第8話

「ランディ。済まないけど、君だけ付いてきてくれるかな?」


 ある日の午後。兄達と出かけるという第四王子の護衛を、ランディ・グリオールだけが指名された。


「自分だけ、ですか?」


「うん。護衛には王太子であるカイエン兄上の騎士もたくさんいるし、エイデン兄上の騎士もいるから、大所帯になるからね…」


 確かに三人の王子が移動するからと、護衛騎士全員が付いていけば、とんでもない集団になると、ランディは納得して頷いた。


「そういうわけだから、君達はボクが戻るまで、ゆっくりしているといいよ」


 にっこり笑う王子に、残された者は頭を下げて、自分達に与えられている詰所へと戻って行った。




「…………あの殿下…」


 ランディは言葉を失って、現在目の前にある建物と、護るべき王子に目を向けた。

 兄王子達と合流するなり、服を着替えされられ、馬車に乗せられて着いたのは貴族も利用しているというの前だった。


 呆気に取られているランディの目の前では、王子二人が慣れた様子で中に入っていく。


 慌てて追いかけるユエインの後を、ランディも護衛として追いかける。


「…殿下。こちらがどういう場所かご存知で?」


 コソッと耳打ちをすると、呆れた顔で見上げられた。


「…それくらいは知ってるよ…」


 では、何故ここに着たのか?そもそも王太子は妻を婚約者の令嬢のみとするという法まで作られたというのに、何故娼館に来ているのか?

 ランディは頭の中を混乱させつつも、護衛としてユエインに付き添った。


 通された部屋で、兄王子の護衛二人と並んでドアの側に立とうとすると、王太子から共に座るようにと言われた。

 ユエインからも従うように言われ、止むを得ず指示に従い、恐れ多くも言われた場所ーー王太子の向かい側に腰を下ろした。


「さて。グリオール伯爵。夫人の体調はどうだい?」


 唐突にカイエンに問いかけられた内容に、ランディは固まった。

 何故、娼館ここの応接間らしき場所で、自分の妻の話題が出たのか分からない。そして、どう答えたものか分からなかった。


 妻であるロゼッタは、夜の営みを拒みはしないが、結婚してからは屋敷から出ることを拒んでいる。社交もしないまま、ほとんど部屋に籠っている状況に、巷で流れている噂が事実ではないかと不安になっているのだ。

 その噂の事を確認しようと、ロゼッタに尋ねたところ、ハラハラと無言で泣かれてしまい、結局は分からずじまいで終わってしまった。


「聞いた話では、夜の方は全く…という訳では無いそうだね♪」


「っ!?」


 何故、自分達の閨事の情報を知られているのかと驚きつつも、王太子の婚約者が誰であるかを思い出し、心の中で納得した。


「…自分は何故そのような事を聞かれているのでしょうか……」


 ランディに対し、ロゼッタの親友であるシルフィア王女が、最近はかなりご立腹だと聞いていたので、それかと当たりをつけてはいた。


「んー。ちょっと色々困ったことが分かってね…。君達夫婦に協力を頼みたい。その代わりに、正しい知識を与えようって事になったんだ…」


 エイデンの言葉に首を傾げ、その後は教えられた内容に顔を青くし、与えられた知識に真っ赤になるランディを、扉の側にいた同僚二人は、気の毒に思いつつも見なかったことにするのであったーーーー。


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