第2話 どうすっかなぁ…
ゲオルギアという男は、やると決めた事は必ずやり通す男だ。それは訓練でも、戦闘でもそうだった。どんなに高い目標だろうと、相手がどんな強敵だろうと、自分でやると決めた事は必ずやり遂げてみせた。オレはそれをゲオルギアの長所だと思っていた。どんな窮地でも決して諦めない心。必ずやり通すという鋼の意思。オレはそんなゲオルギアを尊敬していた。
尊敬していたんだがなぁ……。
オレを追放すると決めたゲオルギアの行動は徹底していた。まず最初に、オレの荷物を残らず窓から外に捨てた。この時点でだいぶイカレてるが、奴のイカレっぷりはこんなものじゃない。次に奴の取った行動は常軌を逸してる。奴は剣を抜くなり、いきなりオレに斬りかかってきたのだ。オレが家を出るまで、奴はオレを追いかけ回した。あの目は本気でオレを殺そうとしてたね。手加減なんて無かった。おかげで奴の剣を受けたオレの左手はボロボロだ。血もかなり失った。
血を失ったのはデカい。傷は魔法で癒せるけど、失った血までは回復しない。暫く貧血だなこりゃ。
貧血でクラクラする頭を押さえて、道に散らばった荷物を集める。
「あの野郎、好き勝手やりやがって…!」
ご近所さんからの奇異の目にも負けず、漸く荷物をまとめ終える。こりゃ今日中に噂が広まっちまうなぁ…。
自分で言うのも恥ずかしいが、オレ達は新規新鋭の若手冒険者パーティとして有名だ。特に此処、ダンジョン都市ノルバレンタでは、知らない奴はモグリ扱いされるほどだ。冒険者が持ち帰るダンジョンの産物で成り立ってる都市だからね。市民も冒険者の動向には敏感なのだ。
明日の新聞の一面を飾ることになるかもしれないな。表題は何になるだろう?「若手の注目株『蒼天』が解散!?」「若手一位『蒼天』白昼堂々刃傷沙汰!?」「『蒼天』の聖騎士、脱退か!?」とかだろうか?新聞って大げさに書くからなぁ。もっと過激かもしれない。
オレ達がダンジョンの50階層を攻略したことも、十分ビックニュースになると思うのだがなぁ。なにせ、これで晴れてオレ達も上級冒険者の仲間入りだ。でも民衆はより過激な話題を求めてるらしい。よりキャッチ―な話題に食い付くだろう。
50階層突破で話題になるなら望むところだが、こんなパーティの恥を晒すようなことで話題になるのは恥ずかしい。
「世の中ままならんもんだ…」
と黄昏てみるが、現実は変わらない。今のオレは宿なしのホームレスだ。
「どうすっかなぁ…」
とりあえず宿だな。
オレはご近所さんのヒソヒソ話に背を向けて、荷物を抱えて歩き出した。
「ふーっ」
宿の一室で太い溜息を吐く。疲れた。二日酔いに貧血、重い荷物を担いでの移動でふらふらだ。体が休息を求めている。
ベットに倒れ込み、これからどうしようか考える。ゲオルギアのことだ、一日二日じゃ考えを改める事なんて無いだろう。これからどうするか、ある程度長めの計画を立てる必要がある。
「オレに足りないものがあるねぇ……」
頭を過るのはゲオルギアの言葉だ。そんな事初めて言われた。
自慢じゃないが、オレは小さい頃から自分に不足を感じた事は無い。体も大きく、運動神経も良かったから大抵のことはすんなりできた。
聖騎士の修行だってそうだ。剣術、盾術、神聖魔法。その全てをすんなりと最高レベルで習得できた。よく、未来の英雄、勇者と持て囃されたものだ。少なくとも同年代でオレに勝る奴はいないと思う。
冒険でだって自分の実力に不足を感じた事は無い。その証拠に、オレ達はさして苦労することなく、50階層まで攻略できた。この攻略速度は、若手のパーティの中じゃ頭一つどころか、二つ三つ飛び抜けて独走状態だ。当然、その実力も兼ね備えていると自負している。
「足りないもの……」
そんなオレに足りないものって何だ?
ゲオグラムはバカだし、直情的だし、考え無しだが、只のバカじゃない。一本筋の通った奴だし、その野生の感とも言うべき直感は目を瞠るものがある。オレ達も伊達や酔狂で奴をパーティリーダーにしている訳ではない。
そんなゲオルギアの言葉だ。何かしら意味があるのだろう。意味も無くこんな質の悪い冗談みたいなマネはしないはずだ。だから考えてしまう。まさか本当にオレに足りないものがあるっていうのか?
「あー…何なんだ。何が足りないってんだ?アイツもアイツだ。オレにも分からないけど何かが足りないってなんだよ?毎度毎度アイツの言葉は……。お前は預言者か何かか?意味深な言い方しやがって。足りないのはお前の言葉だろ!」
はぁ…。
アイツの物言いだと、オレが足りないものに気付いたらパーティに復帰できるみたいだった。「また一緒に冒険できるのを期待している」とか言ってたしな。逆に言えば、それまで復帰させる気は無いという事だ。アイツは自分の決めた事は何が何でもやり通す奴だからなぁ。ゲオルギアの性格が悪い方に作用している。最悪だ。
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