第71話 森野の日記③
【5月2日(日)】
今日はシェアハウスへの引っ越しの日。
最寄り駅まで、家族全員で送ってくれた。お土産もたくさん持たせてくれた。
笑顔で、お別れできてよかった。
これからは、本当の家族4人で仲良く暮らしてね。お母さん、今までありがとう。
私は自立してやっていけるよう頑張るから、大丈夫だよ。心配しないでね…。
改札口までは堪えていたけど、駅のホームで、ちょっとだけ、泣いてしまった。
いやいや、頑張ろう。本当に…。
渡されたシェアハウスのメモを頼りに、書かれた住所に行ってみると、それらしき建物が見当たらなかった。
でも、同じように辺りをウロウロしていた、里見先輩と合流する事ができた。
先輩に連絡してもらうと、目の前の素敵な新築の一軒家の方から、管理人の人が出て来て驚いた。
どうやら、シェアハウスというのは、この一軒家だったらしく、他に同居する人はいない…つまり、里見先輩と二人でここで暮らして行くって事らしい。
ええっと…、それって「同棲」…、いやいや、里見先輩は私の事、女じゃないって言ってたし、私も里見先輩を男の子として見なくていいと決めたのだし、ノープロブレムでしょう。むしろ、「共生」に近い的な?
それに、寝室は一階、二階にそれぞれ分かれてるし、鍵もかかるみたいだし、大丈夫!うん、大丈夫…。
私は気を取り直すと、自分の部屋に、荷物を運び込んだ。
「巻毛のアンナ」に出てくるお部屋のような、木製の家具と暖色のカントリー調に統一されたインテリアに私はうっとり。
荷物を紐解いていると、階上から、里見先輩の叫ぶような声が聞こえたので、行ってみると、私を見て、何だかすごく慌てているようだった。
相変わらず挙動不審な人だ。
でも、先輩の部屋のシンプルな内装も素敵だった。大きなベッド、いいなぁ…。
【5月3日(月)】
盲点でした!私は知らなかった…。イマドキの便利な家電も、使いこなせなければ、ただのでかい金属の塊にすぎないという事実を…。
昨日、IHクッキングヒーターの電源の入れ方と、ドラム式洗濯機の最低限の使い方だけは、渋々教えてくれたものの、家電プロフェッサー(里見先輩)はすぐ、二階のお部屋に閉じこもっておしまいになられた。
食器は手で洗うからよいとして、掃除がな…。
あ。そういえば、実家のクローゼットに、以前使っていた音のうるさい掃除機が眠っていたような…。
私はかくして、家を出た翌日に出戻るという恥を晒しながらも、掃除機をゲットしたのだった。
うう、昨日のあの涙何だった?
早朝早々重い荷物を運び、痛む腰をさすりながら、朝食を作り、掃除機をかけていると、里見先輩が、階下に降りてきた。
里見先輩は私が出した、朝食のほぼ全ての内容に文句をつけた。
ほん○しも封印されてしまった。一から出汁をとるのってどうやるんだっけ?
どうやら里見先輩は想像以上にお坊ちゃんのようだ。
お友達(新しい彼女さん?)と約束ができ、お昼がいらないと言われたときには心底ホッとした。
夕方頃、味噌汁の出汁をとっていると、
里見先輩が帰ってきて、花束をくれ、なんか色々口説いてきた。
急に何だろう?彼女さんとうまく行かなくて、なんかやけになってんのかな?
本当によく分からない人だ。
でも、お花はとても綺麗だったし、添えられた花言葉も、「感謝」とか健全な内容だったので、家政婦としてありがたく受け取る事にした。
ピンクの可愛い花を見ていると、今日の労働が少し報われるような気がした。
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振り返ってみると、同居した当初は、俺は文句を言うばっかりで、何もしないロクでもない奴だったな。
意地悪しないで、電化製品の使い方くらい、最初からちゃんと教えてやればよかった。
森野に物をあげたのって、あの花束が最初で最後だったんだよな。(デザートやピザを奢ってやることはあったけど。)しかも、恭介と賭けをして、森野を惚れさせて、言いなりにさせ、追い出そうとする計画で…。
どうせなら、もっといいものあげればよかった。
同じものでも、せめてもう少し気持ちを込めてやりたかったな…。
でも、森野はそんな贈り物でも喜んで、笑顔を見せてくれたんだよな…。
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