣装だと気づくだろう。


「やあ、ファム侯爵。久しぶりですね。ユリアナ嬢もおいででしたか…」


 声をかけてきたユエインの背後には、協力者の男が今日の護衛として付いていた。


「…ご無沙汰しております、ユエイン殿下。以前は大変ご迷惑をおかけしまして、申し訳ございません…」


 心の中では、彼と自分の邪魔をよくもしてくれたなと思いつつも、を考えて、グッと表情を取り繕った。


「ご令嬢には申し訳なかったが、さすがに婚約者のいる者との仲を取り持つ訳には行きませんでしたから」


 にっこりと微笑んで言うユエインに、すぐ近くにあるワイングラスを手に取り、そのすました顔にひっかけてやりたくなる。


「そうそう。気持ちに区切りをお付けになりたいとの事でしたね。父君からお伺いしてます。ランディを呼びますね」


 そうして、背後のもう一人に頷くと、彼は相手を呼びに離れた。


「ありがとうございます…」


 ユエインが呼ぶまでもなく、ユリアナはランディが何処にいるか知っていた。

 妻である女を連れ、挨拶をしている姿を見かけたからだ。

 琥珀色のを身につけた女に、やはり彼に相応しいのは自分しかいないと、緩みそうになる口元を引き締めた。


「お呼びでしょうか、殿下?」


 そうして聞こえてきた声に、顔を向けてユリアナは目を疑った。


 彼の腕に手を添えて、憎い女が付いて来ている。それだけでも許し難いというのに、彼の胸元に視線が集中していた。

 パステルグリーンのチーフが入っているはずの場所には、女のドレスの共布で作られたのであろうのチーフが入っていたのだ。


 よく見てみれば、女の耳と首元を飾っているのは、ランディの瞳の色のような翡翠で、彼のカフスボタンは女の瞳と同じ淡い水色のアクアマリンだ。


 おかしい。昨日、連絡を貰った時には、確かにパステルグリーンだと聞いていたのに…。


 ユリアナは混乱しながらも、口元を引き攣らせながら笑みを浮かべた。


「……遅ればせながら、ご結婚おめでとうございます、グリオール伯爵…」


 周りを油断させるため、言いたくもない言葉を口にして、ユリアナは目の前の女ーーロゼッタを必ず苦しめてやろうと決意した。


 離れた場所から見られていることを知らないでーーーー。


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